2015年12月28日月曜日

大正昭和の電力戦から予測する今後の電力業界

2016年4月から電力の小売全面自由化が始まり、2020年には送配電部門の法的分離が行われる。1951年に始まった発電、送配電、小売の垂直一貫体制による電力会社の地域独占は終わりを迎える。工場、オフィス、商業施設といった高圧需要については既に自由化が始まっているが、これまで本格的な競争は進んでこなかった。新電力の参入は見られるものの、電力会社同士の競争が進まなかったためである。しかし、原子力発電所が稼働停止に追い込まれたことで電力会社の経営状況は悪化している。人口減少による日本経済の縮小も確実である。今後は電力会社も生き残りを賭けて自由競争を戦う必要に迫られる。

ヨーロッパに遅れること20年、日本でも電力業界が自由競争の時代に突入することについて革新的と捉えるような風潮がある。しかし、日本の電力業界は過去に自由競争を経験したことがある。1939年に日本発送電が設立されて電力が国家に管理されるまで、戦前の日本では電力会社が市場をめぐる争奪戦を繰り広げていた。特に1920年代からは電力会社が集約されて、東京電燈、東邦電力、大同電力、日本電力、宇治川電気の五大電力会社による壮絶な電力戦が行われた。100年前に起きた電力戦は今後の電力業界を予想する上で大いに参考になると思われる。

日本最初の電力会社である東京電燈が設立されたのは1883年のことであった。戦前の日本は水主火従の電源構成であったことが知られるが、明治時代は火力発電が中心であった。日本の工業化と都市化が進むにつれて電力需要は増加し、これに応える形で各地で次々と電力会社が勃興した。電力需要の中心である鉄道事業を兼業する電力会社が多く、東京電燈も江ノ島電鉄などの経営を行っていたことがある。大正時代に入ると水力発電所の開発が始まり、大規模電源を獲得したことで電力会社は価格競争による需要獲得を目指すようになる。この過程で資本力の弱い電力会社は破綻あるいは買収されて、先に述べた五大電力会社に集約されるようになった。

五大電力の内、大同電力と日本電力は卸売に特化した電力会社であった。1914年に第一次世界大戦が始まると戦争特需によって日本は好景気に見舞われ、景気の上昇に伴って電力需要も増加したため電力不足が懸念されるようになった。これに対応すべく、山岳地帯での水力電源開発と首都圏、中京圏、関西圏の三大市場に向けた長距離高圧送電線を整備する動きが出る。大同電力は木曽川流域で、日本電力は北陸地方で水力発電所の開発を進め、1920年代には大規模電源が次々と生まれることになった。大同電力と日本電力は自前の供給先をほとんど持たなかったため、各地の電力会社に電力を供給することで経営を成り立たせていた。

しかし、第一次世界大戦の終戦によって1920年代から日本は不況の時代に突入する。1923年には関東大震災が発生し、銀行の破綻も相次いだ。1929年にアメリカ合衆国を震源として世界恐慌が発生すると、1930年には戦前で最も深刻な不況と言われる昭和恐慌が到来する。不景気になったことで電力需要の伸びは鈍化した一方、次々と水力発電所が開発されたために電力市場は供給過剰の状態に陥った。新興の電力会社である大同電力と日本電力は低コストな電源を武器に、既存の電力会社に対して価格競争を挑むことになる。首都圏の東京電燈、中京圏の東邦電力、関西圏の宇治川電気は守勢に立たされることになり、東邦電力は日本電力から、宇治川電気は大同電力から電気の供給を受けることを強いられる。

東邦電力は一時は劣勢に追い込まれたものの、副社長である松永安左エ門の科学的経営と称されるコスト削減によって価格競争力を取り戻す。東邦電力は群馬電力と早川電力を買収して両社を東京電力(現在の東京電力とは異なる)に再編し、首都圏の電力市場をめぐって東京電燈に価格競争を挑むことになる。東邦電力と東京電燈の競争は激しく、採算度外視の価格競争は両社の経営状況を悪化させることになった。最終的に電力事業を所管する逓信省と金融機関の仲裁によって、東京電燈は東京電力と合併することとなった。電力戦は小規模な電力会社を淘汰し、巨大な五大電力を生み出すに至った。しかし、その五大電力でさえも長引く価格競争によって経営状況を悪化させ、最終的に国家統制を受けるようになったというのが電力戦の顛末である。

電力戦は水力発電所の開発と不況による電力の供給過剰が主要な原因であった。現在の状況を見ると、原子力発電所の停止によって電力需給が逼迫し、首都圏を中心に大規模な火力発電所の開発計画が相次いでいる。また、再生可能エネルギーの固定価格買取制度によって太陽光の発電量が急増している。九州電力の川内原子力発電所を皮切りに、今後は停止していた原子力発電所が次々と再稼働に向かう見込みである。火力発電所の新増設、太陽光発電の普及、原子力発電所の戦線復帰、これらによって日本の電力市場は100年前と同じような状況に陥る可能性がある。石炭火力の規制、太陽光発電の買取価格下落など、将来の供給過剰を抑制する動きは出ているが、一歩間違えれば戦前の二の舞になりかねない。電力市場が供給過剰になることは消費者からすると良いことのように思われるが、電力会社の経営が安定しなければ発電所や送電線への投資が減少して、将来的に電力の安定供給が保たれなくなる可能性がある。

電力戦では資本力の強い電力会社が他の電力会社を呑み込む形で供給地域を広げて肥大化していった。電力会社で最も規模の大きな東京電力は福島第一原子力発電所の廃炉と賠償でM&Aに資金を回している余裕はない。また、二番手の関西電力も原子力発電への依存度が高く、他の電力会社が黒字化を果たす中で未だに赤字経営を脱却できていない。こうなると原子力発電への依存度が低く、財務状況が比較的良好な中部電力が台風の目となりそうである。電力戦においても中京圏を拠点とする大同電力と東邦電力は首都圏にも関西圏にも進出できる地の利を活かして、電力戦を仕掛ける立場であった。

北陸電力と中部電力 合併の可能性において予測したように、石炭火力の規制と志賀原子力発電所の活断層問題に苦しむ北陸電力は中部電力の傘下に加わる可能性が高い。北陸電力の水力発電所と石炭火力所は中部電力に安価な余剰電源を与え、同社が首都圏と関西圏に進出する上で大きな武器となる。中部電力と東京電力は燃料調達と火力発電所の新設において事業を統合したが、電力戦は協調と対立の歴史であった。発電部門で協力するからと言って、小売部門で対立しないとは限らない。さらに中部電力は天然ガスの調達やパイプラインの運営で大阪ガスと協力関係にあり、関西圏の電力市場を狙って両社が合併する可能性も大いに有り得ると考える。中部電力の発電所と大阪ガスの顧客網が組み合わされば、原子力発電所の停止によって電気料金が跳ね上がっている関西電力からシェアを奪うことは造作もないだろう。

中部電力と大阪ガスの関係は東北電力と東京ガスにおいても言える。東北電力と東京ガスは北関東の高圧需要家向けに電力を供給するシナジアパワーという新電力を設立したが、これは将来両社が共同で首都圏の電力市場に参入する布石ではないかと思われる。電力戦においては需要家の確保が何よりも重要で勝負の決め手となった。電力会社と同じく地域独占で需要家を持つガス会社は、電力会社が供給先を確保するために是非とも提携したい存在である。隣接する地域の電力会社とガス会社は必然的にペアを組むことになり、電力戦のときのように資本力を増やすため合併に至る可能性も高い。自由競争が始まって10年も経つ頃には、ガス会社を巻き込んで電力会社も複数のグループに集約されているのではないだろうか。

2015年12月27日日曜日

ごちうさメンバーを国に例えるなら

ごちうさメンバーは国に例えるのが簡単で、国がモチーフになっているのではないかと思われるくらいである。まず、主人公のココアはアメリカ合衆国である。明るく社交的で気持ちをストレートに表現する性格はアメリカ人そのものである。ココアはチノを妹のように溺愛しているが、四兄妹の末っ子という生い立ちが妹好きの性格につながっている。アメリカ合衆国も18世紀に誕生した歴史の新しい国であり、今ではイギリスの庇護者としてお姉さん的存在になっている。ココアの実家はパン屋であり、ココアは小麦粉のような匂いがすると千夜に評されているが、これも農業大国で小麦の生産量が多いアメリカ合衆国のイメージと共通している。ココアは将来の夢として、パン屋、バリスタ、小説家などを挙げているが、その中の一つに弁護士というのがある。兄の影響で弁護士に憧れを抱いているらしいが、弁護士といえば司法の力が強いアメリカ合衆国の代表的な職業でもある。ちなみにココアの原料であるカカオもアメリカ大陸原産である。

もう一人の主人公であるチノはイギリスに例えられる。礼儀正しいがシャイで気持ちを素直に伝えられない性格はイギリス人と良く似合ている。イギリスとアメリカ合衆国は姉妹国の関係にあり、これもココアとの関係に一致する。チノの趣味であるチェス、ボトルシップ、パズルはいかにもインドアなイギリス人が好みそうである。チノは家業の喫茶店を継いでバリスタになることを志しているが、これも伝統を重んじるイギリス人のようである。ごちうさはイギリスの児童小説である不思議の国のアリスをエッセンスとして取り入れており、そのエッセンスは主にチノに振り向けられている。

軍人に憧れを抱くリゼは歴史的に軍事国家としてのイメージが強いドイツが似合う。文武両道の秀才で、真面目かつ頑固な性格もドイツ人と同じである。ヨーロッパ人の間ではドイツ女性はワイルドで男勝りなイメージがあるらしく、これもリゼと共通する点である。リゼは豪邸に暮らすお嬢様としての一面も持っており、ヨーロッパ一の富裕国であるドイツが意識されているような気がする。ちなみにラビットハウスのメンバーを国に例えると、アメリカ合衆国、イギリス、ドイツといずれもゲルマン系の国家になった。

千夜は名前が一人だけ漢字であることからも明らかに日本である。和風喫茶甘兎庵の看板娘であるため基本的に和服を着ており、黒髪の大和撫子といった雰囲気はこれでもかと言うくらい日本っぽさが意識されている。人の影響を受けやすいところ、オカルトや噂話の類が大好きなところも日本人という感じがする。おっとりした性格の千夜は明るく社交的なココアと仲が良く、日本とアメリカ合衆国の関係に似ている。チノと同じく家業の喫茶店を継ぐことを志しており、これも伝統を重んじる日本人のようである。

最後にシャロはフランスである。クールで少し気取ったところのある性格はフランス人に似ていて、お嬢様っぽい華やかな雰囲気もブルボン朝時代の豪華なヴェルサイユ宮殿や洗練されたパリの街が似合いそう。華やかなイメージとは違って実は貧乏なところも、パリの他には農村しかなく、商業でイギリスに負け、工業でドイツに負けたフランスと重なる部分がある。チノのラビットハウスが英語であるのに対して、シャロが働く喫茶店フルール・ド・ラパンもフランス語である。年下であるチノを例外としてシャロはスレンダーなスタイルであることが特徴であるが、実はフランス人も欧米の中ではスレンダーなスタイルで有名である。アメリカ合衆国やイギリスでは3人に1人が肥満であると言われるが、フランスでは10人に1人もいない。

2015年12月25日金曜日

電力比較サイトエネチェンジについて

電力比較サイト エネチェンジがなかなか面白い。契約メニューとアンペア数、毎月の電気料金、住所、世帯人数、オール電化住宅かどうか、電気を使うのは主に昼か夜か、これらの質問に答えると最適な電気料金のプランを提案してくれる。例えば夫婦二人暮らし、共働きで帰宅は夜10時過ぎみたいな家庭であれば、一般的な従量電灯から時間帯別電灯の契約への変更を勧められるといった具合である。ただし、このサイトが本領を発揮するのは2016年4月に控える電力の小売全面自由化以降である。どの電気料金のプランが適しているかだけではなく、どの電力会社のプランが適しているかも教えてくれるためだ。

昨日、新電力の本命である東京ガスが低圧向けの電気料金プランを発表した。東京電力の従量電灯に該当する「ずっとも電気」の契約は使用量の多い世帯にとってメリットのある契約である。ナショナル・ミニマム(国家が国民に保証する最低限の生活水準)と省エネの観点から、電気は使えば使う程に1kWh当たりの単価が高くなる仕組みとなっている。東京ガスのプランは1kWh当たりの単価の上昇を低めに抑えるもので、使用量の多い世帯を東京電力から奪おうとするものである。首都圏に住む使用量の多い世帯がエネチェンジで診断すると、恐らく東京電力から東京ガスへの乗り換えを勧められることだろう。ちなみにWebサービスだけでは不安という人は「でんきコンシェルジュ」というのに相談できるらしい。「でんきコンシェルジュ」というのは何だかセンスのない名前だと思うが、エネチェンジのサービス自体はこれから非常に需要の出てくるものだと思う。

電力会社もエネチェンジのようなWebサービスは既に開始している。東京電力のでんき家計簿、関西電力のはぴeみる電が有名で、膨大な顧客データに裏打ちされたサービスは電力会社の強みである。また、電力会社のコールセンターに電話をすれば最適な契約メニューや電気の使い方について相談することができる。しかし、電力会社が新電力への乗り換えを勧めるわけがないので、新電力への乗り換えを検討している人はエネチェンジの「でんきコンシェルジュ」に問い合わせるのかもしれない。エネチェンジが特定の電力会社と利害関係を持つようになれば問題であるが、中立的な立場を維持する限りは電力会社を選ぶ上で頼りになる存在である。

他にもエネチェンジのサイトには電気料金の節約に役立つ記事が掲載されている。電気料金が高くて悩んでいる人は電力会社を変更する前にこちらを読むべきかもしれない。例えば、冬季の大幅な電気料金上昇を防ぐため、エアコンや電気ストーブといった暖房機器の最適な使い方、電気の使用量を少しでも抑えるための工夫について書かれている。他にも電気製品、オール電化、太陽光発電、エネファームなどについて記事が掲載されており、なかなか充実している。エネチェンジのサイトを訪れる人は電気料金を少しでも安くしたいという人に違いないので、需要に合った記事を掲載しているわけである。

また、電力自由化について夢見がちな人も多いが、エネチェンジの経営陣はなかなか現実的な考え方をしているようである。東京電力の執行役員だった人が何故かエネチェンジの副社長をしており、元東京電力・執行役員がわかりやすく解説!知らなきゃ損する電力自由化という記事で電力自由化について解説している。電力事業は莫大な投資を必要とするため資本力のある大企業しか生き残れないと述べているが、全くその通りだと思う。新規参入組で生き残れるのはガス会社(東京ガス、大阪ガス)、石油会社(JX日鉱日石エネルギー、出光興産)、総合商社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅)、通信会社(ソフトバンク、KDDI、NTT)くらいだろう。小さな電力会社は発電能力を確保できず、ペナルティを受けて市場から撤退を迫られるかもしれない。そのときに困るのは消費者なので電力会社選びは慎重にというアドバイスには納得である。

東京電力の元執行役員がいることにも驚いたが、スタッフ紹介のページを見てさらに驚いた。何というかエリートしか載っていない。会長は電力自由化で先行するイギリスにおいて電力のビッグデータ解析などを行うシステム開発会社を設立した人で、社長はJPモルガン証券とグリーを経て会長と合流したという経歴の持ち主。もちろん外資系の会社などに勤めたことがないので分からないが、外資系出身というだけで優秀な人物のように見える。他のスタッフも若い感じだが、東京大学、京都大学、一橋大学といった一流大学の出身者ばかりである。2015年4月に設立されたばかりのスタートアップであるエネチェンジ、果たして電力自由化後の日本においてイノベーションを起こすことができるだろうか。

2015年12月20日日曜日

日本に必要な移民政策

急増するシリア難民とイスラム国によるパリ同時多発テロにより、ヨーロッパでは移民問題が再燃している。第二次世界大戦後、西欧諸国は不足する労働力を補うために積極的に移民を受け入れた。移民の多くは植民地など経済的なつながりが深い地域の出身で、イギリスはインドやパキスタン、フランスは北アフリカやイベリア半島、ドイツはトルコや東欧から多くの移民を受け入れた。その結果、移民の背景を持つ人口はイギリスとフランスで1割、ドイツでは2割にまで膨れ上がった。今や経済的に貧しい移民は社会の負担となり、宗教や文化の違いによって生じる摩擦は後を絶たない。モスク建設に対する反対運動、ムスリムの暴動、ヨーロッパの街において移民は様々な問題を引き起こしている。日本にとってもヨーロッパの移民問題は他人事ではない。人口減少社会に突入したことで、日本でも1000万人単位での移民受け入れが検討されているためだ。

ヨーロッパの移民問題を考えると移民の受け入れには消極的となってしまうが、移民で成功している国もある。それは世界の覇権国家アメリカ合衆国である。アメリカ合衆国は歴史的に移民の国であるが、現在もアメリカン・ドリームは健在で、優秀な人材はアメリカ合衆国に移住する傾向にある。アメリカ合衆国の経済においてIT産業は重要な地位を占めるようになっているが、インド出身の移民が多くIT産業に従事していることは有名である。グーグル、マイクロソフトのCEOはインド出身の移民であり、優秀な人材を海外から受け入れることがアメリカ合衆国の経済を支えている。日本やドイツといった先進国の多くが人口減少によって経済の縮小を余儀なくされる中、アメリカ合衆国は移民によって人口を年間1%の割合で増加させており、将来も有望な市場として海外から投資を集めることに成功している。

歴史的にも移民で成功した国は多くある。例として近世のプロイセンが挙げられる。ルイ14世がフォンテーヌブローの勅令によってフランスからユグノー(フランスのカルヴァン派)を追放すると、プロイセンは積極的にユグノーを受け入れた。2万人のユグノーがプロイセンに流入し、ベルリンの人口は1/3がフランス人となる程であった。ユグノーの多くは商業や工業に従事していたため、彼らが持っていた資本や工業技術はプロイセンの経済発展に大きく寄与した。プロイセンは宗教に寛容な姿勢を示し、ユグノーの他にも経済的な先進地であるネーデルラントから積極的に移民を受け入れている。プロイセンはやがてオーストリアやフランスとの戦争を経て、ドイツ帝国を築き上げることになるが、積極的な移民の受け入れによる経済発展がその礎となっていた。

日本の移民政策を議論するとき、大抵は日本人が就きたがらない建設業やサービス業に従事する移民を中国や東南アジアといった発展途上国から受け入れることが想定されている。彼らは最初から社会の底辺を補うための道具として考えられており、そのような移民政策ではヨーロッパのように移民が将来の社会問題になることは間違いないだろう。現在でさえ在日の朝鮮人や中国人に充てられる社会保障費が大きいということで社会問題になっている。日本に必要な移民政策は過去のプロイセンやアメリカ合衆国のように優秀な人材を海外から集めることである。つまり数より質の移民政策が求められる。

日本にはアメリカ合衆国や中国のように経済的な勢いはないが、世界トップクラスの暮らしやすさがある。イギリスの情報誌MONOCLEは2015年の住みやすい都市ランキングで東京を1位に選んでおり、世界4大都市(ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京)でTOP10にランクインしているのは東京だけである。福岡と京都もTOP25にランクインしており、東京を中心に日本の都市は海外から人々を集めるだけの実力を有していると思う。日本の治安の良さは世界的にも有名で、移住後の暮らしやすさを武器として日本は積極的に海外から優秀な人材を集めていくべきである。

問題は日本では英語が通用しないことだろう。アメリカ合衆国、イギリス、カナダ、オーストラリアといったアングロサクソン諸国で英語が通用するのは勿論であるが、英語圏ではないフランスやドイツといった国々でも英語はある程度通用する。イギリスの裏側に位置する日本で英語が通用しないのは当然と言えば当然ではあるが、このままでは優秀な移民は他の先進国に奪われてしまう。楽天、ユニクロなどの企業は英語を社内公用語として採用しているが、そうした企業は非常に珍しい。これからは総合商社、メーカーなど海外との関わりが深い企業を中心に英語で仕事ができる環境を整えていく必要がある。また、英語のみで暮らせる移民特区を東京につくるのも良いだろう。生活と仕事の両面で英語環境が整えられた地域があれば、日本への移住の足掛かりになるはずである。

2015年12月19日土曜日

2015年アニメランキング

1位 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続
ひねくれぼっちの高校生を描いた学園ラブコメ作品。他人との関係を避けてきた比企谷八幡は強制的に奉仕部に入部させられ、雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣と一緒に生徒の問題解決を手助けする部活動に取り組むことになる。文化祭の事件を経て学校中から嫌われるようになった八幡ではあるが、雪乃との間には確かな信頼関係が生まれていた。しかし、八幡の自己犠牲を是とした問題解決方法は奉仕部に亀裂をもたらしていく。さらに三人の関係は友情と恋愛感情が入り混じった複雑なものとなっていく。

このライトノベルがすごい!で三連覇を達成した作品だけあって、ストーリーもキャラクターも秀逸。八幡の自己犠牲による問題解決と奉仕部の三人のギスギスした関係は見ていて胃が痛くなってくるが、ここまで精緻に人間関係を描いたアニメは他になく名作と呼ぶに相応しい。2期から登場した「あざと可愛い後輩」一色いろはもかなり好きなキャラクターである。物語も佳境に入り、奉仕部三人の関係はどうなるのか、今後の展開が非常に気になる作品である。

2位 冴えない彼女の育てかた
美少女クリエイターたちと美少女ゲームをつくるラブコメ作品。桜舞い散る坂の下で出会った加藤恵に運命を感じた安芸倫也は重度のオタクで、彼女をメインヒロインにした美少女ゲームをつくることを決意する。付き合いの良い加藤恵を強引にサークルに引き込んだ倫也は同人イラストレーターの幼馴染である澤村・スペンサー・英梨々、先輩でライトノベル作家の霞ヶ丘詩羽もサークルメンバーに加入させる。倫也は加藤恵の助けを借りながら、癖のあるクリエイターたちとゲーム制作に取り組んでいく。

この作品はキャラクターが魅力的で、美少女クリエイターの二人、金髪ツインテールのツンデレ幼馴染と黒髪ロングの毒舌先輩が素晴らしいのはもちろん、メインヒロインの加藤恵は過去に例のない最高のヒロインとなっている。表情や口調がフラットな加藤恵はどこにでもいそうな普通の女の子で、アニメのメインヒロインになるようなタイプの女の子ではないが、美少女クリエイター二人が個性的すぎる故に安心感のある一番の萌えヒロインとなっている。原作者が美少女ゲームのシナリオライターというだけあってキャラクターの設定が絶妙なバランスで、近年の萌えアニメの中では頭一つ抜けている印象を受ける。ただの萌えアニメというわけでもなく、クリエイターについて結構リアルに描いている作品であると思う。アニメでは原作1巻から4巻までを消費しているが、7巻がシリアス展開で革命的に面白いので是非2期に期待したい。

3位 ご注文はうさぎですか??
木組みの家と石畳の街で繰り広げられる喫茶店を舞台にした日常系作品。高校入学を機に憧れの街に引っ越すことになったココアは喫茶店ラビットハウスに下宿することになる。ココアはラビットハウスの一人娘チノの自称姉として、チノと一緒にラビットハウスで働く。ラビットハウスのもう一人の店員であるリゼ、和風喫茶甘兎庵の看板娘である千夜、千夜の幼馴染であるシャロとの出会いもあり、喫茶店を舞台に5人は楽しい毎日を過ごす。

ごちうさは2期も相変わらず癒しの時間を提供してくれた。日常系作品の代名詞と言えるまでに成長した本作だが、1期に比べてストーリー性も感じるようになった。2期はココアの姉モカがラビットハウスに遊びにやって来るが、モカが実家に帰るシーンはココアもやがてチノの元から去ってしまうことを想起させた。以前はココアがチノに依存しているような感じだったが、現在はチノがココアに依存しており、二人の関係が今後どうなっていくのかも気になるところ。ココアとチノの関係は何だか由比ヶ浜と雪ノ下の関係に似ているような気がする。

2015年12月14日月曜日

SAOプログレッシブ4巻 感想

ソードアート・オンライン プログレッシブ (4) (電撃文庫)
川原礫
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2015-12-10)
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このライトノベルがすごい!の2016年版で作品部門2位に輝いたソードアート・オンラインの番外編。アインクラッド攻略を第1層から詳細に書き直すという試みで、第1層のフロアボス攻略後にキリトとアスナが別れていなかったという衝撃の展開から今回で4巻目。本編のアリシゼーション編は退屈すぎてロニエとティーゼが登場した辺りから読み進めていないが、プログレッシブはアインクラッド編と並ぶ面白さを維持し続けている。やはりソードアート・オンラインの面白さの本質はアインクラッドに凝縮されていると言える。アスナとの仲を深めながら、デスゲームとなったアインクラッドを攻略していく展開はやはり面白い。

3巻はダークエルフのヨフィリス子爵とキズメルの協力を得て、第4層のフロアボスを倒したところで終わった。第4層は水路がテーマの華やかなエリアで、ゴンドラも登場してヴェネチアのような雰囲気を醸し出していた。4巻の舞台となる第5層は遺跡がテーマのエリアで、第4層とは異なって暗く不気味な雰囲気となっている。ベータテストにおいてPK(Player Kill)が横行したフロアで、キリトはモルテとの決闘からPKを狙う殺人者がデスゲームとなったアインクラッドにも現れることを懸念する。対人戦に慣れないアスナは自らデュエルをキリトに申し出るが、キリトにレイピアを向けることに耐えられずにアスナはデュエルを続行できなくなってしまう。

第5層では絶景レストランでのディナータイム、神殿跡での宝探し、地下墓地の幽霊クエストなどを行うキリトとアスナ。デスゲームのはずなのに、相変わらずデートっぽいことをしている二人。情報屋アルゴと連絡が取れなくなったところから4巻のシリアス展開がスタート。アルゴを探しに地下墓地ダンジョンに一人で向かったキリトを追うアスナは落とし穴のトラップによって、ダンジョン最深部へと落下してしまう。運悪く主武器であるシバルリック・レイピアをモンスターに奪われ、絶体絶命の状況に陥るアスナであったが、偶然からDKBとALSの対立を目論む二人の男の会合を盗み聞きすることになる。一人はモルテ、もう一人はALSのジョーで、偶然にモンスターを倒したジョーによってシバルリック・レイピアを奪われてしまう。しかし、ここでキリトが颯爽と登場。機転を利かせたアスナがレイピアを取り戻し、絶体絶命の状況を抜け出す。

地下墓地ダンジョンを脱出したキリトとアスナは結局アルゴが無事であったことを知る。そしてモルテとジョーの会合から、ALSがDKBを出し抜いて単独で第5層フロアボスの攻略を狙っていることを知ったキリトとアスナはその理由を探ることにする。DKBとALSは新年を祝う合同パーティーを企画しており、企画の中心であるDKBのシヴァタとALSのリーテンから事情を聞き出す。ちなみにリーテンのハイクラス防具を作成した鍛冶屋の女性プレイヤーとはリズベットのことだと思われる。以前から鍛冶屋の女性プレイヤーについて触れられることがあり、リズベットは意外にもハイクラスの職人なのかもしれない。キリトのダークリパルサーを作成したのだから当然といえば当然ではあるが。今後アスナはリーテンを通じてリズベットと仲良くなるのかもしれない。

ALSが抜け駆けしてフロアボスを攻略しようとしているのは、第5層のフロアボスが今後の攻略を左右するレアアイテムをドロップするためであった。そのレアアイテムとはギルドフラッグであり、ギルドフラッグの半径15mにいるギルドメンバー全員に支援効果がかかるというものであった。攻略組の二大ギルドであるDKBとALSは勢力において拮抗しており、両ギルドが切磋琢磨することで攻略がスムーズに進んできた。しかし、今後はギルドフラッグを獲得したギルドが圧倒的な優位に立つことになり、もう片方のギルドは崩壊の危険さえある。ギルド崩壊によって攻略が遅延することを恐れたキリトはアスナと共にALSより先にフロアボスを攻略することを決意する。

フロアボスの攻略に協力したのはアルゴ、ネズハ、エギルのチーム4人、DKBのシヴァタとハフナー、ALSのリーテンとオコタンであった。久しぶりにフロアボス攻略シーンに長々とページが割かれたが、今回も死者を出すことなくフロアボスを攻略することに成功する。戦闘後、誰がギルドフラッグを入手したのか分からず疑心暗鬼に陥る一幕もあったが、キリトの機転によってALSのオコタンが名乗り出て、無事にギルドフラッグはキリトが預かることとなった。ラストはキリトとアスナが古城遺跡のテラスからパーティーの花火を見物しながら新年を迎えるところで終わるが、キリトはここで黒ポンチョの男と邂逅する。恐らく後のラフィン・コフィンのリーダーであるPoHであると思われ、PK集団がいよいよ蠢き始めてきたというところで続きは次巻となった。

今回はキリトとアスナの関係がこれまで以上に深まっており、アスナ視点のモノローグから既にキリトにかなり好意を寄せていることが分かった。第74層のフロアボスであるグリムアイズを倒してキリトとアスナは結婚を決意するが、第5層の段階で心情的にはそのレベルにまで達しているような気がする。ここから二人がどのように別れることになるのか展開は読めないが、ALSが壊滅する第25層が一つの転機となるかもしれない。もしかしたら今回登場したリーテンも第25層で死んでしまうのかも。ただし、第27層でキリトが加入していた月夜の黒猫団が壊滅するので、それまでにはアスナと別れていないと辻褄が合わないか…。第22層にキリトとアスナは後に家を購入するが、二人ともこの層で一緒に過ごすのは初めてのようだったので、二人が別れるのは結構早いのかもしれない。第9層まで続くエルフクエストの結末も一つの転機になりそう。アインクラッド本編で登場しないことから、キズメルは死亡フラグが立っているような気も…。

2015年12月13日日曜日

宮城・山形旅行計画

宮城県と山形県を中心に2泊3日の旅行計画を組んでみた。3/11(金)~3/14(月)を予定しているものの、この時期は3連休を取るのがやっとだと思うので自分のいる3日間の計画のみ。

◆1日目
東京→仙台(東北新幹線はやぶさで1時間30分)
仙台市内を散策
牛タンとずんだ餅を食べる
仙台→銀山温泉(車2時間20分)
温泉街を散策
銀山温泉泊

仙台城


銀山温泉

◆2日目
銀山温泉→山形(車1時間20分)
山形市内を散策(かの有名な山形大学も)
山形といえば蕎麦、玉こんにゃく、いも煮とか?
山形→蔵王温泉(車30分)
ロープウェイで樹氷を見学
スキー場で雪遊びをしても良いかもしれない
蔵王温泉泊

文翔館

霞城

蔵王樹氷

蔵王温泉

◆3日目
蔵王温泉→松島(車2時間)
松島を散策
焼き牡蠣を食べる
松島→三井アウトレットパーク仙台港(車30分)
ここのアウトレットは東北のグルメやお土産も扱っている
三井アウトレットパーク仙台港→仙台(車30分)

松島

三井アウトレットパーク仙台港

他に行くとしたら世界遺産の平泉、秘湯で知られる乳頭温泉など。ただし遠い。

2015年12月11日金曜日

ヨーロッパのユニークな政党

ヨーロッパはユニークな政党が多くて面白い。今後のヨーロッパ情勢を左右するかもしれない主要国の政党を挙げてみた。

1.国民戦線(フランス)
反EU、移民排斥を掲げるフランスの極右政党。反EUを掲げているにも関わらず、2014年の欧州議会議員選挙ではフランスにおいて最多議席を獲得して話題となった。今月の地域圏議会選挙でもフランソワ・オランド率いる社会党、二コラ・サルコジ率いる共和党を抜いて第一党の地位を獲得している。イスラム国によるパリ同時多発テロの影響も大きいと思われるが、現在の党首マリーヌ・ル・ペンは穏健派として知られており、国民戦線は極右だけではなく幅広い層から支持を集めるようになっている。特にオランド大統領の自由主義的な政策が左派の社会党離れを引き起こしており、国民戦線はその受け皿となっているようである。フランス国民が国民戦線に政権を委ねる日も近いのではないかと思われる。先進国の中で最も人口問題に力を入れているフランスは2050年代にドイツの人口を超える見込みである。強大化するフランスに極右政党の組み合わせは危険な香りがする。ナチスドイツのユダヤ人排斥と同じようなことが繰り返されることはあるのだろうか。

2.同盟90/緑の党(ドイツ)
ドイツ五大政党の一角を担う環境政党。脱原子力、風力発電の促進といったドイツの環境政策はこの政党によって支えられていると言っても過言ではない。2015年のパーソン・オブ・ザ・イヤーに輝いたキリスト教民主同盟のアンゲラ・メルケルが首相に就くまで、社会民主党と連立政権を組んでいたこともある。日本でも2012年衆院選において日本未来の党という環境政党が立ち上げられたが、脱原発の世論を味方に付けることもできずに悲惨な結果に終わっている。やはり環境政党がこれだけ影響力を有しているドイツは珍しい国だと思う。もっとも電気料金の上昇や厳しい環境規制など、ドイツ産業界は緑の党によってかなり苦しめられているみたいである。環境と経済のバランスをどのようにとるか、日本の環境政策は先行するドイツを教訓にする必要がある。

3.スコットランド国民党(イギリス)
スコットランドの独立を目指す地域政党。イギリスは保守党と労働党による二大政党制で知られているが、2015年の下院選挙でスコットランド国民党は650議席中56議席を獲得して第三党に躍進した。この56議席は全てスコットランドで獲得したものであり、スコットランドに割り当てられた59議席のほぼ全てを獲得している。2014年9月のスコットランド独立をめぐる住民投票は僅差で反対派が勝利したが、敗れた独立派の思いが下院選挙での劇的な勝利につながったのかもしれない。得票率ではEU離脱を訴える独立党、かつて二大政党制の一翼を担っていた自由民主党の方が上回っていたが、小選挙区制というルールでは地域政党が圧倒的に有利である。今後スコットランド国民党はイギリス政界のキャスティングボードを握る存在となるかもしれない。

4.北部同盟(イタリア)
経済的に豊かなイタリア北部の自治拡大を訴える地域政党。イギリスのスコットランド国民党と異なり、独立ではなく連邦制の導入を目標としている。金融都市ミラノ、港湾都市ジェノヴァ、工業都市トリノといったイタリア有数の都市が密集するイタリア北部はイタリア経済の牽引役であり、産業に乏しくマフィアが跋扈するイタリア南部との格差は大きい。イタリア北部の人々は自分たちの経済的成功が南部の穴埋めに使われていることに怒りを感じており、北部同盟への支持は根強いものがある。同じような構図はスペインのカタルーニャ地方、ベルギーのフラマン人地域にも見られる。日本では大阪都構想と共通するものがあるかもしれない。もっとも日本は東京一極集中で、地域色の強い東北、関西、九州、沖縄であっても日本から独立しようという考えは皆無だろう。

2015年12月6日日曜日

2016年の原油価格はどうなるか

2015年の原油価格は低調な傾向が続いた。2014年の夏頃まで原油価格は1バレル100ドル以上で推移していたが、2014年の後半に急落して40ドル台に突入した。これはアメリカ合衆国の住宅バブル崩壊に端を発する2008年の世界金融危機のときに並ぶ低価格である。2015年の前半に60ドルまで復調するも、やはり2015年の後半には再び40ドル台まで下落した。アメリカ合衆国において原油価格の指標となるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物価格は40ドルを割ってしまっている。

原油価格急落の背景にはアメリカ合衆国のシェール革命がある。これまでアメリカ合衆国は中東の原油に依存していたが、自国で産出するシェールオイルが輸入原油を代替するようになった。シェールオイルよりも存在感があるのがシェールガスで、2013年にアメリカ合衆国はロシアを抜いて世界一の天然ガス産出国となった。天然ガスと原油には互換性があり、アメリカ合衆国は化石燃料を自給できるようになったと言っても過言ではない。アメリカ合衆国は世界最大の原油消費国であるため、これまでアメリカ合衆国に輸出されていた世界の原油が余るようになってしまった。こうして供給過剰となった原油の価格は急落した。

1973年のオイルショック以降、世界の原油価格をコントロールしてきたのはOPEC(石油輸出国機構)であった。原油価格急落の原因が供給過剰にあるのであれば、供給量を削減すれば良い。世界の原油生産の半分を占めるOPECにはそれが可能である。しかし、OPECは原油の生産量を据え置くことにした。生産コストの高いシェールオイルを市場から締め出すためと言われており、確かにアメリカ合衆国のシェール事業者が破産に追い込まれる事例が増えているそうである。条件の良い油井も減っており、住友商事がシェールオイルの開発に失敗して巨額の損失を出したことは記憶に新しい。ただし、OPECの戦略はロシアの焦土作戦と同じで、自らも甚大な被害を受けることになる。原油の輸出に依存するOPEC加盟国の経済を根底から揺るがすためである。

12月4日にウィーンで開かれたOPECの総会では減産目標を定めることが議論された。産油国の中でもサウジアラビアを中心とした湾岸諸国は裕福だが、南米のベネズエラとエクアドル、アフリカのアルジェリア、ナイジェリア、アンゴラなどは比較的貧しい。焦土作戦に耐えられなくなったベネズエラは5%の減産を提案したが、サウジアラビアの反対によって減産目標は定められなかった。湾岸諸国は原油安を受け入れてでも原油のシェアを維持したい考えであり、アメリカ合衆国のシェールオイルを駆逐するまでOPECの方針は変わらないと思われる。また、原油埋蔵量世界4位のイランが欧米からの経済制裁を解かれて、原油輸出を増加させる方針である。原油の供給過剰はしばらく解消されそうにない。世界経済の牽引役である中国の景気悪化を原因として原油需要も世界的に落ち込んでおり、原油価格の更なる低迷は避けられないと思われる。

2016年に原油価格が反転する可能性はないのか。反転のシナリオとしてISの勢力拡大が挙げられる。ISの勢力範囲がペルシャ湾に到達して湾岸諸国の原油生産を脅かすような事態となれば、供給不安から原油価格は急反発することだろう。1980年のイラン・イラク戦争、1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争では原油価格が高騰しており、ISに関わる戦争がペルシャ湾にまで飛び火すれば原油価格の反転も起こり得るだろう。

ISの勢力拡大以外ではロシアの経済破綻が考えられる。ロシアはOPEC加盟国ではないが、サウジアラビアと並ぶ世界最大の原油生産国である。ロシア経済は原油と天然ガスの輸出に依存しており、現在の原油価格低迷はロシア経済に深刻なダメージを与えているはずである。さらにクリミア半島の併合とウクライナ内戦への介入によって欧米からの経済制裁も受けている。ロシア軍機撃墜事件でトルコとの関係は冷え込んでおり、同盟国の中国も経済が低迷している状況である。まさに四面楚歌のロシアであるが、ウクライナとシリアへの介入によって軍事支出は増加する一方である。ロシアの経済破綻は十分に考えられ、原油の一大供給国が市場から消えることで原油価格が反転する可能性はあり得る。他の産油国も経済状況は日に日に厳しさを増しており、産油国の経済破綻がオイルショックにつながる可能性はある。

2015年12月5日土曜日

もしドイツ帝国が大英帝国と同盟を結んでいたら

大英帝国は1902年に日英同盟を締結し、栄光ある孤立を捨てた。義和団事件を経て、中国大陸への進出を本格化させていたロシア帝国を牽制するためである。しかし、大英帝国が最も同盟を結びたい相手は大日本帝国ではなくドイツ帝国であった。ロシア帝国は極東方面だけではなく、中央アジアとバルカン半島においても南下政策を展開しており、大英帝国の地中海航路と最重要植民地であるインドを脅かす可能性が懸念されていた。ドイツ帝国はヨーロッパにおいてロシア帝国に対抗可能な唯一のランドパワーであり、1894年に締結された露仏同盟を牽制するためにも大英帝国としては同盟を結びたい相手であった。フランス共和国は植民地競争における最大のライバルであり、ドイツ帝国との同盟は大英帝国に多大な利益をもたらすはずであった。ドイツ帝国は露仏同盟との戦争によって二正面作戦を強いられることへの恐怖から、大英帝国との同盟を断り、ロシア帝国との友好関係を維持した。しかし、結局ドイツ帝国は十年後に露仏同盟を相手に第一次世界大戦に突入することになる。新航路政策によって対立する大英帝国も敵に回して、無謀な戦争がドイツ帝国を敗戦国へと追いやった。ロシア帝国とフランス共和国が相性の良いペアであるように、大英帝国とドイツ帝国も利害関係の対立が少ない最適なペアである。もしドイツ帝国が大英帝国との同盟を受け入れていたら歴史はどのように変化しただろうか。

ロシア帝国を仮想敵とするのはドイツ帝国と大英帝国だけではない。オーストリア帝国とスカンディナビア諸国もロシア帝国の脅威に晒されていた。オーストリア帝国は国内にスラブ民族を多く抱えており、バルカン半島においてロシア帝国と利害が対立していた。スカンディナビア諸国はフィンランドのようにロシア帝国に併合されることを恐れていた。スウェーデン王オスカル2世とオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世は汎ゲルマン主義によるスカンディナビア諸国、ドイツ帝国、オーストリア帝国の連合を構想しており、ロシア帝国の脅威に対してゲルマン民族の団結を唱えていた。ドイツ帝国はオーストリア帝国、イタリア王国と三国同盟を結んでいたが、チロル地方において領有権問題を抱えるオーストリア帝国とイタリア王国の協調を図ることができず、三国同盟は実質的に機能しなかった。それよりもドイツ帝国はゲルマン民族の連帯を重視して、スカンディナビア諸国、オーストリア帝国との連合に注力するべきだっただろう。

史実ではバルカン半島におけるロシア帝国とオーストリア帝国の衝突が第一次世界大戦の引き金となった。しかし、大英帝国とドイツ帝国が同盟を結んでいる場合、フランス共和国とロシア帝国がドイツ帝国の強大化を恐れて先制攻撃を仕掛けるというシナリオが考えられる。電撃侵攻したフランス軍はドイツ帝国の重要な工業地帯であるルール地方を占領し、兵器・弾薬の補給を妨げることでドイツ軍を苦しめる。その間にも東方からはロシア軍がベルリン占領を狙って押し寄せ、ドイツ帝国は二正面作戦を強いられるが、機動性に優れたドイツ軍が初戦においてロシア軍を撃退して長期戦に突入する。イタリア王国は露仏同盟側で参戦し、ロシア帝国と挟撃される形になったオーストリア帝国は窮地に陥る。アルプス山脈を越えたイタリア軍とハンガリー平原を突破したロシア軍はウィーンへの総攻撃を開始する。また、ドイツ帝国の工業はスウェーデン王国の鉄鉱石に依存しており、ロシア帝国はスウェーデン王国を占領することでドイツ帝国に致命傷を与えようとする。このためドイツ帝国はオーストリア帝国とスウェーデン王国を防衛するべく、陸軍を派遣して両国軍の指揮権を握ることとなる。

一方、大英帝国は海上輸送による物資の補給でドイツ帝国を支援する。フランス共和国はドイツ帝国への補給を断つためにハンブルクやブレーメンといった港湾を封鎖しようとするが、海軍力では大英帝国に敵わない。そこでフランス共和国は北海を航行する船舶をゲリラ的に襲撃する作戦に出る。フランス共和国の通商破壊作戦はオランダ王国とベルギー王国にも深刻な被害を与え、両国はドイツ帝国寄りとなる。オランダ王国とベルギー王国を経由したドイツ帝国への補給を断つため、フランス共和国は両国を占領する。さらにフランス共和国は中立国であったスイス連邦の領土を経由してドイツ帝国に進撃する戦略を立てる。スイス連邦はフランス共和国の申し出を断り、こちらもフランス軍による占領の憂き目に遭うことになる。

二正面作戦によって優位に立っていた露仏同盟であったが、戦争の長期化によって困窮したロシア帝国では社会主義革命が発生する。革命勢力が首都サンクトペテルブルクを包囲するに至り、ロシア帝国はついに戦線を離脱する。西部戦線に注力できるようになったドイツ帝国は一転して攻勢に出るようになり、オランダ王国とベルギー王国を解放し、パリの包囲に至ったところでフランス共和国は降伏する。大戦によってゲルマン民族のナショナリズムは大いに高揚し、露仏同盟に占領されていたゲルマン諸国では解放軍であるドイツ帝国の威信が高まった。そしてオーストリア帝国、スウェーデン王国、ノルウェー王国、デンマーク王国、オランダ王国、ベルギー王国、スイス連邦の7か国はヴェルサイユ宮殿においてドイツ帝国への合流を宣言する。

終戦後のドイツ帝国は一転してロシア帝国と同盟を締結する。大戦中に発生した社会主義革命によって風前の灯となっていたロシア帝国であったが、ドイツ帝国の支援によって息を吹き返す。社会主義革命を鎮圧することに成功したロシア帝国は命脈を保ち、東欧の支配はドイツ帝国に譲ることとなる。東欧諸民族はナショナリズムを認められるが、ポーランド、チェコ、ハンガリー、セルビア、ルーマニア、ブルガリア、ギリシャの東欧7か国はいずれもドイツ帝国の保護国とされた。

第一次世界大戦が始まるまで、ヨーロッパは大英帝国、フランス共和国、ドイツ帝国、ロシア帝国の四大国が君臨する地域であったが、戦後は大英帝国とドイツ帝国の二強体制となる。ただし、大英帝国は世界最大の面積を有する植民地帝国ではあるが、ヨーロッパ大陸においてはゲルマン民族を統合したドイツ帝国の影響力が圧倒的であり、ドイツ帝国の人口規模は大英帝国の3倍近くにも及んだ。大英帝国にとって誤算となるのはドイツ帝国が宿敵ロシア帝国と同盟を結んだことである。ロシア帝国との同盟によって東方の安全を確保したドイツ帝国はヨーロッパ大陸において敵無しの状況を作り出す。また、ロシア帝国の豊富な資源と巨大な市場を獲得したことで、産業力でも大英帝国を完全に追い抜くようになる。ロシア帝国もドイツ帝国の支援によって近代化を進め、敗戦後に急速な経済成長を遂げる。ロシア帝国とアメリカ合衆国の地理的な類似性においてロシア帝国の地理的なポテンシャルを述べたように、社会主義革命が起こらなければロシア帝国は史実以上の発展を遂げていたと思われ、大英帝国に匹敵する経済力を備えるようになる。

ヨーロッパの覇権をめぐって大英帝国とドイツ帝国の緊張関係は増していくが、戦後しばらくは大きな戦争のない穏やかな時代が続く。しかし、アメリカ合衆国を震源に世界恐慌が発生すると情勢は一変する。アメリカ合衆国、大英帝国、ドイツ帝国の三大国は経済ブロックを構築して大恐慌に対応することができたが、後発の列強であるイタリア王国とスペイン王国は恐慌に対応することができず、植民地拡大によって大恐慌を乗り越えようとする。1930年代にドイツ帝国はイタリア王国とスペイン王国の北アフリカ侵攻を支援する中で両国と同盟を結ぶ。

ドイツ帝国はヨーロッパに留まることなく、中東にも勢力を拡大する。史実と異なり、第一次世界大戦に参戦しなかったオスマン帝国は崩壊を免れたが、アラブ民族の居住地域であるシリアやアラビア半島をめぐってエジプト王国との対立が続いている。ムハンマド・アリーが築いたエジプト王国はアラブ民族主義を掲げ、シリア、イラク、アラビア半島への進出を続けている。スエズ運河を運営する大英帝国はエジプト王国を支援するため、ドイツ帝国は対抗してオスマン帝国を支援する。一方、ベルリンからイスタンブールを経由してバグダードに延びる鉄道を敷設すると、ドイツ帝国の中東支配は強固なものとなっていく。ドイツ帝国は国内のユダヤ人問題を解決するため、シオニズム運動を支援してイスラエルの建国にも尽力する。イスラエルはドイツ帝国の中東植民地としての性格を有するようになる。

大英帝国はフランス共和国が領有していた広大なアフリカ植民地を獲得し、中国からロシア帝国の影響力を排除することにも成功して、世界を覆う植民地帝国を築き上げることに成功する。ドイツ帝国と同様に第一次世界大戦によって大英帝国も国力を大きく上昇させた。しかし、世界中に広げた植民地の経営コストは大英帝国の財政を次第に苦しめていき、経済力でもアメリカ合衆国とドイツ帝国に抜かされて世界第三位の地位にまで転落してしまう。植民地にも独立の動きが見え始め、ドイツ帝国は英領インドにおいてイスラム地域の分離独立を画策する。

中国大陸では袁世凱の死後、軍閥が各地に割拠して内戦状態となる。各軍閥はロシア帝国、大日本帝国、大英帝国といった列強の支援を受けて戦争を行ったため、中国大陸の内戦は列強の代理戦争の様相を呈するようになる。特に世界恐慌によって著しく経済状態が悪化した大日本帝国は中国大陸への侵略を露骨に行うようになっていく。ロシア帝国は奉天派の張作霖と共同で満州から大日本帝国の勢力を排除する計画を企て、1920年代後半に第二次日露戦争が勃発する。青島のドイツ海軍と旅順のロシア海軍は大日本帝国の連合艦隊を撃退し、ロシア帝国はシベリア鉄道によって膨大な兵力を中国大陸に展開する。

一方、ヨーロッパにおいて世界恐慌の影響を受けて最初に破綻したのはフランス共和国であった。第一次世界大戦に敗れて海外植民地を全て大英帝国に奪われたフランス共和国の経済は落ち込みが激しく、パリで社会主義革命が発生するに至る。ドイツ帝国はイタリア王国、スペイン王国と共同で革命鎮圧に乗り出し、瞬く間にパリを占領する。ここに大英帝国はドイツ帝国との戦争を決断し、英仏連合軍によるパリ解放作戦が始まる。極東におけるロシア帝国と大日本帝国の衝突と合わせて、独露同盟と日英同盟の対立は第二次世界大戦へと発展する。

結果としては独露同盟が地政学的優位性を活かして勝利を勝ち取り、大英帝国はヨーロッパ大陸から、大日本帝国は中国大陸から追い出されることになる。しかし、大陸市場が失われることを恐れたアメリカ合衆国はついに孤立主義を捨てて、大英帝国、大日本帝国とシーパワーの同盟を結ぶ。ヨーロッパ大陸ではノルマンディー上陸作戦に失敗するものの、極東では原子爆弾を青島と旅順に投下し、ドイツ海軍とロシア海軍を一掃した。ドイツ帝国は大陸弾道ミサイルを開発してアメリカ合衆国東海岸に報復攻撃を開始し、フィラデルフィアを焦土と化す。互いが互いを殲滅する能力を持っていることが判明し、両陣営は急速に和解へと方針を転換させる。第二次世界大戦の終結後、ドイツ帝国とアメリカ合衆国の冷戦が始まる。

2015年11月30日月曜日

鉄道開通による鳩ヶ谷の変容

鳩ヶ谷市は2011年に川口市と合併するまで埼玉県南東部に存在した人口6万人の市である。東京都と隣接しているにも関わらず、2001年に埼玉高速鉄道線が開通するまでは鉄道が通っておらず、陸の孤島と揶揄されていた。鳩ヶ谷市は江戸時代の宿場町である鳩ヶ谷宿が発展して成立した町である。日光御成街道の宿場町として、徳川将軍家が日光東照宮を参拝する際には大いに賑わった。しかし、京浜東北線のルートから外れたことで、交通拠点としての地位は隣接する川口市に奪われてしまった。近年まで特産物の植木とブルドッグソースの工場が立地する他に何もない町であった。東京都に隣接しているにも関わらず、1980年代から既に緩やかな人口減少に突入していた。

埼玉高速鉄道線の開通はそのような鳩ヶ谷の状況を一変させた。これまで東京に出るためには、バスで川口駅、西川口駅、蕨駅、赤羽駅のいずれかに行く必要があったが、埼玉高速鉄道線は南北線と直通運転を行っているため、鳩ヶ谷から地下鉄一本で東京都心に出られるようになった。南北線は永田町、溜池山王、六本木一丁目、麻布十番、白金高輪といった東京の中心部を通る他、王子、駒込、後楽園、飯田橋、市ヶ谷、四ツ谷など、JRや東京メトロの他の路線の乗り換えに便利な駅をいくつも通っている。埼玉高速鉄道線の開通は鳩ヶ谷に交通革命をもたらしたと言っても過言ではない。

そして鳩ヶ谷のベッドタウン化が始まる。東京への通勤と通学の利便性が格段に増したことで、鳩ヶ谷はファミリー層にとって居住に適した地域となった。鳩ヶ谷駅の周辺には次々とマンションが建設され、減少していた人口も10年で10%増加するまでに至った。鉄道開通までは高齢者が目立つ町であり、宿場町の面影を残す本町商店街と坂下町の西友周辺にちょっとした賑わいが見られるだけであった。しかし、親子連れやサラリーマンの数が目に見えて増え、鳩ヶ谷駅の周辺にはマンションの他にもスーパー、家電量販店、パチンコ店などが立地するようになった。鳩ヶ谷駅が立地する地域は里と呼ばれ、鉄道開通までは水田や畑が見られる鳩ヶ谷でも田舎の地域であった。それが鉄道開通によって、駅周辺は本町と坂下町の商店街に次いで鳩ヶ谷における第三の中心地に発展した。鉄道開通は鳩ヶ谷市の人口を増加させただけではなく、町の構造まで変えてしまったようである。

鳩ヶ谷市の中心地であった本町にも影響は及んでいる。幸か不幸か開発から取り残されたことで、本町は宿場町としての面影を残していた。大正時代の香りがする洋館、からくり時計、江戸時代創業のうなぎ屋、老舗の酒屋、これらは現在も健在であるが、マンションの開発が進んだことで古き商店街の街並みも崩れてきている。2012年から川口市との合併を記念して、川口宿と鳩ヶ谷宿において日光御成道まつりが開催されている。当時の大名行列を模したパレードで、俳優の松平健や徳川家の現在の当主も参加する鳩ヶ谷としては地味にすごいイベントである。しかし、宿場町の面影が消えつつある現在になってイベントを開催しても遅きに失する感がある。

また、以前から鳩ヶ谷に住む人々の行動範囲も変化した。以前は外に出るには川口駅や赤羽駅にバスで向かう必要があったため、川口、赤羽、さらに京浜東北線で結ばれている浦和、大宮が仕事や遊びの中心地となっていた。しかし、鳩ヶ谷市民は今や川口などには見向きもせずに東京に向かっている。自らを埼玉県民ではなく東京都民だと思っている人が大半なのではないかと思う。筆者も埼玉高速鉄道線の恩恵を受けて、中学高校を麻布に通い、大学に入ってからも東京で過ごす日々であった。鳩ヶ谷市は2011年に川口市と合併したが、鳩ヶ谷と川口の関係は以前より薄れているのが実情である。

2015年11月29日日曜日

南北アメリカ大陸の古代文明における白人伝説

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南北アメリカ大陸の古代文明における神話には白人を思わせる神が登場する。アステカ文明のケツァルコアトル、マヤ文明のククルカン、インカ文明のビラコチャである。これらの神々はいずれも共通して背が高く、あご髭を蓄え、白い肌をしているという特徴を持つ。彼らは海を渡って古代アメリカに到着すると、先住民に農業や土木に関する技術を与えて文明をもたらした。そして再びこの地に戻ってくることを約束して、海の彼方に去っていった。文明の伝道者である彼らは古代アメリカにおいて神として信仰されるようになった。

南北アメリカ大陸の古代文明には古代エジプトとの無視できない共通点がいくつもある。有名なのがピラミッドである。アステカ文明の遺跡であるテオティワカン、マヤ文明の遺跡であるチチェン・イッツァには石造りの巨大なピラミッドが存在し、遠く離れたエジプトと似た造りのピラミッドが存在することから、古代アメリカ文明と古代エジプト文明には何かつながりがあったのではないかと考えられている。ペルーとボリビアの境界に位置するチチカカ湖は先住民が葦で束ねられた浮島に居住していることで有名だが、チチカカ湖に浮かぶ葦船は古代エジプトで使われていたものと類似している。チチカカ湖が10万年以上存続している古代湖であり、標高4000m近いアンデス山脈の中心に位置して外界から隔絶されていることを踏まえると、古くに伝えられた古代エジプトの文化が現在まで化石のように残っているとも考えられる。他にもミイラ文化、君主が太陽神の化身であること、ラクダ科の家畜が使役されたことなど多くの共通点がある。

白人を思わせる神々の伝説、古代エジプト文明との共通点、この二つを組み合わせると、古代エジプトの白人が海を渡ってアメリカ大陸に到達し、この地に古代エジプト文明を広めたのではないかと考えられる。学術的には証明されていないが、この古代ミステリーの謎はグラハム・ハンコックの「神々の指紋」でも述べられており有名である。現代世界において宗教は非科学的なものとして軽んじられる傾向にあり、ケツァルコアトルやビラコチャといった古代文明の神々に信憑性なんて無いようにも思われる。しかし、新しい技術や文化が当時の人々に革命をもたらしたからこそ、神話として語り継がれ、宗教として社会に生き残り続けたのだと思う。

日本においても外来の文明が形を変えて宗教として存続しているように思う。弥生時代は日本の歴史の一大転換点であり、渡来人がもたらした水稲耕作は日本の人口を爆発的に増加させた。同時に狩猟採集の生活から農耕の生活に移行した日本社会はムラ、クニを作り上げるようになり、やがて現代まで続く朝廷権力が誕生する。弥生時代にその原型が作られたとされる神道には稲作に関係した儀式が非常に多く、日本神話は日本列島に稲作文明をもたらした渡来人を神々として称える神話のようにも思われる。日本の代表的な宗教といえば神道の他に仏教があるが、仏教の広まりは中国文明の伝播と切り離せない関係にある。当時、僧侶は最先端の知識を持った学者であり、技術者であった。宗教に付随する科学的知識は社会に大きな影響を与え、人々の信仰を集めた。

ケツァルコアトルやビラコチャにも同じことが言えるのではないかと思う。古代アメリカ社会に計り知れないインパクトを与えた人々であるからこそ彼らは神格化されるに至った。そのような大きなインパクトを与えることができるのは外来の人々に他ならず、古代エジプト文明との共通点や白人を思わせる神々の存在から、地中海から大西洋を渡って南北アメリカ大陸に到達した白人がコロンブスよりはるか以前に存在したと考えるのが妥当であると思う。ヴァイキングの一部がニューファンドランドに到達していたというのは有名な話であり、大航海時代以前から大西洋を挟んだ大陸同士の交流があったのではないかと考えられる。古代エジプト、古代アメリカの他にもストーンヘンジやイースター島のモアイ像といった巨石文明がこの地域に集中しているのも単なる偶然なのだろうか。

2015年11月24日火曜日

冴えない彼女の育てかた9巻 感想

冴えない彼女の育てかた (9) (ファンタジア文庫)
丸戸 史明
KADOKAWA/富士見書房 (2015-11-20)
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このライトノベルがすごい!2016の作品部門で冴えない彼女の育てかたが9位に入賞。7巻で丸戸史明の本領が発揮されて大化けしたのと、アニメ効果が大きいと思われる。アニメは続編制作も決まっているので、原作が失速しなければ来年も良い結果が期待できそう。さらにキャラクター部門ではソードアート・オンライン、とある魔術の禁書目録、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。の3作品が圧倒的な強さを見せる中で、御坂美琴、雪ノ下雪乃、一色いろは、由比ヶ浜結衣、アスナに次ぐ6位に加藤恵が入賞。加藤は2015年のアニメ業界で最も人気の出たヒロインと言っても過言ではないかもしれない。

そんな加藤は9巻では出番がほとんどなし。物語としては英梨々と並んで今回も重要な人物ではあったが、最初と最後しか見せ場がなかった。8巻の最後で英梨々が天才イラストレーターとして覚醒したことを見せつけられて、仲直りに近付いていた加藤と英梨々の関係は再び振り出しに戻ってしまい、9巻のプロローグは不機嫌そうな加藤からスタート。倫也の部屋でサークル会議をしているが、加藤の意向で伊織のみ部屋に呼ばれず。8巻での経緯から伊織は加藤から睨まれてしまったようである。そして「早く食べないと料理が冷めちゃうよ」の一言で、伊織とのビデオ通話を無言で強制遮断する加藤。挿絵でも禍々しいオーラを放っており、サークルでの役職が黒幕になりつつある…。

一方、倫也と同じクラスになった英梨々はそのような事情も知らず、倫也と上手くやっている模様。教室で一緒にランチタイムと、二人の仲は完全に修復されたようである。小学生のときの裏切りに加えて、サークル脱退まであったのに普通に英梨々と仲良くしている倫也が意外。倫也は英梨々に対して甘い気がする。英梨々は加藤と仲直りができていないことに不安な様子。

黒いオーラを放つ加藤によってギスギスした雰囲気の新生blessing software。英梨々の才能を目の当たりにして、出海もイラストレーターとしての自信を失ってしまっている様子。伊織の提案で出海は倫也の家でギャルゲー合宿を行うことに。伊織の提案には理由があって、出海が無意識に英梨々の絵に似せようとしており、ギャルゲーのプレイを通して求められている絵が別のものであることを分からせたかったみたい。

合宿は失敗に終わるが、出海と入れ替わりにやって来た美智留が久々に良い働きをする。倫也がブラック加藤と出海のスランプに悩んでいることを見抜いて、倫也を助けてあげられそうな人がいることについて言及する。そして美智留の手回しによって、雨の中ずぶ濡れで倫也を待つ詩羽先輩が登場。詩羽先輩のアドバイスは倫也がシナリオを書くこと。そして倫也は英梨々をモデルにしたヒロインのシナリオを書くことに。いつもなら加藤のアドバイスで倫也が動いて問題解決に向かうが、今回は当の加藤自身が問題となっているため出番はなし。まぁ、美智留と詩羽先輩の出番がなさすぎて、無理に登場させた感も否めない。

倫也は英梨々と徹夜で過去の記憶を共有していき、英梨々には内緒で実体験に基づいた英梨々ルートのシナリオを書く。これが帯にあった「俺は英梨々を裏切って、そして英梨々に告白する」のことかと思われるが、どのような告白をしたのかは書かれていない。ただ、倫也が書いた英梨々ルートのシナリオは内容がいろいろとおかしい。初めは物語で出てきた話を踏襲したものだったが、途中から有り得ない展開に。倫也って英梨々でそんな妄想をするキャラだったっけ…。そして英梨々ルートのラストでは英梨々がblessing softwareに戻って来たような描写がある。

【主人公】「いや、思い切り過ぎだろお前……色んなこと、犠牲にするかもしれないぞ?」
【英梨々】「違うよ……全部を犠牲にしないために、こうするの」
【英梨々】「自分の夢も、友情も……そして、あんたもね?」

倫也はやっぱり英梨々に戻って来て欲しいみたいである。英梨々とどんな話をしたのかは分からないが、これを今後の展開に対する伏線と考えるのであれば、英梨々を受け入れられるくらい価値のあるサークルにblessing softwareを育てあげることが倫也の今後の目標になりそう。その目標は親友である英梨々を取り戻したい加藤とも一致するところである。そして英梨々ルートを読んだ加藤は「どんだけ英梨々のこと好きなの安芸くん」と一言。紛うこと無く倫也が英梨々に恋愛感情を持っていることが明らかになった巻であった。

そして倫也が書いた英梨々シナリオはサークルの問題を解決することに。澤村英梨々(仮)と叶巡璃のギスギスしたシーンまで書いた倫也のシナリオはドロドロすぎて、シナリオを挽回するため出海はコテコテの萌え絵を描かざるを得ない状況に追い込まれて吹っ切れた様子。そして英梨々に無許可でシナリオのネタ集めをした倫也に代わって、加藤は直接英梨々に謝りに行くと言い出す。そして自分が英梨々と巡璃の仲直りシナリオを紡ぐことを宣言。物語とゲームのシナリオが完全にリンクし始めた。現実に進行する物語がゲームのシナリオに影響を与え、一方で加藤、英梨々、倫也の三角関係の行方が、倫也自身が書くシナリオによって左右されるというのは斬新で非常に面白い展開。丸戸史明はメタな話が好きだと思っていたが、物語の内部にまでメタ構造を取り入れてしまうとは。

ラストは加藤の一言。

「だから、わたしの……メインヒロインのシナリオも、すごく期待してるからね?倫也くん」

加藤は倫也に対して恋愛感情は抱いていないことになっているが、これってほとんど告白のような気がする。この一言でラストは全て加藤が持っていった感まである。現実世界で倫也と加藤はどんな物語を紡いでいくのか。次は加藤メインの話が来そうな予感。あとがきによると次巻はGirls Sideの第二弾になる予定とのこと。今回の物語の裏で美智留と詩羽先輩はどのような話をしていたのか、加藤と英梨々の仲直りはどのように決着するのかなど、倫也のいない場面のことが書かれるらしい。Girls Sideは番外編的な扱いであるが、本編以上に物語において重要だったりするので待ち遠しい。

2015年11月18日水曜日

ロシア帝国とアメリカ合衆国の地理的な類似性

ロシア帝国とアメリカ合衆国には地理的な類似性が多く見られる。両国は今でこそ世界の大国であるが、ヨーロッパの辺境という位置付けから歴史が始まっている。ロシア帝国の前身となるロシア・ツァーリ国はキリスト教世界において最も東に位置する国であり、モンゴルなど遊牧民族との境界に当たるロシア平原を基盤としていた。16世紀末にウラル山脈を越えてシベリアへと領土を拡大し、やがて太平洋に到達した段階でロシア帝国の原型をつくりあげた。一方、アメリカ合衆国はイングランドの植民地として始まり、キリスト教世界において最も西に位置する地域であった。北米大陸の大西洋沿岸を基盤としていた植民地は大英帝国からの独立時期に西部開拓を本格化させて、ロッキー山脈を越えて太平洋に到達した。

どちらもヨーロッパの辺境から始まり、太平洋に至るまで領土を拡大した点が共通している。大陸の東西に広がる国土を有し、大西洋と太平洋の二つの大洋に面する国は両国を除くとカナダしか存在しない。ロシア帝国、ソビエト連邦が超大国として世界に影響力を及ぼしたのは、ヨーロッパとアジアのどちらにも干渉できる位置にあったためであり、これは現在の超大国であるアメリカ合衆国も然りである。ナチスドイツはヨーロッパに、大日本帝国はアジアに大きな影響を与えたが、あくまでも地域大国としての存在感しかなかった。全世界に影響を与える覇権国家として君臨したのは大英帝国、ロシア帝国、ソビエト連邦、アメリカ合衆国のみであると思われる。近年は中国の大国化が著しいが、地理的にヨーロッパへの干渉が不可能な中国が地域大国から超大国に飛躍することは難しいだろう。今のところアメリカ合衆国の対抗軸となりうるのは、中国とロシアの同盟、あるいはドイツとロシアの同盟であり、中国とドイツ単独では地政学的な観点からアメリカ合衆国に対抗することは不可能である。ロシアはアメリカ合衆国と並んで、地理的に特別な存在なのである。

ロシア帝国の首都サンクトペテルブルクは国の最西端に位置し、ヨーロッパとの結節点に当たる。これはアメリカ合衆国の経済的中心地であるニューヨークが国の最東端に位置し、ヨーロッパの結節点となっているのと同じ構造をしている。ヨーロッパの辺境として始まった歴史的経緯によるものであり、サンクトペテルブルクはピョートル1世が西欧文明を取り入れるための窓として、あえて帝国の端に建設したものである。ロシアは社会主義革命によってヨーロッパとの断絶を経験しているため、サンクトペテルブルクは結節点として十分に機能しなかった。ただし、そのような断絶がなければサンクトペテルブルクは史実以上の発展を遂げていた可能性がある。

両国では19世紀後半から産業革命が始まるが、重工業発展の歴史もよく似ている。アメリカ合衆国ではアパラチア炭田とメサビ鉄山が五大湖の水運で結び付けられ、五大湖南岸において重工業が発展した。五大湖はセントローレンス川で大西洋とつながっており、製品輸送の便も良かった。重工業に欠かせない二大資源である石炭と鉄鉱石の産地が近接していたこと、水運を利用できたことが重工業の発展に寄与していたが、ロシア帝国にも同じことが言える。ロシア帝国で重工業が発展したのは黒海北岸であり、ドネツ炭田とクリヴォイログ鉄山がドニエプル川の水運によって結び付けられていた。ドニエプル川は黒海、さらには地中海につながっており、製品輸送の便も問題ない。黒海の港はロシア帝国にとって貴重な不凍港でもある。黒海北岸も五大湖南岸と同じような発展が望めたかもしれない。

両国の重工業地帯が農業地帯と重なっている点も興味深い。黒海北岸にはチェルノーゼムという肥沃な黒土地帯が広がっており、ロシア帝国において穀物生産の中心地となっていた。アメリカ合衆国においても五大湖の西方にプレーリーという肥沃な黒土地帯が広がっており、小麦やトウモロコシの栽培が盛んである。五大湖に面するシカゴは工業都市であると同時に、世界最大の穀物市場が開かれる都市としても有名である。ミシシッピ川と五大湖に接する水運の要衝であったことがシカゴの発展につながり、さらにアメリカ合衆国の全土に農産物を流通させる拠点としての機能を果たした。黒海北岸もドニエプル川やドン川といったロシア内陸につながる大河川が集中する地域であり、穀物生産と水運を上手く結びつけることができればロシア帝国の食糧問題も解決することができたのではないかと思う。五大湖南岸がアメリカ合衆国発展の原動力となったように、ロシア帝国も黒海北岸の開発に注力することで近代国家へと発展を遂げることができたのではないだろうか。

このようにロシア帝国とアメリカ合衆国には地理的な類似性が多く見られ、旧態依然とした帝政が速やかに立憲君主制に移行し、社会主義革命を防止することができていれば、ロシア帝国もアメリカ合衆国のような発展を遂げられていたのではないかと思う。ロシア帝国の跡を継いだソビエト連邦は実際に重工業化の取り組みに成功して、ロシアをアメリカ合衆国に次ぐ世界第二の大国に育て上げている。社会主義国家でこれだけの発展が可能であった以上、ロシア帝国が存続していれば更なる発展が見込めていただろう。ドイツ帝国が1914年に第一次世界大戦に踏み切ったのも、あと10年程度でロシア帝国の近代化が十分に進み、ドイツ帝国の国力を上回ることが恐れられたためだと言われている。ロシア帝国が史実とは異なる経過を辿っていた可能性について考えずにはいられない。

2015年11月15日日曜日

日本のGDPを600兆円に高めるためには

安倍政権は日本のGDPを600兆円まで高めることを政策目標として掲げた。日本のGDPは500兆円を前後しており、20%の上昇目標はかなり野心的と言える。人口減少社会に突入した日本がGDPを増加させるためには、一人当たりGDPを押し上げる必要がある。日本の一人当たりGDPはバブルが崩壊した1990年代から停滞傾向にあり、直近の2014年ではG7の中で6位という悲惨な結果となった。7位のイタリアは財政破綻の危険がある国々PIGSの一員にも数えられるEUの劣等生であるが、そのイタリアとも一人当たりGDPにおいて大差はない。名目の一人当たりGDPを比較した結果であるため、現在の日本が稀に見る円安であることを考えれば、実質の一人当たりGDPではヨーロッパ主要国とそれほど差はないのかもしれない。しかし、失われた20年において日本が他の先進国に追いつかれてしまったのは確かな事実である。アメリカ合衆国の経済はIT産業によって復活を果たし、ヨーロッパの主要先進国も軒並み日本より高い経済成長率を誇っている。先進国の中で日本だけが一人負けしているような状況にある。

日本の一人当たりGDPが停滞してしまったのは何故なのか。その要因を探るヒントとして、一人当たりGDPの高い国に目を向けてみる。一人当たりGDPの高い国には小規模な都市国家が目立つ。1位のルクセンブルク、3位のカタール、8位のサンマリノ、9位のシンガポールなどである。しかし、日本でも東京だけを取り出してみれば一人当たりGDPは世界トップクラスとなるため、これらの都市国家と日本を単純に比較することはできないだろう。注目すべきは北欧諸国とアメリカ合衆国である。北欧諸国は2位のノルウェー、6位のデンマーク、7位のスウェーデンといったように、ヨーロッパでもトップクラスの経済水準を誇る。また、11位のアメリカ合衆国は世界一の経済大国であると同時に、G7で最も一人当たりGDPが高い国である。

北欧諸国とアメリカ合衆国に共通するのは人々の働き方が柔軟で、成長産業への人材の移動がスムーズな点である。成長産業は時間の経過によって移り変わっていくものである。一世を風靡した日本の電機メーカーも現在は衰退の一途を辿っており、代わりにアメリカ合衆国のアップルやグーグルといったIT企業が世界経済の牽引役となっている。日本では終身雇用と年功序列の賃金制度が一般的であるため、優秀な人材がいつまでも衰退する産業に留まることになり、成長産業への労働力の適正な分配が行われない。政府も失業率の増加を恐れて、市場から淘汰される運命にある企業を救おうとする。りそな銀行、東京電力、日本航空はその代表である。企業とは異なるがコメ農家への手厚い支援も、利益を生み出さない産業にいつまでも人材を張り付ける無益な政策である。

北欧諸国は社会保障を充実させることで、柔軟な労働市場を実現している。手厚い社会保障があるために雇用に関する規制は緩やかで、日本に比べて企業は簡単に従業員を解雇することができる。いつでも解雇できるため、新たな採用にもそれほど慎重にならない。人々も失業を恐れずに転職や起業に踏み出すことができる。アメリカ合衆国は成果主義が社会に根付いており、企業と従業員の関係はドライなものである。企業は実績に応じて従業員の給与を変動させて、時には解雇に追い込むこともある。従業員も他の企業から条件の良い仕事を提示されれば、簡単に別の企業に移る。企業も個人も利益を求めて柔軟に動くことで、産業の新陳代謝が行われる。政府も市場原理に任せて、大企業だから救済するというようなことがない。リーマンショックを機に、自動車業界ビッグスリーのクライスラー、ゼネラル・モーターズが相次いで経営破綻に追い込まれたのは記憶に新しい。

北欧諸国やアメリカ合衆国をそのまま手本として真似することは難しいが、利益を生まない産業から利益を生む産業に人々がスムーズに移動できるような環境を整備することこそ、GDP600兆円に向けて政府が行うべき仕事である。また、一人当たりGDPの上昇だけではGDP増加は望めない。第一次ベビーブーム世代、第二次ベビーブーム世代が死亡することで、今後の日本は恐ろしい人口減少に直面する。一人当たりGDPの増加だけでは人口減少によるGDPの縮小に抗うことはできない。速やかに出生率を2.0以上に回復させて、将来の生殖可能な人口を増やさなければ、日本の人口を再び元の水準に戻すことは難しくなる。長期的な視点からGDPの増加を目指していくのであれば、少子化対策こそ日本で最も重要な政策となる。

国を挙げて早くから少子化対策に取り組んできたフランスは先進国の中で人口が増加している珍しい国であり、人口減少が止まらない隣国ドイツの人口を2050年代には追い抜く予測がされている。ナポレオン時代のフランスがヨーロッパの最強国家であったのは、農業生産力の高いフランスがヨーロッパの人口大国だったためである。イギリスの二倍の人口を抱えていたフランスは当然兵力もイギリスの二倍であり、圧倒的な陸軍力によってヨーロッパ大陸を席巻することができた。その後のフランスはヨーロッパで一早く少子高齢化に見舞われたことが仇となり、産業、軍事、あらゆる面で他の列強の後塵を拝するようになってしまった。19世紀後半からフランスとドイツの地位が逆転したのは、フランスが文字通りの老大国となってしまったためである。二度の世界大戦で辛酸を舐めたフランスは人口こそ国力の礎であることを学び、100年がかりでドイツを追い抜く計画を立てた。フランスの教訓を日本も活かさなければならない。

2015年11月10日火曜日

広島に帝国大学が存在しない理由

帝国大学とは明治政府が日本の最上位の教育機関および研究機関とするべく設立した大学のことである。本来は帝国大学といえば現在の東京大学のことを指していたが、京都帝国大学の設立以降は帝国大学令に基づいて設立された大学群を総称して帝国大学と呼ぶようになった。1886年に東京帝国大学、1897年に京都帝国大学、1907年に東北帝国大学、1911年に九州帝国大学、1918年に北海道帝国大学、1931年に大阪帝国大学、1939年に名古屋帝国大学が設立された。植民地であった朝鮮のソウル、台湾の台北にも帝国大学が設立されている。各地方に一つずつ帝国大学が設立された。

しかし、何故か帝国大学が設立されなかった地域がある。それは中国・四国地方である。中国・四国地方の中心都市である広島には旧帝国大学が存在しない。東京、大阪、名古屋の三大都市に次ぐ日本の都市といえば、札幌、仙台、広島、福岡の四都市であり、「札仙広福」の通称で知られる。札幌には北海道大学、仙台には東北大学、福岡には九州大学が存在するが、広島には中国大学なるものが存在しない。広島には帝国大学が設立されなかったにも関わらず、関西には京都帝国大学の他に大阪帝国大学も設立されている。地理的な分布を考えれば、京都と大阪という隣接した地域に二つも帝国大学が並んでいる一方で中国・四国地方に帝国大学が設立されなかったというのはおかしい。

戦前の広島は決して冷遇されていたわけではなかった。むしろ後の原爆投下につながったように、海軍の一大拠点として整備された地域である。広島に隣接する呉は全国に四か所しかない鎮守府が置かれた地域である。横須賀、舞鶴、佐世保と並ぶ軍港として発展を遂げ、現在に至るまで造船業の盛んな地域となっている。日清戦争では広島城に大日本帝国軍の大本営が設置され、1894年から1年間に渡って明治天皇は広島で戦争の指揮を執った。この時期は帝国議会も広島で開かれ、広島は臨時の首都として機能した。これは明治維新以降、首都機能が移転した唯一の事例である。前述の札仙広福の中では一歩リードしていたと言っても過言ではない。

このような経緯もあり、軍都広島には早くも1888年に海軍兵学校が進出していた。正確には広島に隣接した江田島に、東京築地から海軍兵学校が移転してきた。坂の上の雲で秋山真之が海軍兵学校の江田島への移転によって故郷の伊予松山に近くなったことを喜ぶシーンがあったと思うが、この時期のことである。海軍兵学校は海軍の士官養成学校で、海軍将校のほとんどは海軍兵学校の卒業生である。当時は陸軍と海軍の権力が現在と比べ物にならない程強く、軍人は官僚、政治家、実業家と並ぶくらいエリートに人気のある職業であった。実際に秋山真之も東京帝国大学への進学を捨てて、海軍兵学校に入学している。既に帝国大学と並ぶ存在の海軍兵学校が存在していたため、広島に帝国大学を設立しようとする動きが出なかったものと思われる。

東京と京都に続いて各地方に次々と帝国大学が設立されると、広島と金沢にも帝国大学を設立しようとする動きが出てきた。ただし、中国、四国、北陸は地理的に近い関西の影響力が強い地域である。これらの地方の優秀な人材は広島や金沢に留まることなく、京都や大阪に出る傾向にある。東京が全国から人を集めるのと同じように、京都と大阪も全国とまではいかないまでも、関西を超えた広い範囲から人を集める力を持っている。京都帝国大学と大阪帝国大学は中国、四国、北陸を含めた西日本全域をカバーする大学として設立されたと考えれば、広島に帝国大学が設立されなかった理由も、関西だけ二つも帝国大学が存在する理由も理解できる。

2015年11月9日月曜日

北海道の地熱発電開発

地熱大国日本において最も地熱資源が豊富な都道府県は北海道である。しかし、これまで地熱発電の開発が進んできたのは主に東北と九州だった。北海道には1982年に北海道電力が運転を開始した茅部郡森町の森地熱発電所しか存在しない。北海道の地熱資源の多くが大雪山国立公園内にあり、環境省の規制によって開発が制限されてきたためである。2012年に始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度と時期を同じくして、国立公園の開発規制も緩められており、北海道では近年いくつかの開発計画が浮上している。

大雪山の麓に位置する上川郡上川町は開発計画が進む地域の一つである。北海道でも有数の温泉地である層雲峡温泉から数kmの距離にある白水沢地区において、総合商社の丸紅が開発計画を進めている。丸紅は総合商社の中では三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事に次ぐ五番手であるが、電力事業に関しては総合商社一の実力を持つ。海外の発電所建設に積極的に投資しており、所有する発電容量の合計は1000万KWを超える。国内においても発電所の開発に積極的で、白水沢地区における地熱発電もその一環である。産業の乏しい上川町にとって地熱発電事業は長年の悲願であった。自治体が積極的であるためか、層雲峡温泉も計画には理解を示しているようである。

一方、札幌市南区の豊羽地区で進む開発計画は地元の理解が得られていない。豊羽鉱山はインジウムの産出量で世界1位の鉱山であったが、地熱の影響で採掘が困難となったため2006年に閉山した。エネルギー事業を行うJXグループに属することもあり、豊羽鉱山は閉山の原因となった地熱を用いて地熱発電所を開発する計画を進めている。しかし、豊羽鉱山の近隣には札幌の奥座敷として名高い定山渓温泉が控えている。バブルの全盛期に比べて客足は遠のいてはいるが、札幌という大都市圏に隣接する地の利を活かして、定山渓温泉は北海道一の温泉地として現在も活況を呈している。温泉地にとって開発計画は受け入れられるものではなく、行政も辺境の問題に積極的に口出しをする気配はないようである。

釧路市の阿寒地区で進む開発計画は、釧路市長自らが計画に断固反対の姿勢で完全に頓挫している。阿寒地区は国の特別天然記念物マリモが生息する阿寒湖で有名な地域で、温泉への影響よりもマリモを含めた自然環境への影響が懸念されている。マリモは湖の波、水温、水質など複数の条件が揃うことで初めて生息することが可能になる。阿寒湖のマリモは過去に周辺の開発によって絶滅の危機に瀕したことがあり、観光業に依存する地元ではマリモへの影響に非常に敏感である。こちらもエネルギー業界大手の石油資源開発が開発を検討しているが、行政と地元がタッグを組んで計画に反対しているため、なかなか進展は見られないと思われる。

余市郡赤井川村では阿女鱒岳地区において、国際石油開発帝石と出光興産が開発計画を進めている。周辺に有名な温泉地が存在しない赤井川村では地元の反対がほとんど見られない。標津郡標津町でも武佐岳地域において、石油資源開発が開発計画を進めているが、こちらも赤井川村と同様に地元の反対は見られない。有名な温泉地が存在しないというのが一番の原因だと思われるが、行政は地熱発電に期待の眼差しを向けている。赤井川村は農業、標津町は漁業に依存しており、地熱発電は地域の新しい産業として大いに期待されている。札幌市や釧路市と異なり、地域の存続すら危ぶまれる小規模自治体では、地熱発電の開発計画というのは滅多にない明るいニュースであり、行政の支援を受けて開発はスムーズに進んでいくと思われる。

地熱発電の開発には10年以上の期間を要する。まずは発電に必要な地熱貯留層の有無を確認するため、複数の地点を大型の機械で掘削しなければならない。蒸気が得られない、温度が足りないなどの理由から、多くの計画はこの段階で頓挫することになる。地熱貯留層を掘り当てたとしても、温泉事業者や行政といった地元の理解が得られなければ開発は困難になる。群馬県の草津温泉のように隣接する嬬恋村の地熱発電開発に対して反対運動を展開して、計画を中止に追い込む事例も見られる。環境アセスメントにも時間がかかり、生産井と還元井を掘削して発電所を建設するまでには膨大な時間がかる。上記の開発計画は始まったばかりであり、地元の同意が得られたとしても実際の運転開始は2020年代になると思われる。これは地熱発電に限った話ではなく、火力発電所や原子力発電所の建設においても同じことが言える。エネルギー事業に長期的な視点が欠かせない所以である。

2015年11月8日日曜日

酒類業界の再編 キリンサントリーVSサッポロアサヒの二強体制になるか

酒類業界の世界的再編が進んでいる。ビール業界1位のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)は業界2位のSABミラー(イギリス)を買収する予定であり、合併後の世界シェアは3割に達する。ベルギーのインターブリューが2004年にブラジルのアンベブと合併し、2008年にアメリカ合衆国のアンハイザー・ブッシュを買収して、業界1位のアンハイザー・ブッシュ・インベブは誕生した。2000年代に入ってから、世界のビール業界は急激な再編期を迎えている。SABミラーは業界3位のハイネケン(オランダ)を買収してアンハイザー・ブッシュ・インベブに対抗しようとしたが、ハイネケンの買収に失敗して自らが飲みこまれる形となった。業界2位の大企業だけあって、SABミラーの買収額は12兆9000億円という聞いたこともないような金額になる。

日本の種類業界も国内市場の成長が見込めないため、近年は海外メーカーを積極的に買収している。海外進出に最も積極的なキリンは2009年にオーストラリアのビール業界2位ライオンネイサン、2011年にブラジルのビール業界2位スキンカリオールを買収している。飲料メーカーの売上は小売店や飲食店との関係に左右されるため、海外市場に進出するためには現地メーカーの買収が欠かせない。サントリーも2014年にアメリカ合衆国の蒸留酒市場において2番手のビームを1兆6500億円で買収した。アサヒは中国市場への進出に強みがあり、中国のビール業界2位の青島ビールと提携関係にある。サッポロも上位3社に遅れてはいるが、ベトナムにビール工場を建設して東南アジアへの進出を図っている。

しかし、国内における業界再編は世界に比べて遅れており、日本の種類業界は長らくキリン、アサヒ、サントリー、サッポロの四強体制が続いている。ビールに関してはスーパードライという化物ブランドを持つアサヒがトップを走り続け、酒類全体の売上ではキリンがトップの座を維持してきた。近年はサントリーが好調で、2000年代後半からサントリーの快進撃が見られるようになる。サントリーはウイスキーで有名な会社で、ビール事業は1963年の開始から常に赤字が続いていた。そんなサントリーのビール事業を救ったのが、ヨーロッパのモンドセレクションで最高金賞を3年連続で受賞したザ・プレミアム・モルツであった。ザ・プレミアム・モルツはサッポロのヱビスビールを抜いて、プレミアムビールにおいてトップの地位を築き上げた。ビーム買収によって売上高を伸ばしたサントリーは2014年度の売上高でキリンを超え、ついに国内の酒類業界1位の座に躍り出た。キリンは純利益においてサントリーとアサヒの後塵を拝するようになり、業界の構図は一変した。
 
サントリーとキリンは2000年代後半に経営統合交渉を行っていたことが知られている。酒類業界の世界的再編が進む中で、海外メーカーからの買収を防ぐため、また海外市場に進出するため、統合による規模の拡大は欠かせない。しかし、サントリーは創業家の資産管理会社である寿不動産が株式の9割を有する大企業としては特殊な会社で、創業家の鳥井家と佐治家が経営を独占している。統合の比率によってはサントリーの創業家がキリンを乗っ取ることになるため、この統合交渉は破談に終わった。キリンはサントリーの価値を自社の半分と見積もって統合交渉に臨んだが、これはサントリーとしては受け入れられるものではなかった。

現在、サントリーはキリンを抜かして国内トップの地位に立った。佐治信忠が外部より招聘した新社長の新浪剛史はローソンの社長を務めていたが、元は三菱商事の出身である。キリンは三菱グループの代表的企業であり、新浪剛史の社長就任によってサントリーはキリンと三菱という絆で結ばれることになった。前回の統合交渉破綻は三菱グループがキリンの流出を恐れたことが一因とされている。新浪剛史の社長就任はサントリーの三菱グループ入りと引き換えに、サントリーによるキリンの統合が内々に認められたことを意味すると思われる。

サントリーとキリンの統合に対して、アサヒとサッポロはどう立ち向かうか。実は両社は戦前は大日本麦酒という同じ会社に属していた。アサヒの前身である大阪麦酒、サッポロの前身である札幌麦酒、ヱビスビールを製造する日本麦酒が1906年に合併して誕生した会社で、市場占有率の高さから戦後にアサヒとサッポロに分割されることになった。キリンサントリーが誕生すれば、対抗してサッポロアサヒが生まれる可能性は十分にあるだろう。キリンサントリーとサッポロアサヒで国内ビール市場のシェアを半分ずつ占める形となるため、国内での競争促進の観点から両社の合併は認められるものと思われる。酒類業界は二強体制に再編されるかもしれない。

また、酒類業界の再編は流通業界との関係を変える可能性がある。流通業界はセブン&アイとイオンの二強体制となっているが、近年はコンビニ業界におけるセブンイレブンの圧倒的優位性からセブン&アイが利益面でイオンを大きくリードするようになっている。セブン&アイという共通の敵を持つイオンとコンビニ業界2位のローソンはどちらも三菱商事を筆頭株主とする三菱グループの一員であり、三菱商事によって両社の合併が主導される可能性がある。メーカーが多くの小売店に自社商品を売って欲しいと思うように、小売店も客を増やすために多くのメーカーの商品を揃えたいと思う。そのためメーカーと小売店が特別に強固な関係を結ぶことはあまりなかった。しかし、キリンとサントリーの統合、イオンとローソンの統合が状況を変えるかもしれない。キリンサントリーは圧倒的な商品の種類、イオンローソンは多様な販売ルートを持つようになる。そのため三菱グループの関係を活かして、キリンサントリーはイオンローソンに優先的に商品を提供、イオンローソンもキリンサントリーの商品を優先的に取り扱うという禁断の関係に足を踏み入れることができるようになるかもしれない。その場合はセブン&アイがサッポロアサヒと提携するようになるだろう。メーカーにとっても小売店にとってもリスクのある選択だが、可能性は十分に考えられる。

2015年11月7日土曜日

京都アニメーション作品の聖地

◆兵庫県西宮市(涼宮ハルヒの憂鬱)
ハルヒとキョンが通う北高は実在する高校で、作者である谷川流の母校でもある。週末にSOS団の待ち合わせ場所となる西宮北口駅も阪急神戸線の駅で、アニメにおいて完全に再現されている。阪急沿線は関西において富裕層が多く住む地域で、SOS団の活動が高校の部活動というより小洒落た大学生のサークル活動のような雰囲気を見せるのも、西宮の地域性によるところが大きいと思う。京都アニメーションは西宮という舞台を上手く作品に取り込むことで、原作の雰囲気を映像化することに成功した。
 
◆埼玉県久喜市(らき☆すた)
柊かがみ、柊つかさの実家である鷲宮神社は文字通りファンの信仰の対象となっている。鷲宮神社は関東で最も古い伝統ある神社であるが、らき☆すたキャラの絵馬が大量に奉納されていることの方が有名。アニメを用いた町おこしの先駆けとも言える存在で、神社の参拝客はアニメ開始から急激に増加した。鷲宮神社を起点としたアニメファンの聖地巡礼は町の観光の重要な柱となっている。

◆青森県上北郡横浜町(CLANNAD)
CLANNADは基本的に東京が舞台であるが、智也が汐と初めて旅行した菜の花畑が印象的なため、聖地といえば青森のような気がする。横浜町は菜の花で有名な下北半島の町で、AFTER STORY18話のタイトル通り大地の果てである。風と菜の花以外に何もない終末を思わせる寂しい土地で、幻想世界の儚いイメージにもマッチする。この土地を選んだ京都アニメーションは慧眼である。

◆滋賀県犬上郡豊郷町(けいおん!)
豊郷小学校の旧校舎は唯たち軽音部が通う桜ヶ丘高校のモデルとして知られる。なぜ小学校の旧校舎が高校のモデルになったのかというと、豊郷小学校は普通の小学校ではないためである。旧校舎は日本で多くの西洋建築を設計したウィリアム・メレル・ヴォーリズの作品の一つで、東洋一の小学校という異名を持つほどであった。豊郷小学校を卒業した実業家が当時の町の予算の10倍を費やして建築したためで、あまり知られていない地元の一流建築物に目を付ける当たり、京都アニメーションは流石である。

◆岐阜県高山市(氷菓)
作者である米澤穂信の出身地であり、神山市という名前も明らかに高山市をモデルにしている。伝統ある古典部と江戸時代の面影を残す高山の古い町並みは見事にマッチする。一方で豪農の娘である千反田えるを中心に作品を包み込む閉鎖的な雰囲気は、高山が古い町であるということと、高山の盆地という地形によるものであるかもしれない。京都アニメーションの作画力が惜しみなく発揮された作品で、背景の美麗さは群を抜く出来となっている。高山市もアニメによる町おこしに力を入れている。

◆滋賀県大津市(中二病でも恋がしたい!)
六花は勇太と一緒に不可視境界線を二回見つけている。告白シーンとラストの逃避行シーンであるが、どちらも琵琶湖の対岸に揺れる街明かりが不可視境界線のイメージとなっている。六花が夜の活動を好むのも、不可視境界線が夜にならないと現れないためかもしれない。滋賀県は県全体が琵琶湖を中心とした一つの盆地となっており、琵琶湖の沿岸であれば、どこでも対岸の街明かりを見ることができる。しかし、対岸にあるが故に不可視境界線はどこまで行っても近付くことはできない。此岸と彼岸が琵琶湖を用いて見事に映像化されていると言える。

2015年11月6日金曜日

アニメ制作会社の盛衰 京都アニメーション・シャフト・A-1 Pictures

2000年代後半は京都アニメーションの時代であった。2006年春に涼宮ハルヒの憂鬱で一躍有名になった京都アニメーションはヒット作品を連発。涼宮ハルヒの憂鬱、Kanon、らき☆すた、CLANNAD、けいおん!といった2000年代後半の京都アニメーション作品はいずれも1万枚以上の売り上げを誇る。1万枚以上の売り上げがあるとヒット作として認知されるが、涼宮ハルヒの憂鬱、けいおん!の2作品については4万枚以上の売り上げとなり、社会的にも知られる作品となった。安定した作画で知られ、京都アニメーション作品と言えば放送前から成功が約束されたようなものであった。京都アニメーションの作品は常にそのクールの覇権候補筆頭であった。

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京都アニメーションの低迷と入れ替わるように飛躍したアニメ制作会社がシャフトである。2009年の化物語と2011年の魔法少女まどか☆マギカは7万枚以上の売り上げを誇るメガヒット作品で、一躍シャフトを有名にした。化物語と魔法少女まどか☆マギカは恐ろしい作品で、この2本のみで2000年代後半の京都アニメーション作品全体の売り上げに匹敵する。メガヒット作品を短期間に2本も製作したことで、シャフトは京都アニメーションを超えるアニメ制作会社として認知されるようになった。魔法少女まどか☆マギカがオリジナル作品であったことから、シャフトは実力あるアニメ制作会社の筆頭に躍り出た。

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アニプレックス (2011-04-27)
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京都アニメーションが低迷し、シャフトもピークを過ぎた現在、次世代を担うアニメ制作会社はどこになるのか。これはA-1 Picturesになるのではないかと予想する。A-1 Picturesはアニプレックスが設立したアニメ制作会社だけあって資金と労働力には定評があり、1クール2本のペースで作品を発表し続けている。作画が安定しており、京都アニメーションとも遜色ないレベルに達している。シャフトのような個性は感じられないが、原作を忠実にアニメ化しているため安心感がある。特に四月は君の嘘で見られた演奏シーンのこだわりは今後の飛躍を期待させる出来であった。フジテレビと仲が良く、ノイタミナ枠を定期的に確保できることも強みである。全盛期の京都アニメーションのように、安定してヒット作を出すアニメ制作会社になってくれればと思う。

2015年11月5日木曜日

イギリス旅行計画

ロンドンを中心にイギリス旅行を計画。イギリスの冬は寒い上に暗いため、5月~9月の暖かくて日の長い時期を予定している。ずっとヨーロッパに行きたいと思っていたが、なかなか行き先が決まらなかった。バイエルンのノイシュバンシュタイン城、南フランスの田園地帯、オランダの風車と運河、スウェーデンの森と湖。行きたい国は多くあるが、初めての海外旅行は英語圏の方が安心だと思ってイギリスに決定。大英帝国の首都として近現代史の中心地であったと言っても過言ではないロンドンを中心に旅行することを決めた。とりあえず行きたい場所を列挙。

◆ウェストミンスター宮殿
英国を象徴する場所。中世にイングランド王の住居として用いられ、近代以降は議会の所在地として知られるようになった。大英帝国の歴史がつくられた場所で、18世紀から20世紀初頭にかけて世界の中心地であった。ロンドン大火やドイツ軍の空爆によって焼失を繰り返しているため、建物自体は比較的新しい。晴れた日の早朝とライトアップされている夜間が特に美しい。対岸の観覧車ロンドン・アイからの景色も眺めてみたい。


◆タワーブリッジ
テムズ川に架かる橋。イーストエンドの発展を目的として、19世紀末に完成した。ハリーポッターの映画にも出てきた有名な橋である。「ロンドン橋落ちた」で有名なロンドン橋とは異なる。ウェストミンスター宮殿と同じゴシック様式。こちらもライトアップされている夜間に見たい。


◆大英博物館
大英帝国の時代に世界各地から収集された文化財が展示されている。特にペルシャ、エジプト、ギリシャなど古代文明の遺産に強い。大英帝国の絶頂期を偲ばせる。大英博物館の分館でもあるロンドン自然史博物館にも行きたい。こちらは化石標本が特に有名。


◆ハイドパーク
ロンドン市民の憩いの場。野生のリスがたくさんいる。ロンドンの街歩きに疲れたら、公園でのんびりしながらシマリスくんにクルミをあげたい。世界で最初の万国博覧会の会場にもなった。

◆トラファルガー広場
トラファルガー海戦の勝利を記念して造られた広場。ナポレオンに勝利したネルソン提督の記念碑がある。ヨーロッパの都市に特有の広場とはどのような場所なのか見てみたいと思う。広場に面するナショナル・ギャラリーにも行きたい。超有名な絵画がゴロゴロ存在する美術館である。


◆バッキンガム宮殿
ヴィクトリア女王の時代からイギリス王室の居住地となっている。ヴェルサイユ宮殿やシェーンブルン宮殿と並ぶヨーロッパ一流の宮殿にして、現在もエリザベス女王が暮らす現役の宮殿である。ちなみにイギリス王室はバッキンガム宮殿の入場料など、観光や不動産の収益によって生計を立てている。近衛兵の交代式が有名。


◆オックスフォード
名門オックスフォード大学の拠点となっているロンドン郊外の大学都市。オックスフォード大学はイギリス最古の大学で歴史と伝統ある街となっている。ハリーポッターに登場するホグワーツ城の舞台であり、食堂など映画そのままである。

◆アフタヌーンティー
行きたい場所というか、やりたいこと。ティースタンドの出てくる本格的なアフタヌーンティーを楽しみたい。上から順にケーキ、スコーン、サンドイッチとなっているようである(ごちうさの知識)。ティーカップも可愛いのが良い。


◆草原と羊
イギリスといえば草原と羊。コッツウォルズとか田園地帯に足を延ばせば見ることができそう。可能であれば湖水地方まで行きたいが、移動時間を考えると難しいか。

2015年11月3日火曜日

北陸電力と中部電力 合併の可能性

北陸電力は電力業界の優等生である。震災後、全国の原子力発電所が停止して、多くの電力会社は電気料金の値上げに追い込まれた。北海道電力と関西電力に至っては、既に二回も値上げを行っている。その一方、原子力発電所の停止に苦しみながらも、電気料金の値上げを一度も行っていない電力会社が存在する。それは北陸電力と中国電力である。特に北陸電力は発電コストの低い水力発電所を多く有しており、北陸地方は全国で最も電気料金の安い地域となっている。北陸電力は電力業界の優等生と言えるだろう。

しかし、北陸電力は将来苦境に陥る可能性がある。まず、一つ目の要因として志賀原子力発電所の再稼働が困難なことが挙げられる。志賀原子力発電所は能登半島西部に位置し、1993年に運転を開始した比較的新しい発電所である。震災前は北陸電力の電源構成の三割を担い、中部電力や関西電力にも電力を供給していた。ただし、原子力規制委員会から原子炉建屋直下に活断層が存在する可能性が指摘されている。東北電力の東通原子力発電所も発電所構内に活断層が存在する可能性が指摘されているが、志賀原子力発電所の場合は原子炉建屋の直下であるため、クロと判断されれば大規模な改修工事が必要となり、経営判断として廃炉になる可能性も否めない。原子力規制委員会は活断層が存在しないことを証明するように求めているが、これはそもそも悪魔の証明で電力会社にはどうすることもできない問題である。社会がどこまでリスクを許容できるのかというリスク論の問題として議論しなければ意味がないはずなのだが、なし崩し的に廃炉まで追い込まれそうな状況である。福島第一原子力発電所と同じ沸騰水型の原子炉であることも再稼働の障害となるだろう。

さらに石炭火力の規制が北陸電力に致命傷を与える可能性がある。震災後、発電コストの低い石炭火力発電所の新増設計画が次々と浮上しているが、石炭火力は二酸化炭素排出量が多く、政府の環境政策とは逆行する動きである。そのため経済産業省は2016年度から火力発電に占める石炭火力の割合を5割までとするように電力会社に求める方針である。北陸電力は現時点でLNG火力発電所を有していない。富山新港火力発電所の石炭火力をLNG火力(42.47万kW)にリプレースする計画ではあるが、既存の石炭火力を次々とLNG火力にリプレースしていかなければ、北陸電力が石炭火力を5割に抑えることは難しい。東京電力や関西電力といった規模の大きな電力会社ほどLNG火力の導入が進んでおり、北陸電力のような地方電力は今後石炭火力の規制に苦しめられるだろう。発電コストの低い石炭火力は水力発電と並んで、北陸電力の競争力の源となっていたため、今回の石炭火力の規制は北陸電力の屋台骨を揺るがす事態である。

志賀原発の活断層と石炭火力の規制で苦境に陥る北陸電力は今後どうなるのか。北陸電力は北海道電力、四国電力と並んで規模の小さな電力会社である。志賀原子力発電所の大規模改修、最悪の場合は廃炉に耐えるだけの経営体力があるのか。一歩間違えれば、北陸電力も北海道電力のような財務状況に陥りかねない。そのため北陸電力は意外にも、電力会社の合併第一号となる可能性がある。10年後の電力業界・ガス業界では電力業界とガス業界がいずれ3グループに集約していく可能性について論じ、北陸電力は関西電力と同じグループを形成していくのではないかと予想した。北陸電力は競争力の強い電力会社であるため、あくまでも対等な関係で緩やかに関西電力とグループを形成していくと考えていたのである。しかし、石炭火力の規制によって状況は変わった。北陸電力は直ちに他社との合併に追い込まれる可能性がある。

北陸電力の合併相手として想定されるのは関西電力ではなく中部電力である。関西電力は原子力発電への依存度が高いために財務状況が芳しくなく、志賀原子力発電所の面倒まで見る余力はない。一方、中部電力も浜岡原子力発電所の停止によって赤字に追い込まれたが、原子力発電への依存度が低いために大手電力の中では比較的良好な財務状況である。志賀原子力発電所の再稼働を支援できるのは中部電力をおいて他にない。中部電力は東京電力、関西電力と並んでLNG火力の比率が高いため、北陸電力は中部電力と合併することで石炭火力5割の規制をクリアすることもできる。中部電力にとっても北陸電力の持つ水力発電所と石炭火力発電所はコスト競争力を高める上で魅力的であり、首都圏や関西圏に進出する上で強力な武器になるだろう。ウィンウィンの関係を築ける北陸電力と中部電力の合併、その可能性は決して低くはないと思われる。

2015年11月2日月曜日

アフリカ諸国が発展途上国から抜け出せない理由

第二次世界大戦後、欧米列強の植民地は相次いで独立を果たした。独立の時点において、アジアの植民地もアフリカの植民地も経済力において大きな差はなかった。どちらの地域もプランテーション農業と資源産業の他に大した産業はなく、近代的な都市といえば欧米人が暮らす港湾都市しか存在しなかった。しかし、アジアの植民地は独立後に急速な発展を遂げるようになる。例えば、天然ゴムのプランテーション農業と錫鉱山しか取柄のなかったマレーシアはイギリスからの独立後に急速な工業化を果たした。先進国メーカーの下請けとして工業化を図り、現在は一人当たりGDPが1万ドルを突破する中進国にまで成長した。マレーシアには劣るが、同じ東南アジアに位置するタイやインドネシアも工業化に成功して中進国への道を歩んでいる。

一方、同じ熱帯という条件を持ちながら、多くのアフリカ諸国は発展途上国から抜け出せないままでいる。観光業に特化した島国であるセーシェルやモーリシャス、産油国であるリビアや赤道ギニアを除くと、中進国と呼べるのは南アフリカくらいである。マレーシアのように工業化に成功した国は皆無で、植民地時代から続くプランテーション農業と資源産業が経済を支える唯一の産業となっている。近年は資源価格の高騰が追い風となり、アフリカの資源国は高い経済成長率を誇るようになった。しかし、国民の教育水準が低く、資源頼みの経済成長には限界がある。

発展途上国の中でアフリカ諸国だけが発展できないのは何故なのか。民族の分布を無視した植民地時代の国境が内戦や隣国との戦争につながっているためか。エイズやマラリアなど感染症の蔓延が深刻なためか。東南アジアの国々のように輸出志向型の工業化を進めなかったためか。どの問題もアフリカ諸国の大きな課題であるが、最大の問題はアフリカの食糧生産力に対して人口が増え過ぎていることにあると思う。多くのアフリカ諸国が独立したためにアフリカの年として知られる1960年に比べて、アフリカの人口は現在4倍にまで膨れ上がったが、食糧生産力は2倍にも達していない。アフリカ大陸は南北の僅かな地域が温帯気候に属し、コンゴ盆地が熱帯雨林気候に属する他は、ほぼ全ての地域が乾燥気候に属する。乾燥地域は干ばつに見舞われることも多く、低い農業生産性につながっている。

日本のように海外から食糧を輸入する経済力があれば話は別だが、アフリカ諸国のような発展途上国では食糧を輸入する外貨さえ不足している。また、十分なインフラ整備がされていないため、食糧を輸入しても港湾都市から国内の地域へ食糧を輸送することができない。そのような状態で食糧生産力が低いまま、人口だけが増加するとどうなるか。人々は教育を受ける余裕もなく、その日生きていくために日雇いの労働を強いられたり、畑でイモを栽培するしか術がない。あるいは犯罪に手を染めたり、紛争に向かう兵士となるだろう。結果的にいつまでも貧困から抜け出せない状態が続く。

東南アジア諸国は1960年代から始まる緑の革命によって、米の生産量を数倍に増加させることに成功した。食糧不足の心配がなくなったことで、農業から工業への労働力の移動にも耐えられる社会となり、その後の工業化と経済発展につながった。イギリスも産業革命が始まるきっかけとして、農業革命が起きていることが知られる。ノーフォーク農法で知られる輪栽式農業によってイギリスは農業生産力を向上させ、産業革命の時代に突入することができた。産業化や経済発展の基礎は農業生産性の向上にあり、その初歩的な段階をクリアできなければアフリカ諸国の発展は難しい。

アフリカ大陸は人口爆発の真っ最中で、2050年にはアフリカ最大の人口大国であるナイジェリアの人口がアメリカ合衆国と並んで4億人に達する見込みである。エチオピア、コンゴ民主共和国、エジプト、タンザニアの人口も1億人を突破し、世界の4人に1人がアフリカ人となる。しかし、農業に適さないアフリカ大陸は既に人口の限界に達しており、これ以上の人口増加は経済発展の阻害要因となる。中国の一人っ子政策は少子高齢化のような問題も生み出しているが、発展途上国から抜け出すためにもアフリカ諸国はまず人口抑制策に取り組む必要がある。食糧生産力に見合うだけの人口に抑えれば、人々は生活の心配をせずに教育や産業化に専念することができ、アフリカ諸国の経済も成長軌道に乗るだろう。人口減少が大きな問題となっている日本からすれば意外ではあるが、人口増加は必ずしも良いものとは限らない。アフリカ諸国の場合は人口減少が経済をテイクオフさせる鍵となるだろう。

2015年11月1日日曜日

どうすれば伊達政宗は天下を取ることができたか

伊達政宗は遅く生まれてきた戦国時代の英傑で、あと10年早く生まれていれば天下を取ることができたとよく言われる。伊達政宗が生まれたのは1567年、織田信長が美濃から斎藤氏を追放して本格的に天下取りに動き始めた年である。翌年には早くも足利義昭を奉じて上洛して、織田政権を樹立している。奥羽の田舎に生まれた政宗がここから巻き返しを図るのは時間的に難しく、そこで「あと10年早く生まれていれば」という言説が出るようになった。

しかし、政宗があと10年早く生まれたとして、天下を取ることはできたのか。当時の奥羽は中小の大名が割拠する地域で、大きな勢力は二つしかなかった。一つは置賜の伊達家、もう一つが会津の蘆名家である。奥羽において国持ち大名に匹敵する勢力を誇るのは伊達家と蘆名家しか存在せず、室町幕府が認定した全国の大名家で奥羽から選ばれたのも、この二家だけである。実は政宗があれほど急速に勢力を伸ばすことができたのは、蘆名家の全盛期を築き上げた盛氏が男子を残さずに死亡したためであり、政宗があと早く10年早く生まれても全盛期の蘆名家と対峙しなければならず、奥羽の統一は難しい。

蘆名家は盛氏の死後、二階堂家出身の盛隆、佐竹家出身の義広と他家出身の当主が続き、求心力が衰えていった。その隙を突いて、政宗は蘆名家を滅ぼして会津を治めることに成功したのである。会津を手に入れた伊達家は奥羽において圧倒的な勢力を誇るようになり、現在の福島県中通りに割拠する中小の大名や現在の宮城県を治める大崎家と葛西家を従えるようになった。20代前半という若さで伊達家をこれほどの勢力に押し上げた政宗は織田信長以上の英傑に見える。しかし、政宗の成功はライバルである蘆名家の自滅と、他に大きな大名がいない奥羽という地理的条件によるものであり、決して政宗の才覚のみによるものではない。

とはいうものの、政宗にも天下取りの機会は十分にあった。秀吉政権は奥羽と関東の大名に対して、大名間での私闘を禁じる惣無事令を発しているが、政宗はこれを破って蘆名家を攻め滅ぼした。さらに関東の北条家とは同盟関係にあり、小田原征伐への参陣が遅れたことで秀吉政権から冷遇されることになった。結果的に蘆名家から奪った会津は秀吉政権に没収され、米沢72万石のみが安堵され、さらに葛西大崎一揆を扇動した罪で後の仙台藩につながる岩出山58万石に減封されることとなった。しかし、秀吉政権に早くから従った上杉家は惣無事令の下でも秀吉の許可を得て新発田重家を攻め滅ぼしている。つまり秀吉の天下統一に協力する大名には、それなりの勢力拡大は認めるということである。政宗も北条家との縁を切り、早くから秀吉政権に従うべきであった。秀吉政権の下で南奥羽に100万石を超える大領を有することも可能であっただろう。

中央の政権に従わずに独立して動くには最低100万石の軍事力が必要である。徳川家康も三河、遠江、駿河に加えて甲斐と信濃を獲得したからこそ、秀吉政権と渡り合うことができた。もし政宗が南奥羽に100万石を超える領土を有していたら、秀吉死後に徳川家康と渡り合っていたのは上杉景勝ではなく伊達政宗となっていただろう。石田三成のクーデターによって、上杉征伐に向かっていた家康は東西から挟撃される形となった。しかし、上杉景勝は江戸に向かわず山形に向かって、最上家の攻略を行った。上杉家が短期的な勢力拡大に走ったことで家康は命拾いして、関ヶ原の戦いで勝利することができた。

しかし、政宗が上杉景勝の立場で家康を追撃していたらどうなったか。家康は政宗に備えて江戸を離れることができなかったかもしれない。家康は石田三成がクーデターを起こした後もしばらく江戸を離れず、福島正則や黒田長政といった東軍諸将を濃尾平野に送って、西軍の襲来に備えただけであった。これは上杉景勝の関東侵攻を恐れて動けなかったためであると言われている。政宗が大局的な見地から関東侵攻を決断していれば、西軍との挟撃にあった家康は二正面作戦を強いられることになる。露仏同盟の挟撃によってドイツ帝国が敗れたように、地政学的に家康は不利な状況に追い込まれる。野戦の得意な家康は局地的な勝利を手にすることはできるかもしれないが、いずれ豊臣政権による公式の徳川征伐が始まると、家康に従っていた東軍諸将は豊臣政権側に寝返っていくことになるだろう。

家康の失脚によって、政宗は東国において最大の勢力を誇るようになる。西国の毛利家と東国の伊達家が勢力を拡大し、豊臣政権は名ばかりとなり、伊達家と毛利家が実権を握るようになる。地理的に西国は分権的、東国は集権的な政治体制となりやすい。日本最大の面積を誇る関東平野は東国の中心であり続け、関東平野を押さえた勢力が東国を掌握する。実際に東国の鎌倉幕府や江戸幕府が強い権力を維持し続けたのに対して、西国の室町幕府は守護大名を掌握できずに衰退していった。政宗が東国に集権的な体制を築き上げれば、その若さゆえに天下を取る可能性は十分にある。恵まれた環境を活かすことができずに政宗が仙台藩主で終わってしまったのは、生まれた時期が悪かったからではなく、ひとえに政宗が戦略を誤ったことによるものである。

2015年10月31日土曜日

BRICsの次に発展する四か国

20世紀後半はG7の時代であった。G7はアメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの七か国を指す。G7が世界のGDPの半分以上を占める時代が長らく続き、国際社会はG7を中心とした主要先進国によって動かされてきた。2000年代からは経済成長の著しい大国としてBRICsが注目されるようになる。BRICsはブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字で、いずれも巨大な人口と広大な国土を抱えている。21世紀の経済大国として有望であり、アメリカ合衆国を除いて先進国はいずれもBRICsに経済力で敵わなくなる時代が来ることが予想される。既に中国は日本とドイツをGDPで抜かしている。

BRICsに次いで今後の経済成長が期待される新興国として、よくNEXT11が挙げられることが多い。NEXT11は韓国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、バングラデシュ、パキスタン、イラン、トルコ、エジプト、ナイジェリア、メキシコの十一か国である。しかし、中進国である韓国、トルコ、メキシコと最貧国であるバングラデシュ、パキスタン、ナイジェリアが同じグループに属しているのは違和感がある。NEXT11には共通点がなく、NEXT11の全てが経済成長を遂げるとは考えにくい。特にバングラデシュ、パキスタン、ナイジェリアは人口大国ではあるが、教育水準が低いため急速な発展は望めないだろう。

地政学的な観点から予測すると、BRICsの次に発展する国として四つの国が挙げられると思う。それは韓国、ベトナム、トルコ、ポーランドである。人口規模は韓国が5000万人、ベトナムが9000万人、トルコが8000万人、ポーランドが4000万人と地域大国のレベルにはあるが、世界的な大国と呼べるほど大きい規模ではない。ちなみにGDPは2014年時点で韓国が13位、トルコが18位、ポーランドが23位、ベトナムが56位である。

これら四か国に共通するのは中国かロシアに隣接する地域大国という点である。アメリカ合衆国の最大の仮想敵は中国とロシアであり、現在も中国とは南シナ海、ロシアとはクリミア半島の領有権問題で争っている。シーパワーであるアメリカ合衆国が最も恐れることは、ユーラシア大陸が強大なランドパワーによって支配されることである。かつてはナチスドイツ、ソビエト連邦、現在は中国とロシアを危険な存在として認識している。そのようなアメリカ合衆国にとって、中国とロシアに隣接する地域大国は両国を牽制する上で非常に重要な存在である。韓国は現在もアメリカ合衆国の同盟国であるが、中国との戦争の際に最前線となるのが韓国である。また、ベトナムは陸路においても海路においても、中国がアジアに進出する際の玄関口となる。トルコもロシアが黒海から地中海へ、あるいは中東へ進出する上での要衝である。ポーランドはロシアの侵攻からヨーロッパを守る防波堤であり、歴史的にもドイツとロシアが争ってきた国である。

アメリカ合衆国は中国とロシアへの抑止力として、今後四か国を積極的に自陣営に繋ぎとめようとするはずである。中国は経済的支援によって発展途上国を自陣営に取り込み始めているが、アメリカ合衆国はそれを上回る規模の経済的支援を四か国に行っていくだろう。見返りはアメリカ合衆国に対する軍事的な協力、中国とロシアの監視である。BRICsが台頭する一方で、まだまだ世界経済を支配しているのはアメリカ合衆国であるため、そのアメリカ合衆国の支援を受ける四か国は経済的な発展が約束されていると言える。日本が経済大国になった一因もここにある。戦前はロシア帝国の抑止力となることを期待されて、大英帝国の支援を受けて列強の一角に上り詰めた。戦後は極東を共産主義から守る最後の砦として、アメリカ合衆国から強力な支援を受けた。ベトナムは社会主義国家でアメリカ合衆国の仇敵でもあるが、地政学的には非常に相性が良い。第二次世界大戦後の日米関係のように、米越関係も今後急速に近しいものとなっていくだろう。

かつて中国の好敵手は日本、ロシアの好敵手はドイツであった。しかし、日本とドイツは人口減少による内需の減少が見込まれており、両国の企業は海外市場への進出が避けられない。両国の企業が狙うのは地理的に近く、経済成長が著しい中国とロシアの市場であり、経済的な事情によって日本とドイツは正面から中国とロシアを敵に回すことができない。現在は韓国の中国依存が指摘されているが、韓国程度の規模であれば中国への抑止力としての期待から、アメリカ合衆国は韓国企業に自国の市場を提供するだろう。これが韓国ではなく日本になると、市場を全て食い尽くされかねないため、アメリカ合衆国は韓国にしかこのような優遇は行わない。そのため、日本とドイツはアメリカ合衆国とも、中国やロシアとも微妙な距離を保ち続けていくことになると思われる。その中で、韓国、ベトナム、トルコ、ポーランドはBRICsに次ぐ経済発展を遂げていくのではないかと予想する。

2015年10月30日金曜日

21世紀の中国が20世紀ドイツの歴史を歩むなら

安全保障関連法で一人負けする日本において、中国が直接的な武力行使に出ることは考えにくいと述べたが、20世紀初頭には国際社会を敵に回して戦争に突入した国が存在した。ヴィルヘルム2世率いるドイツ帝国である。当時のドイツ帝国と現在の中国は似通った点が多い。もし21世紀の中国が20世紀ドイツの歴史を歩むとしたらどうなるか、今後の展開を予想してみた。

ドイツ帝国は遅れて登場した列強である。大英帝国とフランス帝国が早くも17世紀には統一された国家を形成し、18世紀から植民地獲得競争を繰り広げる中、神聖ローマ帝国は三十年戦争によって分権化が進み、統一された国家の誕生は18世紀まで待たなければならなかった。ロシア帝国を除いて、ドイツ帝国はヨーロッパにおいて最大の人口を誇る。巨大な人口と豊富な石炭資源によって、ドイツ帝国は18世紀後半から産業革命による急速な工業化によって国力を上昇させていった。しかし、海外の利権は既に大英帝国とフランス帝国によって牛耳られ、ドイツ帝国は国際社会において国力に見合うだけの地位を与えられていなかった。ドイツ帝国は当時の覇権国家である大英帝国に匹敵する国力を有するようになっていたが、国民一人当たりの経済水準、民主化の程度などにおいて、先行する列強からは遅れをとっていた。

これは中国とも重なる点が多い。アヘン戦争以降、中国は清朝という形式上の国家によって統一されてはいたものの、実態は軍閥が割拠する分権的な政治体制となっていた。日中戦争、国共内戦を終えて、中国はようやく統一された国家となり、鄧小平によって計画経済から市場経済へと移行したことで急速な経済成長も成し遂げた。GDPは日本を上回って世界第二位に上り詰め、購買力に関してはアメリカ合衆国に匹敵するレベルに至っている。しかし、国際社会はアメリカ合衆国を中心とする先進国によって動かされており、共産主義という政治体制も影響して、中国は国際社会では一流国とは見なされていない状態にある。

中国が20世紀のドイツ帝国と同じ状況に置かれているとすれば、次に中国が目指すのは軍事力によって自らの地位を国際社会に認めさせることである。ドイツ帝国は典型的なランドパワーであるが、大英帝国との建艦競争に乗り出して積極的な海洋進出を図った。大英帝国の経済力の源泉は海軍力によって自由貿易をコントロールすることにあり、これは現在の覇権国家であるアメリカ合衆国にも共通する。中国もランドパワーでありながら、かつてのドイツ帝国と同じように海軍力の増強に力を入れている。南シナ海の領有権問題は21世紀のモロッコ事件となるかもしれない。

中国がドイツ帝国と同じように国際社会を敵に回して戦争に突入するとすれば、仮想敵国の筆頭とされている日本や台湾よりも、まずは朝鮮半島を軍事的に制圧するだろう。朝鮮半島を制圧することでアメリカ合衆国は中国大陸に容易に手出しをできなくなる。大陸の安全を確保してから、日本や台湾への空爆を開始するだろう。第一次世界大戦と異なり、中国は同じランドパワーであるロシアを同盟に引き込んでいる。陸路から中国を攻めることが難しいため、中国との戦争は長期化する可能性が高い。しかし、キール軍港の水兵反乱がドイツ帝国の崩壊を招いたように、中国は市民の反乱によって自壊するだろう。中国は国際社会において確かに政治的に異質であるが、市民レベルでは既に国際社会の仲間入りを果たしている。政治的な自由に加えて、経済的な利益の追求さえも政府に邪魔されるようになれば、中国で市民革命が起きるのは時間の問題である。

ただし、敗戦後の中国はさらに厄介なことになる。帝政ドイツ崩壊後にナチスが台頭したことを考えれば、敗戦によって屈辱を味わった愛国心の強い中国人が次に何を仕出かすかは分からない。これまでは良くも悪くも共産党によるコントロールが効いていたが、民主化によって中国のナショナリズムは暴走する可能性がある。敗戦後も相変わらず巨大な人口を抱える中国は更なる経済成長を遂げて、短期間に戦後復興を成し遂げることだろう。国際社会を相手に再度戦争へ突入することも可能である。アメリカ合衆国は民主主義を崇拝しているようだが、民主主義とナショナリズムが結びつくと独裁政治よりも危険な場合があることを理解する必要がある。長期的に見れば、共産党が中国の暴走を抑える可能性もある。

中国が本気で武力行使を図った場合、日本はどうするべきか。まずはアメリカ合衆国と連携して中国の侵攻に抵抗する必要があるが、負け戦が濃厚な場合はフランスのような立ち回りをするのも一つの手である。第二次世界大戦において、パリを占領されたフランスはナチスドイツに降伏した。以降、フィリップ・ペタンを首班とするヴィシー政府はナチスドイツに進んで協力することで、フランスの更なる荒廃を防いだ。そして東方でソビエト連邦が巻き返しを図り、連合軍によるノルマンディー上陸作戦も成功すると、フランス国民はすぐに手のひらを返してナチスドイツを追放した。そして現在は戦勝国として国際連合の五大国の一員の地位を占めている。被占領国としての苦難は並大抵のものではないが、核兵器や生物兵器を使われて将来の復興さえも望めなくなるような事態よりはマシだろう。アメリカ合衆国と中国の超大国に挟まれた日本はフランスのような強かさが必要である。

2015年10月27日火曜日

「東京大学 人文地理」で検索したら

「東京大学 人文地理」で検索したら、4年前に書いた進振りの記事が上位に出てきて驚いた。UT-Lifeの文三→養・広域科学科人文地理分科の記事。東大入学時に希望していた進学先…教養学部総合社会科学科国際関係論分科、教養学部地域文化研究学科、教養学部広域科学科人文地理分科、法学部政治コース、文学部歴史文化学科西洋史学専修って、今と全く興味が変わっていないのが面白い。結局、国際政治、ヨーロッパ、地理、近現代史なんかが好きなのは今後も変わらないのだろう。アニメ趣味も含めて、麻布で人生のいろいろなものが決まってしまったようである。

麻布高校といえば、南北線麻布十番駅から麻布高校に向かう通学路には長い坂があり、その坂は仙台坂という名前であった。江戸時代に仙台藩の下屋敷があったことが由縁だそうであるが、就職して仙台に住むようになるとは奇妙な縁である。江戸時代の参勤交代と違って、この先はずっと仙台住まいかもしれないが。仙台との縁は他にもあって、母方が伊達政宗の参謀片倉景綱で有名な片倉姓であり、父方の祖父の実家が神奈川県小田原市であるが、小田原という地名が何故か仙台市にも存在する。ちなみに小田原征伐における伊達政宗の遅参とは関係が無いらしい。20年以上住んできた川口市が東北自動車道の起点であるのも面白い。

麻布高校に話を戻すと、就職活動で鉄道会社に興味を持ったのも、地歴部の活動でJRを使い尽くして旅行したことと関係があるかもしれない。麻布学園地歴部ホームページには今も過去の旅行先が記載されているが、熊本、鹿児島、福岡、大分、下関、長崎など地歴部で行ったときのイメージが今に至るまで西日本のイメージとして残っている。住んだこともないのに、西日本というと何故か懐かしい気持ちになるのはそのせいか。

また、不動産ディベロッパーに興味を持つようになったのも、高校のすぐ近くに六本木ヒルズがあって、再開発というものに親しみを感じていたためかもしれない。そういえば地歴部の先生は再開発の研究に熱心で、旅行先の都市でも近年の開発状況について語っていたような気がする。東京というと、浅草のような下町でもなく、池袋や渋谷のような繁華街でもなく、新宿や丸の内のようなオフィス街でもなく、港区の武家屋敷跡地に立ち並ぶ大使館、麻布十番商店街と善福寺のような古い寺、森ビルによって再開発されたビルやマンションが一番に想起される。

最後に地理の話に振り返ると、大学の卒業論文は地熱発電開発における地域の合意形成というテーマであった。当初はサイクルシェアリングによって都市の交通がどのように変化するのか考察してみようと考えていたが、就職先に合わせてテーマを変更したものであった。立地自治体の規模によって自治体の姿勢が変わり、それに応じて温泉事業者を含めた地域の利害関係者の姿勢も変わってくる。つまり有名な温泉地が必ずしも地熱発電に反対するわけではないという結論に至ったが、突き詰めるとミクロな地域政治の話で地理の分野からはやや逸れていたような気もする。もう少し違う研究ができれば良かった。

2015年10月25日日曜日

農業+観光+再生可能エネルギーの3事業による農村経営モデル

TPP(Trans Pacific Partnership)によって日本の農業が衰退することが懸念されている。野菜と魚は全ての関税が撤廃され、聖域とされていた米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の五品目についても影響が及ぶことが判明した。アメリカ合衆国など海外の安価な農産物が大量に日本に流入して、日本の農業はこれまで以上に衰退に向かうだろう。しかし、日本の農家のほとんどは高齢者であり、TPPの影響がなくても日本の農業は崩壊の一途を辿るだろう。農村の人口は激減しており、今後ほとんどの農村が消滅することになる。

個性ある各地の農村を消滅させてしまうことは惜しい。人口減少の進む日本では今後更なる都市化が進み、9割以上の人は首都圏のような大都市圏か、効率的に運営される地方のコンパクトシティで暮らすことになるだろう。そのこと自体は誤りではないと思う。都市化と一人当たりGDPの増加には明確な相関性が見られ、都市化が進むことは先進国の証でもある。ただし、日本はこれだけ多様性に富んだ歴史ある国土を有しているのだから、シンガポールのような新興の都市国家には真似できない、地域資源を活用した発展の仕方があっても良いのではないかと思う。農村の活性化はきっと日本経済を良くする。

農村の主要な産業は農業である。あるいは山村であれば林業、漁村であれば水産業となる。これらは収益性を改善する必要はあるが、今後も主要な産業として維持していくべきだろう。ただし、農業だけで農村を経営していくことは難しい。そこで農村の第二の事業として観光、さらに第三の事業として再生可能エネルギーに取り組むことを提案する。農業、観光、再生可能エネルギーの3事業によって、農村が有する地域資源をフルに活用し、持続的な農村経営が可能になる。

まず、農業については量を捨てて質で勝負していくべきである。量を諦めるということは食料自給率にこだわらないということであるが、そもそもTPP交渉からも分かるように農産物は需要に対して供給が過剰である。日本の経済力が維持される限り、食の安全保障が脅かされる事態は想定できない。TPPは日本の農業が変化する良い機会でもある。農産物の輸入自由化が進むことで、農業にも競争が持ち込まれて収益性が改善する可能性がある。

広島県尾道市瀬戸田町はレモンの国内生産量の半分を占める農村であり、かつてはレモンの輸入自由化で危機に直面した。しかし、瀬戸田町は安全で品質の高いレモンの栽培に特化し、輸入レモンが入り込む余地のない市場を確保した。農薬の使用を抑えて、防腐剤を使わないことで、瀬戸田町のレモンは飲料や食事への付け合わせとして重宝されている。また、飲料や菓子などへの加工と販売で6次産業化も果たした。瀬戸田町の農業改革は主に農協が中心となって行われ、競争に晒されることで瀬戸田町のレモン農業は発展を遂げた。TPPを契機に、他の農村も個性ある特産品の生産に集中するべきだと思う。そのためには稲作から果樹栽培や酪農といった収益性の高い農業への転換が必要になるだろう。

また、農村は第二の事業として観光に力を入れるべきである。ヨーロッパでは農村における体験型の観光がメジャーである。農業体験や農村での生活は新しいタイプの観光で、実は出会いの場として若者にも人気である。もちろん風光明美な景観を必要とするため、水田、畑、民家、道路などが入り混じった汚い景観の農村ではできない。北海道の美瑛町のような綺麗な農村であることが望まれる。そのため、山岳や海浜といった恵まれた景観を有する地域であることが条件で、組織的に農村の景観を整えていく必要がある。また、古い民家を改装して農家レストランや宿泊施設を整備し、都市から観光客を受け入れるための準備もしなければならない。星野リゾートが経営危機に陥ったホテルを再生するように、農村観光のプロフェッショナルがこうした農村の改革を進めていく必要がある。

農業、観光に加えて、再生可能エネルギーが農村の第三の事業となる。バイオマス、地熱、風力、中小水力といった再生可能エネルギーは農村の数少ない資源である。国は農村新興の側面から地域活性化に役立つ再生可能エネルギー事業をもっと支援していくべきだろう。発電所の経営は農村の貴重な収益となるが、再生可能エネルギー事業には初期投資がそれなりに必要となる。これについては農村の外部、即ち都市の住民から出資を求めるべきである。市民風車という市民セクターによる発電所開発モデルが既に存在しており、環境保護やエネルギー問題に関心のある比較的富裕な層から支援を得られる場合が多い。さらに新電力を立ち上げて、再生可能エネルギーで発電した電気を都市住民を中心に販売すると収益力がより向上する。都市住民には地域の農産物をプレゼントし、農村観光に招待することで、他の電力会社との差別化を図る。電気は商品として価格以外に差別化を図ることが難しいとされているが、高い電気であっても消費者に特別な価値を見出させることで購買意欲を引き出すことができるだろう。

農業、観光、再生可能エネルギーの3事業はそれぞれがシナジー効果をもたらす。例えば特産品の農産物や農業体験は観光資源となる一方で、観光客への物販や農家レストランなどで農産物の需要を押し上げてくれる。バイオマス発電や地熱発電で得られる余熱はハウス栽培に役立ち、実際に北海道森町は地熱発電の余熱を利用したハウス栽培でトマトの一大産地に成長した。山村であれば間伐材がバイオマス発電の燃料となり、本業以上の収益を生み出す可能性がある。福島県郡山市の布引高原には日本最大級の風力発電所があるが、猪苗代湖を望む布引高原は風車群によって一躍有名な観光地となった。

これらのシナジー効果を総合的な視点からコントロールするためにも、これら3事業を束ねて農村経営をリードする組織が必要となるだろう。食品流通、農村観光、電気事業といった分野の専門家、さらにこれらの事業を外部にPRするための広報活動に長けた人材も必要となる。一つの農村でこれほどの人材を揃えることは難しいため、農村コンサルタントのような組織が全国の農村をプロデュースしていくことが望ましい。農業は農林水産省、観光は国土交通省の観光庁、再生可能エネルギーは経済産業省の資源エネルギー庁というように各事業を管轄する省庁は異なるが、農村問題解決のために政府は分野横断的に農村を支援していくべきであると思う。

2015年10月24日土曜日

原作から予想する冴えカノ2期の構成

富士見書房の11月新刊欄に「冴えない彼女の育てかた9」の表示が…!冴えない彼女の育てかた9巻は11月20日発売で、9巻の表紙は小学生時代の英梨々となる予定。8巻は加藤と英梨々の関係がギクシャクする中、倫也が仲直りの場を設けることに成功したが、ラストでフィールズ・クロニクルのPV配信を見た加藤が英梨々との距離感を再び感じてしまったところで終わった。表紙を見る限りだと9巻の主役は英梨々で、英梨々の過去についても語られそうな気配。冴えない彼女の育てかた8巻 感想で予想したように、8巻でサークルを立て直したところで、いよいよ9巻は倫也、加藤、英梨々の三角関係が始まりそう。やはり第2部から加藤と英梨々のダブルヒロイン体制に本格的に入ったと考えられ、そうするとストーリーの連続性から考えて、アニメ2期は5巻~7巻とGirs Sideで構成されそう。以下、アニメ2期の構成を予想。

1話~3話
1期ラストで美智留が音楽担当として加入し、メンバーの揃った同人ゲームサークルblessing softwareは冬コミに向けて本格始動する。まずは詩羽先輩がシナリオを完成させるが、密かに第二のシナリオ(瑠璃ルート)を作成していた。自分とキャラ設定の似た瑠璃ルートを倫也に突き付け、巡璃ルートと瑠璃ルートのどちらのシナリオを採用するのか迫る。

一方、倫也がライバル視する伊織の同人サークルrouge en rougeもblessing softwareと同じく伝奇ゲームを製作することが判明。さらにrouge en rougeのイラストは出海が担当することとなり、英梨々と出海の対決が早くも冬コミで実現することとなった。伊織から詩羽先輩のシナリオではrouge en rougeに勝てないと宣戦布告を受け、倫也はどちらのシナリオを選ぶべきか悩むことになる。悩む倫也に対して、加藤は詩羽先輩が書き上げた二つのシナリオを一度ゲームにしてみることを勧める。

加藤の協力を得て倫也は試作品を完成させるが、小説家である詩羽先輩のシナリオはゲームとしてプレイするには致命的な欠陥を抱えていることが判明する。小説とゲームシナリオの違いを認識した倫也は詩羽先輩に問題点を告げ、論戦の末に詩羽先輩も自分のシナリオの問題点を認める。倫也は詩羽先輩と共に連日の徹夜に及ぶ修正作業を行い、二つのシナリオをゲームに組み込むだけではなく、自らが望む第三のシナリオの執筆まで手掛けることになる。シナリオを完成させた倫也はシナリオライターとしてクリエイターの仲間入りを果たす。

4話~6話
シナリオの完成に続いて、美智留の音楽も完成。美智留が製作したエンディング曲は英梨々と詩羽先輩も黙らざるを得ない素晴らしい出来であった。そして次はイラストを担当する英梨々のターンであるが、シナリオの完成が遅れた上に分量が増加したことで英梨々は重い負担を抱えることになる。イラストに集中するため那須の別荘に籠る英梨々は最初こそ倫也と連絡を取っていたものの、途中からスランプに陥って遂に倫也との連絡も途絶えてしまう。

締切を間近に控え、極限状態でイラストと向き合った英梨々は才能の殻を破ることに成功する。描画手法を一新させた英梨々は後に倫也も認めることになる凄いイラストを仕上げる。しかし、英梨々は倫也にイラストを送る前に病気で倒れてしまう。伊織の助けを得て英梨々の別荘に向かった倫也は倒れている英梨々を発見する。作品納入の締切が近づく中、倫也は英梨々の看病を優先して冬コミ参加を諦める。

作品納入に間に合わなかったことを知った英梨々は憤慨するが、倫也から才能を認めてもらったことに素直に喜びを見せる。英梨々の看病をしていた倫也も風邪に倒れ、倫也と英梨々はクリスマスを二人きりで別荘で過ごすことになる。倫也は英梨々が自分にとって特別な存在であることを認め、二人は八年ぶりに仲直りを果たす。

7話~9話
blessing softwareは出店規模こそ大幅に縮小させたものの、何とか冬コミでcherry blessingを頒布することに漕ぎ着ける。詩羽先輩のシナリオと英梨々のイラストが話題となり、高い評価を得たcherry blessingは委託販売において大成功を収める。一方、英梨々が倒れたときに倫也から何も相談をしてもらえなかったことで、加藤は倫也と距離を置くようになる。

加藤は冬コミを最後にサークルに顔を出さなくなっていた。英梨々は倫也と再び仲良くなれたことに嬉しさを感じる一方、現状に満足してしまったことで、倫也と一緒にいると最早クリエイターとして成長できないことに気付いてしまった。さらに詩羽先輩の卒業を控え、冬コミが終わった後のblessing softwareはギクシャクした雰囲気に包まれていた。加藤のことを気がかりに思う倫也は街で偶然加藤を見かけ、サークルのミーティングに誘うメールを加藤に送る。そこで倫也が目にしたのは三十分以上も倫也からのメールを見つめている加藤の姿であった。

加藤との仲直りを目指す倫也は加藤をメインヒロインにしたゲームをもう一度つくることを決心し、新作「冴えない彼女の育てかた(仮)」の企画書を書き上げる。倫也は強引に加藤を視聴覚室に連れ込み、新しい企画のプレゼンを披露する。英梨々と仲良くしていることに加藤は腹を立てているのではないかという倫也の勘違いは見事に否定されることになるが、倫也は加藤がどれだけサークルを大切に思っていたのか知ることになる。ようやく加藤と仲直りを果たした倫也だが、詩羽先輩から驚愕の告白を突き付けられることになる。それは英梨々と詩羽先輩のサークル脱退であった。

10話~12話
英梨々と詩羽先輩の出会いについて語られる。恋するメトロノームをきっかけに詩羽先輩は倫也と仲を深めるが、図書室で仲睦まじくする二人を見て快く思わない英梨々であった。しかし、英梨々も恋するメトロノームを読んで、霞詩子のファンになってしまう。一方、詩羽先輩もインターネットで見付けた柏木エリのイラストに魅了され、美術部のエースである英梨々が柏木エリであることに気付いてしまう。倫也を巡っては仲の悪い二人であるが、クリエイターとしては互いを尊敬して認め合う間柄となっていた。

大物クリエイター紅坂朱音はcherry blessingで見せた英梨々の才能に目を付けて、詩羽先輩と合わせてblessing softwareからの引き抜きを図る。英梨々と詩羽先輩は当初こそオファーを断るつもりであったが、紅坂朱音と対面してその凄まじい才能に惹きつけられてしまう。紅坂朱音からビッグプロジェクトに誘われた英梨々はクリエイターとして成長するため、倫也から離れてサークルを脱退することを決める。英梨々の才能に惹かれる詩羽先輩も英梨々と共にサークルを脱退することを決め、二人は紅坂朱音に立ち向かっていく。

二人のサークル脱退を知って茫然自失となった倫也は引きこもる。一方、親友だと思っていた英梨々のサークル離脱にショックを受けた加藤は英梨々の家を訪れるが、英梨々のサークル脱退を理解できないまま二人の関係は断絶してしまう。倫也は二人のサークル脱退に心の整理をできないでいたが、1年前と同じ桜の舞う坂道で加藤と再会し、倫也は加藤をもう一度メインヒロインにすべく再びサークルを立ち上げることを決める。大阪に出発する英梨々と詩羽先輩を見送りに来た倫也はblessing softwareを大きなサークルに育て上げて、いつか紅坂朱音から二人を奪い返すことを宣言する。英梨々は倫也と加藤、二人の思い出として加藤が選んだ倫也のメガネを貰い、詩羽先輩は倫也のファーストキスを奪う。詩羽先輩からシナリオライターとしての才能を認められた倫也は自身でクリエイターの道を進むことを決意する。新学期、倫也と加藤は新入生として入学した出海と出会う。新生blessing softwareの幕開けである。

以上がアニメ2期の構成予想である。Girls Sideは本編の補足という位置づけであるが、本筋に大きく関わっているのでアニメにも取り入れられるのではないかと予想した。1期はメインヒロインの加藤と負け組ヒロインの英梨々と詩羽先輩という構図ができていたが、原作6巻を境に英梨々はヒロインとして急成長を遂げ、加藤と英梨々のダブルヒロイン体制が構築されていく。倫也も英梨々に特別な感情を抱いていることが示唆されており、英梨々の物語における立ち位置が1期とは大きく変わってくることだろう。

英梨々は恋愛か仕事かという究極の選択を迫られ、最終的に仕事を選ぶことになる。そして詩羽先輩もクリエイターとしての決断を迫られる。ただの萌え作品ではない、クリエイターの生き様を見せつけられるシリアスな展開が待っている。さらに倫也と加藤の関係が冷え込んだり、親友であったはずの加藤と英梨々は仲違いをすることになり、後半はシリアス展開が続くことになる。あざといまでのキャラクターの魅力は間違いなく冴えカノの長所であるが、キャラ萌えだけが冴えカノではない。加藤とのすれ違い、英梨々と詩羽先輩のサークル脱退、こうしたシリアス展開こそ丸戸史明の真骨頂であり、上手くアニメ化できたら間違いなく1期を超える神作品になると思う。

また、英梨々が活躍することで出番の減る加藤だが、2期の加藤は1期よりも存在感が増すことになるだろう。倫也と加藤の仲直りのシーンは感動必至であり、加藤が人並み外れて付き合いが良いだけの、ただのフラットな女の子ではないことが明らかになる。1期の加藤は何となく浮世離れした印象があったが、2期ではリアルな女の子の姿が描かれることになるだろう。

冴えカノ1巻~7巻までの軌跡(神MAD)
【MAD】introductory chapter【冴えカノ】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm26592564

2015年10月23日金曜日

映画ソードアート・オンラインのオリジナルエピソードについて

ソードアート・オンラインの映画化が決定した。時期や内容は未定だが、原作者である川原礫の書き下ろしでオリジナルエピソードとなるらしい。アニメ2期の続きであるアリシゼーションは原作の半分以上を占める大長編のため尺が足りないし、オリジナルエピソードは妥当なところだろう。ただし、エクストラエディションとかキャリバー編みたいな、とりあえず主要人物を全員登場させました的なありきたりエピソードだったら残念。ソードアート・オンラインはアインクラッド編が一番面白いと思うので(ほとんどの人はこの意見に同意してくれると思う)、アインクラッド編の番外編が見たいと思う。ただし、一番好きなキャラクターはリーファなので(この意見には同意しない人も多いかもしれない)、アインクラッド編だとリーファの出番がない…という葛藤に悩まされていた。

しかし、書き下ろしのオリジナルエピソードなら、アインクラッド編のIFという形でこの葛藤は乗り越えられるのではないかと閃いた。もしリーファがアインクラッド編から登場していたらというIFである。ソードアート・オンライン プログレッシブで原作者がほとんどIFみたいな話を書いているので、もしかするとリーファがアインクラッド編から登場するIFも、ひょっとすればアリなのではないかと思う。

もしリーファをアインクラッド編から登場させるのであれば、アインクラッド編はアスナとリーファのダブルヒロイン制にすることが望ましい。このIFは川原礫が書けば間違いなく面白くなる。ソードアート・オンラインの良くないところは、アインクラッド編でキリトとアスナが結ばれる流れが単調すぎることにある。アスナしかヒロインがいないからアスナを選んだと言われても仕方がない(シリカとリズベットはただのサブキャラである)。また、アインクラッド編でキリトがアスナと結ばれているにも関わらず、後からリーファ、シノン、アリスといった負け組ヒロインを次々と出していることも解せない。リーファ編もシノン編も完成度は高いのであるが、キリトとアスナが既に結ばれていることが分かっているから、新しい恋愛について書かれても気持ちが追い付かない。

ソードアート・オンラインは徐々に話がつまらなくなっているように思うが(ネットでもそのような風潮はある)、その原因は恋愛面で既に決着が着いていることにある。「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」では桐乃と黒猫のどちらが勝利するのか最後まで分からない熱い展開が繰り広げられたし(ネットでも第三勢力あやせ派を含めて大論戦となったし)、今だと「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」で雪ノ下エンドになるのか、由比ヶ浜エンドになるのか、喧々諤々の議論が交わされて大いに盛り上がっている。ライトノベルでラブコメがメインの作品というのは、三角関係でどちらのヒロインが選ばれるのか最後まで分からない作品(とらドラ!、俺妹、青春ラブコメなど)、あるいはメインヒロインは一人でも最後まで結ばれない作品(涼宮ハルヒ、文学少女、狼と香辛料など)の二種類に大まかに分類できる。そしてラストに向かって盛り上がっていくのが一般的である。しかし、ソードアート・オンラインは原作2巻目、アニメ1期1クール目にしてアスナと結ばれてしまっている。フェアリーダンス編以降、キャラクターやストーリーは相変わらず魅力的であるにも関わらず、ドキドキ感に欠けて面白くないのは、これが原因である。ミステリー作品などであれば話は別だが、ソードアート・オンラインはやはりラブコメ作品だと思うので、キリトとアスナがすぐに結ばれてしまったのは失敗だと思う。キリトがリーファとくっつく可能性を残しておくことで、より面白いストーリーになったと思う。中二病でも恋がしたい!も同じ原因で話がつまらなくなっており、七宮が一人で失恋するだけのアニメ2期の失速感は残念だった。

そこでリーファをアインクラッド編から登場させて、アスナとリーファのダブルヒロイン制にする。キリトが惹かれているVRMMOへの興味から、キリトに内緒で直葉もSAOの世界にログインしていたという設定が良いだろう。ALOのキャラクターデザインが優れているので、オリジナルスキルという設定で、外見はALOのリーファのままにしたい。リーファはキリトが兄であることに当然気付くが、キリトはリーファの外見がリアルと異なるため直葉であることに気付かないという、原作とは少し異なる設定にする。アインクラッド第1層のフロアボスを倒してキリトがアスナと別れた後、第2層からリーファを登場させる。紆余曲折を経て、キリトとリーファをコンビにする。リーファはキリトにあえて自分の正体を明かさない。キリトはリーファといる時間の方が長いが、ボス攻略やイベントなどでアスナも毎回キリトに絡んできて、リーファがやきもきするような展開が見られるだろう。やはり最終的にはキリトに妹であることがバレてしまい、リーファが逃げ出すような展開が面白そう。恋愛面ならアスナ編よりリーファ編の方が格段に面白いと思うので、リーファを登場させてアインクラッド編を再構成して欲しい。

2015年10月19日月曜日

安全保障関連法で一人負けする日本

第二次世界大戦後、日本とドイツは敗戦国であるにも関わらず急速な経済発展を遂げた。フランスの人口学者 エマニュエル・トッドについてで述べたように、日本とドイツの経済的成功は民族的な側面が強い。教育熱心で組織力が強い直系家族の特徴が日本とドイツを先進国でもトップレベルの工業国に押し上げた。しかし、日本とドイツは敗戦国であったが故に経済発展に成功したという側面もある。アメリカ合衆国やソビエト連邦といった戦勝国は第二次世界大戦後も多額の予算を軍事費に当てた。冷戦の主役ではなかったイギリスやフランスも同様である。敗戦国である日本とドイツは軍備の増強が認められず、僅かに自衛のための戦力を保持することしかできなかったが、自国の安全保障に要する費用をほとんどアメリカ合衆国に押し付けて、余った予算を道路や港湾といったインフラ整備などに注ぎ込んで経済発展に専念することができた。現在でもGDPに占める軍事費は日本とドイツでは1%程度なのに対して、イギリスとフランスは2%、アメリカ合衆国は3%を超えている。

安全保障関連法は上記のような日本に有利な構図を崩しかねないものである。集団的自衛権を行使して、アメリカ合衆国と共に戦うということは、これまで押し付けていた軍事費を今後は日本が負担していくということである。シェール革命以降、アメリカ合衆国にとって中東の重要性は低下しているため、ホルムズ海峡などのシーレーン防衛は今後日本に押し付けられる可能性もある。今後の日本は人口減少による経済力の低下と高齢化による社会保障費の増加によって、財政面でダブルパンチを食らう。軍事費などは真っ先に削減したい項目であるにも関わらず、軍事費を増やす方向に進んでいるのは問題である。

軍事費の増加以上に問題なのが日本のイメージ悪化である。表向きは軍事力を持たず、第二次世界大戦後は一切戦争に参加していない日本の姿勢というのは、一般的に海外では好意的に評価されている。アメリカ合衆国がイラク戦争によって国際的な評価を大いに下げたのとは大違いであり、憲法9条をノーベル平和賞に推薦する動きまである。安全保障関連法は戦後日本のこれまでの経歴に傷を付けるものであり、国際的な評価を下げるだけではなく、テロの標的になる可能性まで高めてしまう。中国や韓国は安全保障関連法を軍国主義日本の復活と宣伝して、反日攻勢を強めており、まさに敵に塩を送る形にもなってしまった。

これまで日本は自国の安全保障にアメリカ合衆国の金を使った上、戦争をしない国ということで国際的にも良い顔をすることができた。金を使わされた上に世界中で嫌われるアメリカ合衆国にとっては本当に災難なことだが、歴史的な経緯もあって日本は恵まれた環境に甘え続けてきた。これほど恵まれた環境を自ら捨てる必要はないように思う。もっとズル賢くアメリカ合衆国を利用し続ける道はなかったのか。安全保障関連法の成立をアメリカ合衆国は大いに喜んでいるだろう。

安全保障関連法の背景には中国脅威論がある。中国は海軍力を強化しており、尖閣諸島、台湾、南シナ海といった領有権問題を抱える地域では、近い将来に紛争が発生することが危惧されている。また、マラッカ海峡、ホルムズ海峡を経由してペルシャ湾に至る日本のシーレーンを中国に遮断されてしまうことも恐れられている。中国は既にアジアの海を支配しつつあり、これは真珠の首飾り戦略として知られる。カンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、モルディブ、パキスタン、スーダン、これらは中国の海軍基地が立地する国々であり、経済的支援と引き換えに実質的な中国の勢力圏となっている。シーレーンを遮断されると、食糧やエネルギーといった資源を海外に依存する日本の状況はかなり厳しいものとなる。

しかし、中国が直接的な武力行使に出ることは考えにくい。アメリカ合衆国はもちろん、近年中国に融和的な姿勢を示しているイギリスやドイツなどの先進国も、中国の武力行使は決して認めないだろう。国際社会で孤立したナチスドイツの二の舞は中国としても避けたいはずである。恐らく日本は中国の軍事力ではなく、経済力と外交手腕によって苦しめられることになる。中国はインフラ投資や金融支援を通じて、発展途上国に多大な影響力を及ぼすようになっている。日本企業の海外での経済活動を邪魔することなど造作もないだろう。中国の息のかかった現地の政治家によって、日本企業のガス田開発が突然凍結されるといった事態は大いに考えられることである。また、真珠の首飾り戦略において中国の勢力圏となっている国々は将来的に日本の商船の停泊を認めなくなるかもしれない。軍事力はあくまでもアメリカ合衆国や日本に文句を言わせないようにするための脅しにすぎない。

つまり中国の脅威は軍事的なものではなく、外交的なものであり、経済的なものである。日本は集団的自衛権を議論するよりも、中国以上にアジアの国々に対する影響力を強めていくことを考えた方が良い。南シナ海問題で中国と対立するベトナムとフィリピン、真珠の首飾りに包囲される形となったインド、まずはこれらの国々との関係を深化させていくべきだろう。そして何よりも強い経済が日本の最大の武器となる。ドイツはその経済力によって実質的にヨーロッパを支配している。経済力が軍事力を打ち負かすことは冷戦の結末からも明らかであり、外交や経済よりも軍事を優先した安全保障関連法は日本の国益にはならない。それどころか、アメリカ合衆国と中国という二つの超大国を利するだけで終わってしまうだろう。安全保障関連法は日本が一人負けする未来しか見えない。

2015年10月18日日曜日

もし毛利家の九州移封が実現していたら

徳川家が小田原征伐後の関東に移封させられたように、毛利家も九州征伐後の九州への移封が検討されていた。東の大勢力である徳川家を都から遠ざけようとして関東に国替えしたのだとすれば、同じく西の大勢力である毛利家を都から遠ざけようとしても不思議ではない。毛利家は大坂に通じる瀬戸内海の制海権を握っており、豊臣政権から見て本来は徳川家よりも危険な存在である。小早川隆景が毛利家の九州移封を回避するために奔走したという話もあるが、徳川家が関東移封によって勢力を強めたことを考えれば、九州移封は毛利家にとってチャンスになっていた可能性がある。

毛利家は九州征伐の段階で、山陽山陰に120万石、四国征伐後に小早川家に与えられた伊予も含めれば160万石にも達する石高を有していた。しかし、毛利家は当時の多くの大名と同様に地方領主の独立性が高く、信長や秀吉のような集権的な政治体制は築けていなかった。国替えは毛利家が集権的な政治体制を築き上げる絶好の機会であった。独立性の高かった地方領主も見ず知らずの土地に移れば、大名の支援なくしては領地を治めることさえできない弱い存在となってしまう。豊臣政権という大きな権威の下で、毛利家は政治体制を改革することができたはずである。

また、信長や秀吉が戦争に滅法強かったのは、兵農分離によって機動力のある常備軍を編成したためであった。九州移封は毛利家にとって兵農分離を図る機会でもあった。当時の武士の多くは戦争がない期間は農民として土地を耕す者がほとんどであった。上杉家の軍事行動が秋の収穫を終えて、春の種蒔きが始まるまでの半年間に限定されていることはよく知られている。しかし、国替えはそうした半分農民、半分武士といった多くの人々に武士になって移住するか、農民として土地に残るかという究極の選択を突き付ける。

徳川家は実際に関東移封によって石高を倍増させただけではなく、集権体制を築き上げ、兵農分離による常備軍の設立にも成功している。国替えによって近代的な大名へと変化を遂げたことが、秀吉死後の家康による天下取りを可能にした。毛利家の九州移封が実現していれば、秀吉死後の権力闘争において毛利家は史実よりも積極的に動くことができていたに違いない。毛利家が西日本の諸大名を味方に付けて、徳川陣営を破っていた可能性もある。その場合、徳川家が関東から京都に至る広大な地域を治めたように、毛利家も九州から京都に至る地域を治めて、西日本に毛利幕府なるものを築き上げていただろう。

毛利幕府の拠点は豊臣政権と同じく大坂になる。大坂は既に日本経済の中心地であり、瀬戸内海と山陽道を通じて毛利家の新たな本拠地となった九州からもアクセスしやすい。史実においても、江戸時代を通じて大坂は商業の中心地としての地位を保ち続けた。もし政権が東日本に移っていなければ、大坂は史実以上の発展を遂げただろう。そして大坂と博多をつなぐ山陽道は史実における東海道のような発展を遂げていたに違いない。毛利家の一門が西日本の要所に配置され、備前岡山、肥後熊本、伊勢津などが御三家の城下町となっていたかもしれない。徳川幕府が東国を独占しようとしたように、毛利幕府も西国を独占しようとする。日本を分断する敦賀-桑名のラインを最前線として、主要な外様大名を東日本に押し込める。海外との貿易を神戸と博多の港に限定し、西日本を中心とした貨幣経済を確立すれば、経済力において毛利家の右に出るものはいなくなるだろう。

19世紀後半から日本の近代化が始まるが、関西の金融業と繊維産業、北九州の石炭産業と鉄鋼業に代表されるように西日本は近代明治の中心であった。毛利幕府が成立していたとすると、西日本のみが発展する歴史を辿ることになる。東日本には日本の外貨獲得の手段となった生糸の産地が多く存在するが、西日本の財界が流通を独占していれば、富は東日本ではなく西日本に流れ込むことになる。ドイツが東西で経済水準に差があるように、日本経済も東西で大きな隔たりができていたかもしれない。

2015年10月17日土曜日

超大国ドイツが生まれた可能性

超大国の核となりうる地域はアメリカ東海岸、ヨーロッパ北西部、中国東海岸、日本の四地域しかない。人の居住に適した温帯で、外洋に面した港を有する地域がこの四地域しかないためである。この四地域は貿易港を中心に巨大な都市圏を形成し、世界経済の中心地としての地位を築く。ニューヨーク、ロンドン、パリ、上海、香港、東京といった世界都市は全てこの地域に集中している。人、物、金が集積するこれら四地域は潜在的に超大国を生み出す可能性を秘めている。しかし、これら四地域だけでは超大国に成長することはできない。周辺の地域を支配し、広大な農地、森林、鉱物資源、化石燃料を手に入れることが肝要である。第1次産業があって初めて第2次産業は生まれ、第1次産業と第2次産業があって初めて第3次産業は生まれる。

アメリカ合衆国はこの点において、全ての条件を満たしている。アメリカ中央平原は小麦、トウモロコシ、大豆など主要農産物の世界的大産地であり、鉄鉱石、石炭、原油といったあらゆる天然資源に恵まれている。過去の超大国である大英帝国も世界中に植民地を有することで、この条件を満たしていた。超大国を目指したドイツ帝国と大日本帝国はそれぞれヨーロッパ、中国を支配することでこの条件を満たそうとしていた。しかし、フランス革命以降の民族主義の時代においては、他民族の居住地域を長期的に支配することは難しく、これらの試みは頓挫した。アメリカ合衆国が超大国として現在も安定しているのは、その住民が人種や宗教は異なるといえども文化的に同質なためである。同じ条件を満たす中国も超大国となることは確実である。

アメリカ合衆国、中国の他に超大国となりえた国が一つだけある。それはドイツである。もしグスタフ2世アドルフが戦死しなければでは、スウェーデン王国によるドイツ統一のシナリオを検討した。ドイツを統一したプロイセンは小国から出発したため、統一ドイツの領域は自然と小さいものになった。異なる歴史を辿っていれば史実よりも規模の大きなドイツ帝国が誕生していたのではないかと思われる。超大国ドイツの最大版図は現在のドイツ、オーストリア、スイス、ネーデルラント3国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)、北欧5国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランド)、中欧6国(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、クロアチア)によって構成される。ドイツ、オーストリア、スイスは同じ民族であり、ネーデルラントと北欧もドイツとは同じゲルマン系で文化的に非常に近く、隣接するイギリス、フランス、ロシアとは全く異なる文化圏を形成している。中欧はドイツとは民族的に異なるが、近代以降プロイセンやオーストリアに併合されて同じ歴史を辿ってきた。経済的な繋がりは非常に密接であり、ドイツ人の入植も活発だった。18世紀後半から19世紀にかけてアメリカ合衆国に入植するドイツ人が多かったが、彼らが中欧に入植していれば中欧は完全にドイツと同化していただろう。中世におけるエルベ川以東へのドイツ人の入植が示すように、ドイツは潜在的に東方の空白地帯に進出しようとする傾向がある。

もし上記のような超大国ドイツ帝国が成立していれば、現在の人口は2億2000万人、GDPは10兆ドルに迫る。金融と商業に強いネーデルラントとスイスを加えることで、製造業に特化したドイツの弱点を補うこともできる。もちろん中欧はドイツ企業の工場が多く立地するドイツ製造業の後背地であり、北欧も小国でありながら世界規模のメーカーが密集するため、ドイツの製造業はこれまで以上に強化される。製造業の分野ではドイツ帝国はアメリカ合衆国を超えるだろう。総合的な国力としてはアメリカ合衆国の2/3程度の規模となり、アメリカ合衆国と十分に覇権を争うことができる。

超大国ドイツは空想の産物ではない。ドイツ帝国、ナチスドイツがイギリス、フランス、ロシア、アメリカ合衆国といった世界の大国全てを敵に回して世界大戦に突入したのは、自国に並々ならぬ自信を持っていたからであろう。ドイツに大局的な外交センスさえあれば、超大国ドイツ帝国は現実のものになっていたはずである。ヨーロッパ随一の知性であるエマニュエル・トッドも著書「ドイツ帝国が世界を破滅させる」において、EUシステムによって今後ドイツが超大国になる可能性を指摘している。史実では失敗に失敗を重ねたドイツであるが、少しでも歴史が変わっていれば現在は間違いなく超大国の地位に就いていたはずである。

ドイツが世界大戦で敗れた最大の要因は、ロシアとゼロサムの全面戦争に突入して国力を疲弊させたことであった。ドイツとロシアは東欧において利害関係が対立しやすいが、両国が同盟を結ぶメリットは非常に大きい。もしランドパワーの二大勢力であるドイツ帝国とロシア帝国がお互いに同盟を結んでいたら、両国はこれ以上ないほどの安全保障を得ることができただろう。ドイツ帝国はヨーロッパと中東、ロシア帝国は極東と中央アジアにおいて勢力の拡大に勤しむことができるようになる。また、ドイツの製造業とロシアの資源産業は補完関係にあるため、両国は経済的パートナーとしても相性が良い。ヨーロッパ大陸におけるゲルマン民族の統合、中欧への積極的な入植に加えて、ロシア帝国との同盟がドイツ帝国を超大国に飛躍させる鍵となるだろう。

2015年10月14日水曜日

岩手旅行記録

今年は何故か岩手県に四回も旅行している。東北自動車道を北上するのにも大分慣れたような気がする。関東と違って東北の高速道路は視界が開けており、運転するだけでも楽しめるのが良い。岩手県は宮城県の陰に隠れて地味なイメージがあるが、三陸のリアス式海岸、奥羽山脈の活火山と風光明美な土地が多い。

◆岩手山
最初に行ったのは7月の岩手山であった。岩手県の最高峰で2000mの高さがある。岩手山というと、壬生義士伝の主人公である南部藩出身の吉村貫一郎の言葉を思い出す。南部盛岡、それは美しいところでござんす、南に遠く早池峰山、西は南昌山に東根山、北の御山は岩手山、姫神山、ぐるりを高い山々に囲まれて、城下を流るる中津川は桜の馬場の下で北上川と合流いたしやす、いやあこんたな絵に描いたような土地はこの日の本に二つとなござんす。

南部富士の名称通り、富士山のように綺麗な形をした山である。江戸時代に溶岩流が発生し、現在も焼走り溶岩流として黒い岩原が残っている。本来の山道を外れて、何故か途中この溶岩流を登った。山頂まで5時間くらいかかったが、途中で水がなくなり死ぬかと思った。でも、山頂付近から見えた小さな碧い湖は綺麗だった。クリスタルガイザーやエヴィアンのCMに出てきそう。




◆盛岡
8月は盛岡さんさ踊りに行った。さんさ踊りは南部藩の時代から続く和太鼓を用いた踊りであり、東北夏祭りの一つである。盛岡城の堀の近くから見学した。踊り手が次々と道路に繰り出す形式で、企業や学校などいろいろな団体が参加していた。わんこ兄弟もいる。やはり祭りの衣装は赤い色が一番似合う。





さんさ踊りと合わせて、盛岡市の北西に位置する小岩井農場にも行った。観光エリアはまきば園として開放されている。馬には乗ったが、できれば羊とか山羊とも触れ合いたかった。今年の夏は何故か盛岡競馬場に二回も行き、馬と触れ合う機会が多かった。


◆浄土ヶ浜
8月は三陸海岸随一の景勝地である浄土ヶ浜にも行った。坂の上から見下ろした浄土ヶ浜が一番綺麗だったが、写真がないので近くから撮った浄土ヶ浜を一枚。以前訪れたときは海水浴客は一人もいなかったが、この日は完全な海水浴場と化していた。しかし、寒流の千島海流が流れる岩手の海は寒かった。


◆栗駒山
ラストは10月の栗駒山である。栗駒山は紅葉で有名な山で、岩手県、宮城県、秋田県と三県の県境に位置する。山道の入口には須川温泉があり、須川高原温泉と栗駒山荘の二軒の温泉宿が存在する。どちらも眺めの良い露天風呂が有名なので、是非入ってみたい。紅葉も綺麗だが、寂しげな雰囲気の漂う湿原も良い。




2015年10月4日日曜日

独占禁止法から考える電力業界の再編

独占禁止法に抵触する市場占有率の目安は5割とされている。スケールメリットによる競争力向上を求めるのであれば、各業界の企業はいずれ2社もしくは3社に収斂していくと考えられる。航空業界は日本航空と全日本空輸の2社体制、通信業界はNTT、KDDI、ソフトバンクの3社体制が既に確立されている。経済産業省が業界再編に躍起になっていることもあり、今後の日本では大企業の合併による業界再編が加速していくと思われる。

鉄鋼業界は2012年に新日鐵住金が誕生したことで、2002年に誕生したJFEホールディングスとの2強体制が出来上がった。ただし、2社で完全にシェアを独占できているわけではない。新日鐵住金が3割強、JFEホールディングスが2割強、複数の鉄鋼メーカーが残りのシェアを少しずつ持ち合っている。それでも新日本製鐵と住友金属が合併するときに、シェアの高い一部製品の事業を別会社に譲渡せざるを得なかった。今後は業界3位で1割強のシェアを有する神戸製鋼所が既に新日鐵住金と提携しているため、更なる合併へと進む可能性が噂されているが、次は独占禁止法に抵触する恐れもある。

鉄鋼業界と並んでスケールメリットの発揮しやすい石油業界も再編が進む。2010年に誕生したJXホールディングスが3割のシェアを有し、業界2位の出光興産が2割弱、業界3位~5位のコスモ石油、東燃ゼネラル石油、昭和シェル石油がそれぞれ1割強のシェアを有する。国内の原油精製能力は過剰な状態が続いており、各社がジリ貧に陥る前に経済産業省は製油所の統廃合を進めたい考えである。今回、出光興産が昭和シェル石油を吸収合併することでJXホールディングスと並ぶ3割のシェアを有することになる。残るコスモ石油と東燃ゼネラル石油は千葉県の製油所を統合する方針で、更に提携を加速させて第3極を構築する可能性がある。あるいは、各社がJXホールディングスか出光興産の陣営に加わり、2強体制が確立されると思われる。

鉄鋼業界、石油業界と並ぶ重厚長大型の産業である電力業界とガス業界は効率性の観点から地域独占が認められており、先の二つの業界とは状況がやや異なる。電力大手は卸電気事業者である電源開発も含めて11社、ガス業界は大手こそ東京ガスと大阪ガスの2社に絞られるものの、中小のガス会社が無数に乱立した状態にある。送電網とガス導管網が電力大手とガス大手のコントロールから離れ、一般家庭まで小売りの全面自由化が進むことで、鉄鋼業界と石油業界の後に続いて今後は電力業界とガス業界でも業界再編が進むだろう。これはヨーロッパの電力会社・ガス会社BEST10で述べたように、2000年代に電力システム改革を成し遂げたヨーロッパ諸国で見られる現象である。最大で2社、多くても5社程度までには集約が進むのではないか。10年後の電力業界・ガス業界では東京電力と中部電力を中心としたグループ、関西電力を中心としたグループ、東京ガスを中心としたグループの3社に業界が集約されると予想した。電力業界とガス業界については、全国レベルでの市場占有率を気にする必要は今のところない。

しかし、地域レベルでの市場占有率には注意する必要がある。燃料や資材の調達、販売拠点の共通化などでスケールメリットを発揮しやすいが、同じ地域内で電力会社とガス会社が合併することは難しいだろう。例えば東京電力と東京ガスの合併、関西電力と大阪ガスの合併などである。電力会社とガス会社は電化とガス化でエネルギー需要を奪い合う関係にあり、同じ地域の電力会社とガス会社が合併した場合はこのエネルギー需要をめぐる競争が働かなくなってしまう。隣接する地域の電力会社が合併するのも難しいだろう。例えば関西電力と中部電力はトヨタ自動車の工場への電力供給をめぐって争ったことがあるが、両社が合併してしまうとこのような競争が起こりにくくなる。そのため独占禁止法に抵触する恐れがある。

公正取引委員会に認められると思われるのは、隣接する地域の電力会社とガス会社が合併することである。例えば、中部電力と大阪ガスの合併である。関西電力と大阪ガスは関西圏のエネルギー需要をめぐって熾烈な争いを繰り広げているが、中部電力の電源が大阪ガスに備わることで両社の争いは一層苛烈なものとなるだろう。大阪ガスの営業網を使って中部電力が電気を関西圏に供給する。電気とガスのセット販売もあり得るだろう。同じことは首都圏にも言える。東京ガスと東北電力が合併すれば、首都圏の電力市場をめぐる競争が促進される。

また、地域が離れた電力会社同士の合併は、電気の越境販売を阻害せずに、むしろ促進すると考えられる。東京電力が関西圏の電力市場を狙うとき、中国電力や北陸電力と手を組むことは効果的である。首都圏の発電所から関西圏に電気を供給するより、中国電力や北陸電力の発電所から電気を供給する方が送電コストがかからない。また、関西圏に発電所や営業所を設けるときも、共同で運営することで効率化を図ることができる。関西電力と中部電力が首都圏の電力市場を狙う時も同じことが言える。東北電力と手を組むことで、効率的に首都圏の電力市場を攻めることができる。このことから電力会社同士の合併についても、地域が隣接していなければ起こりうる可能性はある。

2015年9月27日日曜日

ヨーロッパの電力会社・ガス会社BEST10

電力事業・ガス事業の自由化を契機に、ヨーロッパでは電力会社とガス会社の集約が進んだ。アメリカ合衆国と異なり、ヨーロッパでは国営企業が電力事業とガス事業を担っていた国が多く、国営企業の民営化と相次ぐ合併、買収を経て、ヨーロッパには複数の巨大な電力・ガス会社が誕生することとなった。これらの企業は海外の電力会社・ガス会社の買収に乗り出しており、電力・ガス業界の世界的な再編がヨーロッパを中心に今後進んでいくと思われる。米フォーチュン誌の世界企業ランキング(売上高)「Fortune Global 500」の2015年度版より、ヨーロッパの電力会社・ガス会社BEST10を紹介する。

1位 E.ON(ドイツ)
ヨーロッパ最大の電力会社にして、世界でも屈指の大企業。石油メジャーの存在しないドイツにおいては最大のエネルギー事業者でもある。ドイツの電力自由化を契機として、2000年にプロイセン電力とバイエルン電力が合併して成立した。ニーダーザクセン州、ヘッセン州、バイエルン州などドイツ中央部に基盤を置く。2003年にはドイツのガス最大手ルールガスを買収して、ガス事業にも参入。さらにスウェーデン、イギリス、アメリカ合衆国の電力会社を次々と買収し、多国籍エネルギー企業へと変貌を遂げた。福島第一原子力発電所の事故以降、ドイツ政府が脱原子力と再生可能エネルギーの更なる積極的な導入に舵を切ったことで、近年E.ONは原子力発電所の廃炉と火力発電所の稼働率低下という問題に悩まされている。しかし、E.ONは発電量の大半を占める火力発電と原子力発電の部門を新会社に移行し、今後は再生可能エネルギー、送配電事業、顧客サービスに特化する経営戦略の大転換を行うことでドイツのエネルギー革命に対応しようとしている。

2位 Enel(イタリア)
イタリアの国有電力会社として発足し、1999年に民営化。電力自由化後もイタリア国内で圧倒的なシェアを占め、ドイツのE.ONに次ぐヨーロッパ最大級の電力会社。イタリアではチェルノブイリの事故を受けて、現在は原子力発電所が一基も運転していないため、電源構成の中心は火力発電である。ただし、Enelは価格競争力を得るため、フランスのEDFから原子力発電所の電力を購入している。スペイン最大手の電力会社Endesaの大型買収に成功し、イタリアの他にスペイン、ラテンアメリカ諸国で電力事業を展開している。

3位 GDFスエズ(フランス)
フランスの国有ガス会社として発足し、2008年にエネルギー大手スエズとの合併を経て、現在はガス事業の他に電気、水道と公益事業を広く手がけている。スエズは名前の通り、レセップスが設立したスエズ運河会社が前身となっている。フランスのガス事業において圧倒的なシェアを占める他、原子力発電を中心とするEDFに対して、GDFスエズは再生可能エネルギーに力を入れている。ベルギーの電力大手エレクトラベルを傘下に持ち、ヨーロッパのエネルギー事業者としてはドイツのE.ONに次ぐ規模を誇る。2015年に社名をEngieに変更した。

4位 EDF(フランス)
フランス電力。第二次世界大戦後にフランスの国有電力会社として発足し、2004年に民営化。現在もフランス政府が株式の大半を所有しており、電力自由化後もフランス国内で圧倒的なシェアを占めている。また、上位3社と同様に海外の電力会社を積極的に買収しており、ドイツの四大電力会社の一つEnBW(バーデン・ヴェルテンベルク・エネルギー)を傘下に持つ。フランスといえば原子力発電だが、その原子力発電所を運営しているのがEDFである。一方、火力発電の割合が極端に低く、特異な電力会社である。福島第一原子力発電所の事故を受けて、フランス政府は原子力発電への依存度を減らす方針であり、EDFも対応が求められている。

5位 RWE(ドイツ)
ライン・ヴェストファーレン電力。E.ONに次ぐドイツ四大電力会社の一つ。E.ONに対抗して、ライン・ヴェストファーレン電力が周辺の電力会社を吸収合併する形で成立した。ノルトライン・ヴェストファーレン州、ラインラント・プファルツ州などドイツ西部に基盤を置く。イギリスの電力会社、アメリカ合衆国の水道会社などを買収し、E.ONと同様に積極的に海外で公益事業を展開している。E.ONと同じく今後は再生可能エネルギーの導入に注力することで、ドイツ電力業界の厳しい情勢を乗り越えようとしている。

6位 SSE(イギリス)
スコティッシュ・アンド・サザンエナジー。イギリスではフランスやイタリアと異なり、電力自由化後に国営企業であった中央電力公社が送電会社のナショナル・グリッドを残し、複数の発電会社と配電会社に分割された。その結果、小規模に分割された電力会社は次々にヨーロッパの巨大電力会社に買収される憂き目を見た。イギリスの電力業界は六大グループに集約されたが、E.ON系のE.ON UK、RWE系のRWE npower、EDF系のEDF energy、スペインIberdrola系のScottish Powerが大手の地位を確立し、イギリス企業はSSEとCentricaのみとなっている。

7位 Centrica(イギリス)
イギリスの国有ガス会社として発足し、電力自由化後は電力事業に参入した。現在ではイギリスの六大電力会社の一角を占める。日本でいうと東京ガスみたいな感じか。

8位 Iberdrola(スペイン)
バスク地方に本拠地を置く電力会社で風力発電に強みを持つ。風況の良いスペインでは風力発電の導入が進んでおり、発電量に占める割合は風力発電が原子力発電を抜いて一位となっているが、その風力発電の積極的な導入に努めているのがイベルドローラである。水力発電所、原子力発電所も運営しており、二酸化炭素排出量の少ない電源構成となっている。イギリスのスコティッシュパワーを買収するなど、海外進出も積極的に進めている。

9位 Gas Natural Fenosa(スペイン)
スペイン最大手のガス会社Gas Naturalがスペインの電力自由化後に電力事業に進出。天然ガスのコンバインドサイクル発電に強みを持ち、Endesa、Iberdrolaに次ぐスペイン第三位の電力会社Union Fenosaを買収して、スペインの電力大手としての地位を確立した。

10位 EnBW(ドイツ)
バーデン・ヴェルテンベルク・エネルギー。ドイツ四大電力会社の一つでドイツ南西部に基盤を置く。隣接するフランスの影響下にあり、EDFの傘下に加わっている。

また、BEST10にはランクインしなかったものの、小国スウェーデンの電力会社Vattenfallもヨーロッパの電力自由化を機に成長を遂げた企業である。スウェーデンの国有電力会社で、スウェーデン国内では主に水力発電所と原子力発電所を運営している。電力自由化後のドイツで次々と電力会社を買収し、旧東ドイツ地域で圧倒的なシェアを確保するに至り、現在ではドイツ四大電力会社の一角を占めている。三十年戦争でドイツを席巻したグスタフ2世アドルフを彷彿とさせる企業で興味深い。

日本の電力会社だと東京電力が6位、関西電力が10位にランクインする規模である。ヨーロッパ諸国は人口規模で日本に劣っており、最大のドイツでも日本の2/3、フランス、イギリス、イタリアは日本の半分の人口しかいない。それにも関わらず、日本の電力大手を超える規模の電力・ガス会社が複数存在している。日本は電力会社とガス会社が過剰に存在しており、ヨーロッパのように電力自由化を契機として合併と買収を通じた業界再編が進むことを願う。さもなくば、日本の電力市場とガス市場がこれらヨーロッパの大企業に奪われる日も遠くない。

2015年9月23日水曜日

国内最大級のスマートシティ 藤沢SSTの問題点

スマートシティというと、日本では横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市の4地域が実証実験が行われているエリアとして有名だが、神奈川県藤沢市にもパナソニックによってスマートシティがつくられているということで行ってみた。藤沢サスティナブル・スマートタウン、略して藤沢SSTで、2014年11月に街開きをしたばかりである。

藤沢SSTはJR東海道線藤沢駅と辻堂駅の中間地点に位置する。駅から徒歩25分と歩くには若干遠い距離だったため、バスで向かった。藤沢SSTという名前のバス停ができており、バス停の目の前には真新しい住宅街が広がっている。戸建住宅オンリーで全て屋根に太陽光パネルが載っており、白系統の色で壁が統一されているのが特徴的である。各家屋には太陽光パネルだけでなく、エネファームが設置されており、太陽光とコージェネレーションのダブル発電となっている。無電柱化されており、悪くない街並みであるが、どこを見ても家と家の間隔が狭く、窮屈そうな印象を受けた。また、太陽光を遮らないようにするためか、樹木がほとんど見当たらず、緑の少ない街並みとなっているのが残念。ただでさえ隣家との間隔が狭いのに、間を遮る樹木が無いためプライバシーの面でも問題のある設計だと思う。このぎちぎちの家屋に6000万円も出すのはどうなんだろう。




藤沢SSTの入口には目玉である湘南T-SITEが存在する。蔦屋書店を中核とする商業施設で、カフェや雑貨屋と本屋が融合した形態となっており、この日も多くの客で賑わっていた。湘南T-SITE沿いの歩道にも太陽光パネルが設置されている。太陽光パネルを設置するより、街路樹を植えた方が街並みとしては良くなるんだろうけど…。
 


 住宅街の中心には公園があり、EVのカーシェアリングができるスペースもあった。日産リーフと急速充電器のある公園。かっこいい。ただし、台数が少なすぎて、ほとんどの家庭は自家用車を持っているのではなかろうか。公園も相変わらずの太陽光パネル尽くしだが、緑が少なくて殺風景な感じ。





藤沢SSTはパッと見では先進技術を取り入れた綺麗な新興住宅地だが、元々はパナソニックの工場があった土地である。工場跡地だけあって、住宅街には本来適していない土地である。藤沢SSTの北にはJR東海道線、南には幹線道路が通っている。電車が通ると住宅街まで音が響き、幹線道路も交通量が多いため、騒音と排気ガスの問題は覚悟しなければならないだろう。

また、この住宅街は子供のいるファミリー層を対象としているように思われるが、お父さん目線で見ると立地は明らかに悪い。近くに湘南モールフィルがあるため、お母さんのショッピングには便利そうだが、最寄駅までのアクセスが悪く、藤沢から東京まで東海道線で50分以上かかるため、都心まで通勤するお父さんは大変である。

国内最大級のスマートシティとして注目を集めているが、所詮は電機メーカーの街づくりであって、あまり良い街とは言えない。三菱地所を筆頭とする大手ディベロッパーの街づくりとはレベルが違う。三井不動産も藤沢SSTの事業に参画しているみたいだけど、あまり発言力がなかったのだろうか。これだけの規模であれば、各戸にエネファームを設置するのではなく、街全体で統一したコージェネレーションシステムをつくり上げることもできたのではないか。デザイン的にも各戸にエネファームを取り付けるより整然とするように思われる。藤沢SSTはスマートハウスを密集させただけで芸のないつくりとなっている。