東北電力の将来

ハーバード戦略教室
ハーバード戦略教室
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シンシア モンゴメリー
文藝春秋
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中小企業診断士の勉強をしていると、いずれは渡米してMBAに挑戦なんて夢が膨らんでくるが、冷静に考えて外国語で経営学を勉強するとか不可能に近い。MBA気分を味わうべく11月初頭の休日を費やして読んだのがハーバード戦略教室。実は2年前にも読んでいるのだが、今読んでみると考えが結構変わってくるのが面白い。ハーバード・ビジネス・スクールの教授が書いているだけあってマイケル・ポーターの考えが随所に見られる点とか、そもそも戦略ではなくリーダーシップについて書いた本ではないかという疑問とか、お茶の水女子大学出身らしい翻訳家が内容を正しく理解していないのではという疑惑とか、以前より客観的というか斜に構えて読んだ気がする。しかし、企業に存在意義を与えることこそ経営戦略であるという要旨は王道ではあるが不変の真理だろう。

さて、ここで電力会社の存在意義は何か考えてみる。簡潔に述べると、低廉かつ安定的な電力供給を行うことで地域、国家の発展を支えること、という答えになるだろう。産業と生活に欠かせない電力供給を通じて地域が発展し、地域が発展することで電力会社は成長していくことができる。「東北の繁栄なくして当社の発展なし」というのは東北電力の社是である。しかし、電力産業が花形産業であったのは高度経済成長の時代からバブル崩壊までであった。電力需要は経済成長と高い相関性を持つためである。日本の経済成長は減速し、地方経済の停滞は特に著しい。現在の日本は人口減少時代に突入しており、産業革命に匹敵するイノベーションでも起こらない限り、かつてのような経済成長を目にすることは難しいだろう。

原子力発電所の停止、電力の小売全面自由化、送配電部門の法的分離も大きな問題であるが、東北電力のような地方の電力会社が直面する最大の課題は経済の縮小に伴う電力需要の減少である。2050年までに東北電力管内の人口は3割程度減少することが見込まれている。電力需要の減少によって深刻な影響を受けるのが送配電事業である。インフラ事業は薄利多売が基本であり、設備形成に要する膨大なコストに対して得られる利益はごく僅かなものである。発電事業は需要が減っても発電所を減らすことで対応できるが、送配電事業は需要が減ったからと言って設備をそのまま減らせるわけではない。どのような山奥でも需要がある限り、設備を形成して維持するのは電力会社の義務である。多少のコスト削減では3割の需要減少を賄うことはできない。低廉な電力供給を続けるためには送配電設備を縮小していくことが避けられない。これは電力事業に限らず全てのインフラ事業において同様である。JRが不採算路線から撤退するように、電力会社も採算の合わない地域からは撤退せざるを得ない。しかし、人が住んでいる地域から電気を奪うことは現実的に不可能である。そこで電力会社は自治体と協力してコンパクトシティの実現に向けて動くことが必要だと思う。

コンパクトシティは産業や生活に関わる諸機能を都市の中心部に集約することで、効率的な都市運営を図っていく考えである。全国の自治体の中では、LRTで有名な富山市がコンパクトシティ政策で先行している。LRTはLight Rail Transitの略称で、低床車両の路面電車のことである。公共交通機関としてはバスと鉄道の中間に位置する。その成否はともかく、富山市はLRTによって中心市街地の活性化を図っている。東北地方でも仙台市や青森市がコンパクトシティを政策目標として掲げている。仙台市の地下鉄東西線プロジェクトもコンパクトシティ政策に沿ったものであり、都心の公共交通機関を充実させることで郊外型の車社会に歯止めをかけようとするものである。人口減少が既定路線であるとすれば、いずれ行政も自らの存亡を賭けてコンパクトシティの実現が必要になる。深刻な人口減少に直面する地方の電力会社が先陣を切ってこの問題に対応するべきだろう。深刻な危機に直面する東北電力だからこそ、コンパクトシティの実現によって送配電事業の効率性を一早く高められる可能性がある。

寒冷地である東北地方ではコンパクトシティ化と並行して、新たに地域熱供給システムを整備することで地域全体の光熱費削減が図れるかもしれない。デンマークの首都コペンハーゲンでは小規模の火力発電所が各地域に設置され、発電によって生じた熱水を配管を通じて地域の各建物に供給している。日本でも東京都心ではオフィスや商業施設などで地区レベルのコージェネレーションが行われているが、コペンハーゲンは普及率が100%に近いレベルまで達している。暖房や給湯など熱需要の大きい寒冷地において、この地域熱供給システムは経済性に優れている。ちなみに東北電力の主要な火力発電所は仙台、八戸、秋田、酒田、いわき、新潟、上越と大きな都市に集中している。コンパクトシティ化が進めば、地域熱供給システムを整備するコストも最低限に抑えることが可能になる。新潟と仙台の間には天然ガスのパイプラインが整備されており、パイプラインを通じて東北地方の主要都市は天然ガスにアクセスすることが可能である。東日本大震災で仙台のガス供給が停止したとき、被害の小さい新潟とパイプラインで接続されていたため早期復旧が可能であったことは記憶に新しい。

また、ロシアと日本を結ぶパイプラインの建設が進めば、安価なロシア産の天然ガスにアクセスすることも将来的に可能となる。サハリンから北海道・東北を経由して首都圏まで結ぶルート、ウラジオストクから日本海・新潟を経由して首都圏まで結ぶルート、主にこの2つのルートが構想の段階にある。LNGはパイプラインに比べて3倍のコストがかかると言われており、日露パイプラインが実現すれば天然ガスの価格が劇的に下がる可能性がある。問題はロシアに天然ガスを依存することの政治的リスクが大きいことである。ロシアは過去に敵対するウクライナに対して天然ガスの供給を停止したことがある。日米同盟を外交の基軸とする限り、ロシアは潜在的な敵国であり、ロシアへのエネルギー依存度が高まることは安全保障の面において好ましくない。ロシアはヨーロッパや中国に天然ガスを売ることができるが、パイプラインを利用する場合において日本はロシアからしか天然ガスを買うことができない。このように不利な条件では、天然ガスの価格は期待するほど安くはならない可能性もある。それでも日露パイプラインは北海度と東北にとっては千載一遇のビッグプロジェクトであり一考の価値はある。

小売事業においてはガスや水道といった他のインフラ事業者と提携していくべきである。小売事業は送配電事業ほど深刻な危機に直面していないが、現状のままでは需要の減少によって効率性が低下していくのは避けられない。そこで同じような営業と料金の体系を持つガスや水道の事業者と提携して小売事業を統合する。コールセンターや地域の事業所を統合し、契約や料金請求を一本化することで、範囲の経済による効率化を図ることができる。ガス事業であれば化石燃料の調達、水道事業であればダムの運営でも協力できる部分は多い。ガス事業や水道事業は自治体が営んでいることが多いため、上記のコンパクトシティ政策と合わせて自治体と協力していくことが望まれる。東京電力や関西電力は他電力管内への越境販売に積極的であるが、エリア外に営業網を持たない地方の電力会社が首都圏で直接小売事業に乗り出すのは非効率であり、小売事業はエリア内に集中すべきだろう。

エリア外において直接小売事業に乗り出すことには反対だが、一方で電力の越境販売は地方電力会社の成長に欠かせない。東北電力の強みは最大の電力消費地である関東に隣接することである。既に東京ガスとシナジアパワーという合弁会社を設立して、北関東において高圧需要の獲得に乗り出しているが、東京ガスとの提携はさらに深化させていくべきだろう。東北における需要の減少を関東への越境販売で補うことが東北電力の成長には欠かせない。東京ガスは関東において強固な営業網を有しており、電力自由化後のスイッチング件数においてトップを走る存在であることからも、関東において東京電力に対抗可能な唯一の企業であると考えられる。

そして最後に電力会社の将来を左右するのが電源構成である。原子力発電に特化した関西電力は福島第一原子力発電所の事故が起きるまでは競争力の高い電力会社であったが、現在では原子力発電への依存度が低い中部電力にその地位が移っている。方向性は大まかに三通りあると考える。一つはLNG火力を中心とした電源構成であり、中部電力と東京電力が目指す道である。両社は燃料調達と火力発電所の新設事業を統合したJERAという合弁会社を設立しており、スケールメリットによってLNG火力の競争力を高めようとしている。シェールガスの開発が進んでおり、天然ガスの価格は今後数十年は安価に推移すると思われる。一方、関西電力を中心とした西日本の電力会社は今後も原子力の維持を目指していくと思われる。事故を起こした沸騰水型ではなく、加圧水型の原子炉を採用しているため早期の再稼働が見込まれるためである。また、中部電力と東京電力がLNG火力においてスケールメリットを追求している以上、関西電力は消去法的に原子力を切り札にせざるを得ない。

しかし、東北電力が選択すべき道はどちらでもない。LNG火力は今後も電源構成の中心であり、女川と東通の再稼働は目指すべきだと思うが、他の電力会社と比較して注力すべきなのは再生可能エネルギーである。再生可能エネルギーにはLNG火力や原子力に対抗できる価格競争力はないが、政策的支援によって今後も成長が見込まれる。東北は再生可能エネルギーの宝庫であり、再生可能エネルギーは地域経済を活性化させる効果がある。電源開発が雇用と消費を生み出すだけではなく、風力であれば風車が観光資源となり、バイオマスは林業の活性化につながる。再生可能エネルギーの買取に要する費用は全国の電気料金に賦課されるため、東北で再生可能エネルギーを開発すれば東北の経済が潤うことになる。一方で再生可能エネルギーは環境破壊につながる可能性もあり、電源開発においては地域との信頼関係構築が欠かせない。立地地域との調整能力を有する電力会社こそ再生可能エネルギーの開発をリードすべき存在である。東北の繁栄を考えれば、再生可能エネルギーにもっと目を向ける必要があるのではないか。

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