2016年11月6日日曜日

東北電力の経営戦略

ハーバード戦略教室
ハーバード戦略教室
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シンシア モンゴメリー
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中小企業診断士の勉強をしていると、いずれは渡米してMBAに挑戦なんて夢が膨らんでくるが、冷静に考えて外国語で経営学を勉強するとか不可能に近い。MBA気分を味わうべく11月初頭の休日を費やして読んだのがハーバード戦略教室。実は2年前にも読んでいるのだが、今読んでみると考えが結構変わってくるのが面白い。ハーバード・ビジネス・スクールの教授が書いているだけあってマイケル・ポーターの考えが随所に見られる点とか、そもそも戦略ではなくリーダーシップについて書いた本ではないかという疑問とか、お茶の水女子大学出身らしい翻訳家が内容を正しく理解していないのではという疑惑とか、以前より客観的というか斜に構えて読んだ気がする。しかし、企業に存在意義を与えることこそ経営戦略であるという要旨は王道ではあるが不変の真理だろう。

さて、ここで電力会社の存在意義は何か考えてみる。簡潔に述べると、低廉かつ安定的な電力供給を行うことで地域、国家の発展を支えること、という答えになるだろう。産業と生活に欠かせない電力供給を通じて地域が発展し、地域が発展することで電力会社は成長していくことができる。「東北の繁栄なくして当社の発展なし」というのは東北電力の社是である。しかし、電力産業が花形産業であったのは高度経済成長の時代からバブル崩壊までであった。電力需要は経済成長と高い相関性を持つためである。日本の経済成長は減速し、地方経済の停滞は特に著しい。現在の日本は人口減少時代に突入しており、産業革命に匹敵するイノベーションでも起こらない限り、かつてのような経済成長を目にすることは難しいだろう。

原子力発電所の停止、電力の小売全面自由化、送配電部門の法的分離も大きな問題であるが、東北電力のような地方の電力会社が直面する最大の課題は経済の縮小に伴う電力需要の減少である。2050年までに東北電力管内の人口は3割程度減少することが見込まれている。電力需要の減少によって深刻な影響を受けるのが送配電事業である。インフラ事業は薄利多売が基本であり、設備形成に要する膨大なコストに対して得られる利益はごく僅かなものである。発電事業は需要が減っても発電所を減らすことで対応できるが、送配電事業は需要が減ったからと言って設備をそのまま減らせるわけではない。どのような山奥でも需要がある限り、設備を形成して維持するのは電力会社の義務である。多少のコスト削減では3割の需要減少を賄うことはできない。

低廉な電力供給を続けるためには送配電設備を縮小していくことが避けられない。これは電力事業に限らず全てのインフラ事業において同様である。JRが不採算路線から撤退するように、電力会社も採算の合わない地域からは撤退せざるを得ない。しかし、人が住んでいる地域から電気を奪うことは現実的に不可能である。そこで電力会社は自治体と協力してコンパクトシティの実現に向けて動くことが必要だと思う。コンパクトシティは産業や生活に関わる諸機能を都市の中心部に集約することで、効率的な都市運営を図っていく考えである。人口減少が既定路線であるとすれば、いずれ行政も自らの存亡を賭けてコンパクトシティの実現が必要になる。東京電力でも関西電力でもなく、深刻な人口減少に直面する地方の電力会社が先陣を切ってこの問題に対応するべきだろう。深刻な危機に直面する東北電力だからこそ、コンパクトシティの実現によって送配電事業の効率性を一早く高められる可能性がある。

また、小売事業においてはガスや水道といった他のインフラ事業者と提携していくべきである。小売事業は送配電事業ほど深刻な危機に直面していないが、現状のままでは需要の減少によって効率性が低下していくのは避けられない。そこで同じような営業と料金の体系を持つガスや水道の事業者と提携して小売事業を統合する。範囲の経済によって規模の縮小に対応していく考えである。ガス事業や水道事業は自治体が営んでいることが多いため、上記のコンパクトシティ政策と合わせて自治体と協力していくことが望まれる。東京電力や関西電力は他電力管内への越境販売に積極的であるが、エリア外に営業網を持たない地方の電力会社が首都圏で直接小売事業に乗り出すのは非効率であり、小売事業はエリア内に集中すべきだろう。

エリア外において直接小売事業に乗り出すことには反対だが、一方で電力の越境販売は地方電力会社の成長に欠かせない。東北電力の強みは最大の電力消費地である関東に隣接することである。既に東京ガスとシナジアパワーという合弁会社を設立して、北関東において高圧需要の獲得に乗り出しているが、東京ガスとの提携はさらに深化させていくべきだろう。東北における需要の減少を関東への越境販売で補うことが東北電力の成長には欠かせない。東京ガスは関東において強固な営業網を有しており、電力自由化後のスイッチング件数においてトップを走る存在であることからも、関東において東京電力に対抗可能な唯一の企業であると考えられる。

そして最後に電力会社の将来を左右するのが電源構成である。原子力発電に特化した関西電力は福島第一原子力発電所の事故が起きるまでは競争力の高い電力会社であったが、現在では原子力発電への依存度が低い中部電力にその地位が移っている。方向性は大まかに三通りあると考える。一つはLNG火力を中心とした電源構成であり、中部電力と東京電力が目指す道である。両社は燃料調達と火力発電所の新設事業を統合したJERAという合弁会社を設立しており、スケールメリットによってLNG火力の競争力を高めようとしている。一方、関西電力を中心とした西日本の電力会社は今後も原子力の維持を目指していくと思われる。事故を起こした沸騰水型ではなく、加圧水型の原子炉を採用しているため早期の再稼働が見込まれるためである。また、中部電力と東京電力がLNG火力においてスケールメリットを追求している以上、関西電力は消去法的に原子力を切り札にせざるを得ない。

しかし、東北電力が選択すべき道はどちらでもない。LNG火力は今後も電源構成の中心であり、女川と東通の再稼働は目指すべきだと思うが、特に注力すべきなのは再生可能エネルギーである。具体的には太陽光を除いた水力、風力、地熱、バイオマス四種類の電源である。再生可能エネルギーにはLNG火力や原子力に対抗できる価格競争力はないが、政策的支援によって今後も成長が見込まれる電源だと考える。東北は再生可能エネルギーの宝庫であり、再生可能エネルギーは規模の割に立地地域の経済を活性化させる効果が高い。電源開発そのものが雇用と消費を生み出すだけではなく、開発後も風力であれば風車が観光資源となり、バイオマスは林業の活性化につながる。再生可能エネルギーの買取価格は全国の電気料金に賦課されるため、東北で再生可能エネルギーを開発すれば開発するほど東北の経済が潤う。一方で再生可能エネルギーは環境破壊につながる可能性もあり、電源開発においては地域との信頼関係構築が欠かせない。立地地域との調整能力に秀でた電力会社こそ再生可能エネルギーの開発においてメインプレイヤーとなりうる存在であり、その中で条件の良い位置にあるのが東北電力だと思う。東北の繁栄を存在意義とするのであれば、再生可能エネルギー開発そのものを東北経済の発展につなげていくべきではないか。そのときには東北電力は地域とともに未来をひらく存在となるだろう。

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