2015年6月10日水曜日

富谷町の無謀なLRT計画

サイクルシェアリングで公共交通に触れたので、サイクルシェアリングと並んで注目されるLRTについても語ってみる。サイクルシェアリング導入に積極的な書き方をしたが、必ずしも公共交通を充実、拡大させれば良いと考えているわけではない。地域によって向き、不向きというものがある。隣町の富谷町でLRT導入の計画があるようだが、これには反対である。

富谷町は仙台市の北に位置する人口5万人程度の町である。この小さな町が市長選の公約を契機としてLRTの導入に躍起になっている。LRTはLight Rail Transitの略称で、鉄道とバスの中間、低床の路面電車として知られる。都市の大きな通りに専用の軌道を敷いて、その上を1両か2両程の低床車両が進む。鉄道と比べると輸送力と速達性に劣るが、建設と運営にかかるコストは少なくて済む。また、駅の間隔は鉄道より短く、どちらかというとバスに近い動きをするため、中心市街地の活性化に効果があるとされる。また、低床車両で高齢者が利用しやすい。専用軌道を持つため、バスと違って運行時間も守られる。日本ではコンパクトシティで有名な富山市のポートラムが有名である。

富谷町がLRTの導入を望むのは、仙台市に隣接するこの町には鉄道が通っておらず、交通の便が悪いためである。かつて仙台の近郊で最も栄えた都市は港町塩釜であり、仙台都市圏は仙台と塩釜を合わせて仙塩地域と呼ばれていた。仙石線が通過する岩切、多賀城、塩釜が人口密集地域であり、仙台都市圏は仙台の城下町から北東に延びる形をしていた。しかし、仙台新港の開港によって塩釜の地位は低下し、代わりに仙台のベッドタウンとして成長したのが泉市(現在の仙台市泉区)と富谷町であった。三菱地所の泉パークタウンなど、大規模な新興住宅地が次々と開発されたことで人口は千人単位で増加していった。富谷町はこの40年間で人口が10倍に膨らんでいる。しかし、泉市が仙台市への吸収合併と引き換えに南北線の泉中央駅までの延伸を勝ち取った一方で、遅れて発展した富谷町には未だに鉄道が通っていない。これだけの人口密集地であれば、鉄道が通っていてもおかしくない。そこで富谷町長選挙を契機に富谷町が泉中央から富谷町までのLRT導入による南北線延伸を訴え始めた。

しかし、富谷町のLRT計画は無謀であると言わざるを得ない。泉中央と富谷町の間にはそれなりの距離があり、富谷町の前に泉区内の路線を整備することが欠かせないためである。しかし、仙台市は富谷町の提案には消極的だと思う。南北線でさえ黒字化に時間を要し、今年12月の東西線開通を控える今、仙台市に南北線延伸の余裕はない。さらに仙台市としては北の富谷町方面ではなく、西の泉パークタウン方面に南北線を延伸させたいと考えているはずである。泉パークタウンは泉区有数の人口密集地であり、仙台泉プレミアムアウトレット、宮城県立図書館、仙台白百合学園、宮城大学などが存在するため、仙台市民の利便性向上と鉄道需要を考えれば西に延伸する方が自然である。

また、富谷町民にとってLRT導入は実はそれほどメリットがないようにも思われる。LRTと地下鉄は車両、軌道が全く別物であるため、南北線延伸と謳ってはいるものの、実際に富谷町から仙台に向かう際にはLRTから地下鉄への乗り換えが必要となる。地上から地下のホームまで5分、待ち時間で5分と考えても10分のロスが生じる。予算の面からLRTが選ばれたのだと思うが、純粋な地下鉄延伸と比べて利便性は大いに損なわれる。LRTでカバーできる範囲も限られており、乗り換えを考えるとLRTを使わずに従来通りバスを使った方が便利な地域も多く残ると思われる。

一方で富谷町はロードサイドにイオンモールなどの商業施設が立地し、町民は既に自動車での移動を基本としている。LRTを走らせるためには専用軌道を整備する必要があるが、整備工事は自動車を利用する多くの町民にとって迷惑な話である。実際にLRTが走り出した後も、LRTが自動車よりも優先される場面が多々出てくると思われ、自動車はLRTに気を使って走らなければならない。LRTの駅から商業施設や公共施設への導線も自動車交通の邪魔になる。このようにLRTの導入によって自動車の利便性が落ちてしまい、却って交通の便が悪化する可能性さえある。自動車から公共交通への完全な切り替えが難しい以上、既存の交通を破壊するようなLRTでは意味がない。小さな町で予算も限られているのだから、車社会を前提とした街づくりに投資をする方が賢明だろう。郊外の富谷町は仙台市と異なり、いずれは人口減少に向かう運命にある。無理にLRTを導入する必要はないように思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿