2015年7月30日木曜日

網地島旅行記録

東北で有数の透明度を誇る海水浴場という噂を聞きつけ、網地白浜海水浴場に行ってみた。網地白浜海水浴場は牡鹿半島の南沖に浮かぶ網地島に位置し、石巻港からフェリーで1時間。仙台から網地島まで片道3時間近くはかかったが、網地白浜にはそれだけの価値があったと思う。




離島なのにこの賑わい。そして海の透明度の高さ。宮城県の石垣島という噂もあながち間違いではなかった。岩手県の浄土ヶ浜も海の透明度が高かったが、浄土ヶ浜以上の透明度かもしれない。宮城県では網地白浜が透明度ナンバーワンかと思われる。日曜日とはいえ、人口500人にも満たないこの島にこれだけの数の人が押し寄せるのは、やはり海の透明度の高さに起因しているのだろう。フェリーは本数が少なく、行きも帰りも定員に近い数の乗客がいた。

ちなみに仙台から石巻までは仙石線の快速を使えば1時間かからずに到着する。フェリーも含めて片道2時間、2000円程で網地白浜の美しい海を見ることができる。海水浴場としては手狭だが、防波堤に区切られているため波を心配せずに遊ぶことができる。夏季は海の家もオープンしているみたいで、シャワーが無料で使えるのもありがたい。

近くには猫の島の異名を持つ田代島があり、ここも石巻港からフェリー網島ラインで行くことができる。次は田代島にも行ってみたい。

2015年7月16日木曜日

人口学者エマニュエル・トッドについて

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
エマニュエル・トッド
文藝春秋
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「ドイツ帝国が世界を破滅させる」という本を読んだ。フランスの人口学者であるエマニュエル・トッドの著書で、ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツがEUシステムを通じて政治的にもヨーロッパを支配し、非公式帝国を築きつつあるというのが大筋。エマニュエル・トッドはソビエト連邦の崩壊、アメリカ金融危機、アラブの春を次々と予言したことで知られる歴史家でもあり、今回はドイツの台頭を予言している。確かにニュースを見ていると、ウクライナ問題やギリシャ問題でドイツのメルケル首相がキーパーソンになっているような印象は受ける。これまではアメリカ合衆国が世界中のことに関与してきたが、ヨーロッパに関してはその立場をドイツに譲り始めているように思える。

エマニュエル・トッドによると、ドイツの経済を支えているのは自動車産業や電機産業で知られる技術力だけではなく、EUの通貨ユーロにある。日本がつい最近まで円高によって輸出不振に陥っていたのとは対照的に、ドイツの産業界はユーロのおかげで自国の通貨高に苦しむことがなかった。ヨーロッパ諸国の産業界と対等な条件で戦うことができた結果、技術力と組織力に優れるドイツ産業界がヨーロッパを席巻した。ドイツは他のヨーロッパ諸国を相手に莫大な貿易黒字を稼ぎ出し、今や中国と並ぶ貿易黒字大国となっている。

ユーロによって高揚した経済力を背景にドイツはヨーロッパ諸国を経済的、さらには政治的に支配するようになっている。ドイツ企業は東欧諸国のEU加盟を機に人件費の安いポーランドやハンガリーなどに国内の工場を移転している。ドイツ企業は現地で雇用を生み出し、その結果として成長した市場にドイツ製品を輸出している。経済的にドイツに依存する東欧は、すっかりドイツの経済植民地と化している。東欧諸国も共産主義時代と比べればマシなので、ドイツの経済植民地という立場を積極的に受け入れている。また、バルト三国やポーランドを筆頭に東欧諸国はロシアを恐れるあまり、ドイツに進んで従属するようになっている。今回のウクライナ紛争を機に、ウクライナもドイツの傘下に入る予定である。

イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャといった南欧諸国は債務危機の恐怖から、ドイツに逆らえなくなっている。ドイツが支援を打ち切れば、たちまち南欧諸国はデフォルトに陥りかねない。国民投票まで行ったギリシャも何だかんだドイツの提案する緊縮財政を呑まざるを得なかった。オランダ、ベルギー、スイス、オーストリアといったドイツの隣国はドイツに劣らない好調な経済を示しているが、これらの国々はそもそも文化的にドイツと同質であり、トッドによるとドイツを延長したドイツ圏であるとされている。

面白いことに、フランス人であるトッドはフランスがドイツへ自主的に隷属していると指摘する。ヨーロッパ中央銀行はドイツのフランクフルトに立地しており、ヨーロッパの金融はドイツがコントロールしている。フランスのエリートたちは金融業界との関わりが深く、ユーロを使い続ける限りドイツに逆らえないような状況になってしまっている。唯一、島国のイギリスのみがEUから距離を置きつつある。イギリスはEU離脱をめぐる国民投票が行われる予定もある。ただし、アメリカの影響力が低下し、ロシアの脅威が強まる中、イギリスを除くヨーロッパ諸国はドイツ帝国に従属する道を進んでいくのではないかと予想されている。

二度の世界大戦からも分かるように、ヨーロッパの覇権を狙える唯一の国がドイツである。民族的、文化的に同質なオランダ、ベルギー、スイス、オーストリアを含めるとドイツの人口は日本並の人口に膨れ上がる。フランス、イギリスの人口が6000万人たらずであることを考えるとドイツは人口面で圧倒的な優位にある。さらにヨーロッパ一の技術力と組織力を持つドイツは超大国となる可能性を秘めている。世界を破滅させるというタイトルは大げさだが、21世紀においてアメリカ合衆国の対抗馬となるのは意外と中国ではなくドイツなのではないかと思わせる一冊だった。

エマニュエル・トッドについては詳しく知らなかったが、この本をきっかけに彼の家族構造に着目した分析を知ることができたのは大きな収穫だった。彼は外婚制共同体家族、内婚制共同体家族、直系家族、平等主義核家族、絶対核家族など、地域によって家族構造が異なり、その家族構造が社会やイデオロギーに影響しているという説を打ち立てている。例えば外婚制共同体家族が分布しているのはロシア、中国、ベトナム、キューバなどであるが、見事に共産主義国家と重なっている。これらの国で共産主義が受け入れられたのは、伝統的に複数の家族が共同体を形成して生活しており、共産主義と相性が良かったためである。

また、直系家族のドイツや日本は家父長制による権威主義が根付いており、ナチズムや軍国主義が受け入れられやすかった。教育熱心であることや組織力が強いことも直系家族の特徴で、ドイツや日本の経済的成功は家族構造に裏打ちされているのではないかとされている。スウェーデン、韓国、ユダヤ人も直系家族であり、直系家族が経済に強いのは間違いなさそうである。核家族はフランスの平等主義核家族と、イギリスの絶対核家族に分けられ、フランスでは平等が、イギリスでは自由が重視された要因として語られている。同じ核家族でも、平等主義核家族では全ての子供が平等に遺産を相続するのに対して、絶対核家族では親の遺言によって遺産相続が決まる。平等への態度に注目して核家族を二つに分類したのはトッドが最初らしい。

トッドは人口学者であり、乳児死亡率の高さからソビエト連邦の崩壊を予言した。しかし、現在のロシアは乳児死亡率の高さが改善されつつあり、出生率も向上してきたことから、ロシア社会が安定に向かっていると語っている。グルジア紛争、ウクライナ紛争など何かと国際社会の問題児として扱われているロシアだが、ロシアは確実に良い方向に進みつつある。また、イランについても女性の識字率向上、出生率低下、教育水準の高さなどから、イスラム世界で最も先進的な国であると語る。イラン革命は宗教革命であったが、イギリスのピューリタン革命も宗教革命であり、識字率の向上が革命をもたらしたという点ではイラン革命は先進国入りの第一歩であったと言える。近年は政権交代も起こっており、民主主義も根付きつつある。実態としてはトルコよりイランの方が一歩リードしているとさえトッドは語る。地理、歴史、政治、経済と社会的な事柄を全て絡めて世界を語るトッドは理想の研究者像である。