2015年11月18日水曜日

ロシア帝国とアメリカ合衆国の地理的な類似性

ロシア帝国とアメリカ合衆国には地理的な類似性が多く見られる。両国は今でこそ世界の大国であるが、ヨーロッパの辺境という位置付けから歴史が始まっている。ロシア帝国の前身となるロシア・ツァーリ国はキリスト教世界において最も東に位置する国であり、モンゴルなど遊牧民族との境界に当たるロシア平原を基盤としていた。16世紀末にウラル山脈を越えてシベリアへと領土を拡大し、やがて太平洋に到達した段階でロシア帝国の原型をつくりあげた。一方、アメリカ合衆国はイングランドの植民地として始まり、キリスト教世界において最も西に位置する地域であった。北米大陸の大西洋沿岸を基盤としていた植民地は大英帝国からの独立時期に西部開拓を本格化させて、ロッキー山脈を越えて太平洋に到達した。

どちらもヨーロッパの辺境から始まり、太平洋に至るまで領土を拡大した点が共通している。大陸の東西に広がる国土を有し、大西洋と太平洋の二つの大洋に面する国は両国を除くとカナダしか存在しない。ロシア帝国、ソビエト連邦が超大国として世界に影響力を及ぼしたのは、ヨーロッパとアジアのどちらにも干渉できる位置にあったためであり、これは現在の超大国であるアメリカ合衆国も然りである。ナチスドイツはヨーロッパに、大日本帝国はアジアに大きな影響を与えたが、あくまでも地域大国としての存在感しかなかった。全世界に影響を与える覇権国家として君臨したのは大英帝国、ロシア帝国、ソビエト連邦、アメリカ合衆国のみであると思われる。近年は中国の大国化が著しいが、地理的にヨーロッパへの干渉が不可能な中国が地域大国から超大国に飛躍することは難しいだろう。今のところアメリカ合衆国の対抗軸となりうるのは、中国とロシアの同盟、あるいはドイツとロシアの同盟であり、中国とドイツ単独では地政学的な観点からアメリカ合衆国に対抗することは不可能である。ロシアはアメリカ合衆国と並んで、地理的に特別な存在なのである。

ロシア帝国の首都サンクトペテルブルクは国の最西端に位置し、ヨーロッパとの結節点に当たる。これはアメリカ合衆国の経済的中心地であるニューヨークが国の最東端に位置し、ヨーロッパの結節点となっているのと同じ構造をしている。ヨーロッパの辺境として始まった歴史的経緯によるものであり、サンクトペテルブルクはピョートル1世が西欧文明を取り入れるための窓として、あえて帝国の端に建設したものである。ロシアは社会主義革命によってヨーロッパとの断絶を経験しているため、サンクトペテルブルクは結節点として十分に機能しなかった。ただし、そのような断絶がなければサンクトペテルブルクは史実以上の発展を遂げていた可能性がある。

両国では19世紀後半から産業革命が始まるが、重工業発展の歴史もよく似ている。アメリカ合衆国ではアパラチア炭田とメサビ鉄山が五大湖の水運で結び付けられ、五大湖南岸において重工業が発展した。五大湖はセントローレンス川で大西洋とつながっており、製品輸送の便も良かった。重工業に欠かせない二大資源である石炭と鉄鉱石の産地が近接していたこと、水運を利用できたことが重工業の発展に寄与していたが、ロシア帝国にも同じことが言える。ロシア帝国で重工業が発展したのは黒海北岸であり、ドネツ炭田とクリヴォイログ鉄山がドニエプル川の水運によって結び付けられていた。ドニエプル川は黒海、さらには地中海につながっており、製品輸送の便も問題ない。黒海の港はロシア帝国にとって貴重な不凍港でもある。黒海北岸も五大湖南岸と同じような発展が望めたかもしれない。

両国の重工業地帯が農業地帯と重なっている点も興味深い。黒海北岸にはチェルノーゼムという肥沃な黒土地帯が広がっており、ロシア帝国において穀物生産の中心地となっていた。アメリカ合衆国においても五大湖の西方にプレーリーという肥沃な黒土地帯が広がっており、小麦やトウモロコシの栽培が盛んである。五大湖に面するシカゴは工業都市であると同時に、世界最大の穀物市場が開かれる都市としても有名である。ミシシッピ川と五大湖に接する水運の要衝であったことがシカゴの発展につながり、さらにアメリカ合衆国の全土に農産物を流通させる拠点としての機能を果たした。黒海北岸もドニエプル川やドン川といったロシア内陸につながる大河川が集中する地域であり、穀物生産と水運を上手く結びつけることができればロシア帝国の食糧問題も解決することができたのではないかと思う。五大湖南岸がアメリカ合衆国発展の原動力となったように、ロシア帝国も黒海北岸の開発に注力することで近代国家へと発展を遂げることができたのではないだろうか。

このようにロシア帝国とアメリカ合衆国には地理的な類似性が多く見られ、旧態依然とした帝政が速やかに立憲君主制に移行し、社会主義革命を防止することができていれば、ロシア帝国もアメリカ合衆国のような発展を遂げられていたのではないかと思う。ロシア帝国の跡を継いだソビエト連邦は実際に重工業化の取り組みに成功して、ロシアをアメリカ合衆国に次ぐ世界第二の大国に育て上げている。社会主義国家でこれだけの発展が可能であった以上、ロシア帝国が存続していれば更なる発展が見込めていただろう。ドイツ帝国が1914年に第一次世界大戦に踏み切ったのも、あと10年程度でロシア帝国の近代化が十分に進み、ドイツ帝国の国力を上回ることが恐れられたためだと言われている。ロシア帝国が史実とは異なる経過を辿っていた可能性について考えずにはいられない。

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