2015年11月9日月曜日

北海道の地熱発電開発

地熱大国日本において最も地熱資源が豊富な都道府県は北海道である。しかし、これまで地熱発電の開発が進んできたのは主に東北と九州だった。北海道には1982年に北海道電力が運転を開始した茅部郡森町の森地熱発電所しか存在しない。北海道の地熱資源の多くが大雪山国立公園内にあり、環境省の規制によって開発が制限されてきたためである。2012年に始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度と時期を同じくして、国立公園の開発規制も緩められており、北海道では近年いくつかの開発計画が浮上している。

大雪山の麓に位置する上川郡上川町は開発計画が進む地域の一つである。北海道でも有数の温泉地である層雲峡温泉から数kmの距離にある白水沢地区において、総合商社の丸紅が開発計画を進めている。丸紅は総合商社の中では三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事に次ぐ五番手であるが、電力事業に関しては総合商社一の実力を持つ。海外の発電所建設に積極的に投資しており、所有する発電容量の合計は1000万KWを超える。国内においても発電所の開発に積極的で、白水沢地区における地熱発電もその一環である。産業の乏しい上川町にとって地熱発電事業は長年の悲願であった。自治体が積極的であるためか、層雲峡温泉も計画には理解を示しているようである。

一方、札幌市南区の豊羽地区で進む開発計画は地元の理解が得られていない。豊羽鉱山はインジウムの産出量で世界1位の鉱山であったが、地熱の影響で採掘が困難となったため2006年に閉山した。エネルギー事業を行うJXグループに属することもあり、豊羽鉱山は閉山の原因となった地熱を用いて地熱発電所を開発する計画を進めている。しかし、豊羽鉱山の近隣には札幌の奥座敷として名高い定山渓温泉が控えている。バブルの全盛期に比べて客足は遠のいてはいるが、札幌という大都市圏に隣接する地の利を活かして、定山渓温泉は北海道一の温泉地として現在も活況を呈している。温泉地にとって開発計画は受け入れられるものではなく、行政も辺境の問題に積極的に口出しをする気配はないようである。

釧路市の阿寒地区で進む開発計画は、釧路市長自らが計画に断固反対の姿勢で完全に頓挫している。阿寒地区は国の特別天然記念物マリモが生息する阿寒湖で有名な地域で、温泉への影響よりもマリモを含めた自然環境への影響が懸念されている。マリモは湖の波、水温、水質など複数の条件が揃うことで初めて生息することが可能になる。阿寒湖のマリモは過去に周辺の開発によって絶滅の危機に瀕したことがあり、観光業に依存する地元ではマリモへの影響に非常に敏感である。こちらもエネルギー業界大手の石油資源開発が開発を検討しているが、行政と地元がタッグを組んで計画に反対しているため、なかなか進展は見られないと思われる。

余市郡赤井川村では阿女鱒岳地区において、国際石油開発帝石と出光興産が開発計画を進めている。周辺に有名な温泉地が存在しない赤井川村では地元の反対がほとんど見られない。標津郡標津町でも武佐岳地域において、石油資源開発が開発計画を進めているが、こちらも赤井川村と同様に地元の反対は見られない。有名な温泉地が存在しないというのが一番の原因だと思われるが、行政は地熱発電に期待の眼差しを向けている。赤井川村は農業、標津町は漁業に依存しており、地熱発電は地域の新しい産業として大いに期待されている。札幌市や釧路市と異なり、地域の存続すら危ぶまれる小規模自治体では、地熱発電の開発計画というのは滅多にない明るいニュースであり、行政の支援を受けて開発はスムーズに進んでいくと思われる。

地熱発電の開発には10年以上の期間を要する。まずは発電に必要な地熱貯留層の有無を確認するため、複数の地点を大型の機械で掘削しなければならない。蒸気が得られない、温度が足りないなどの理由から、多くの計画はこの段階で頓挫することになる。地熱貯留層を掘り当てたとしても、温泉事業者や行政といった地元の理解が得られなければ開発は困難になる。群馬県の草津温泉のように隣接する嬬恋村の地熱発電開発に対して反対運動を展開して、計画を中止に追い込む事例も見られる。環境アセスメントにも時間がかかり、生産井と還元井を掘削して発電所を建設するまでには膨大な時間がかる。上記の開発計画は始まったばかりであり、地元の同意が得られたとしても実際の運転開始は2020年代になると思われる。これは地熱発電に限った話ではなく、火力発電所や原子力発電所の建設においても同じことが言える。エネルギー事業に長期的な視点が欠かせない所以である。

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