2015年11月15日日曜日

日本のGDPを600兆円に高めるためには

安倍政権は日本のGDPを600兆円まで高めることを政策目標として掲げた。日本のGDPは500兆円を前後しており、20%の上昇目標はかなり野心的と言える。人口減少社会に突入した日本がGDPを増加させるためには、一人当たりGDPを押し上げる必要がある。日本の一人当たりGDPはバブルが崩壊した1990年代から停滞傾向にあり、直近の2014年ではG7の中で6位という悲惨な結果となった。7位のイタリアは財政破綻の危険がある国々PIGSの一員にも数えられるEUの劣等生であるが、そのイタリアとも一人当たりGDPにおいて大差はない。名目の一人当たりGDPを比較した結果であるため、現在の日本が稀に見る円安であることを考えれば、実質の一人当たりGDPではヨーロッパ主要国とそれほど差はないのかもしれない。しかし、失われた20年において日本が他の先進国に追いつかれてしまったのは確かな事実である。アメリカ合衆国の経済はIT産業によって復活を果たし、ヨーロッパの主要先進国も軒並み日本より高い経済成長率を誇っている。先進国の中で日本だけが一人負けしているような状況にある。

日本の一人当たりGDPが停滞してしまったのは何故なのか。その要因を探るヒントとして、一人当たりGDPの高い国に目を向けてみる。一人当たりGDPの高い国には小規模な都市国家が目立つ。1位のルクセンブルク、3位のカタール、8位のサンマリノ、9位のシンガポールなどである。しかし、日本でも東京だけを取り出してみれば一人当たりGDPは世界トップクラスとなるため、これらの都市国家と日本を単純に比較することはできないだろう。注目すべきは北欧諸国とアメリカ合衆国である。北欧諸国は2位のノルウェー、6位のデンマーク、7位のスウェーデンといったように、ヨーロッパでもトップクラスの経済水準を誇る。また、11位のアメリカ合衆国は世界一の経済大国であると同時に、G7で最も一人当たりGDPが高い国である。

北欧諸国とアメリカ合衆国に共通するのは人々の働き方が柔軟で、成長産業への人材の移動がスムーズな点である。成長産業は時間の経過によって移り変わっていくものである。一世を風靡した日本の電機メーカーも現在は衰退の一途を辿っており、代わりにアメリカ合衆国のアップルやグーグルといったIT企業が世界経済の牽引役となっている。日本では終身雇用と年功序列の賃金制度が一般的であるため、優秀な人材がいつまでも衰退する産業に留まることになり、成長産業への労働力の適正な分配が行われない。政府も失業率の増加を恐れて、市場から淘汰される運命にある企業を救おうとする。りそな銀行、東京電力、日本航空はその代表である。企業とは異なるがコメ農家への手厚い支援も、利益を生み出さない産業にいつまでも人材を張り付ける無益な政策である。

北欧諸国は社会保障を充実させることで、柔軟な労働市場を実現している。手厚い社会保障があるために雇用に関する規制は緩やかで、日本に比べて企業は簡単に従業員を解雇することができる。いつでも解雇できるため、新たな採用にもそれほど慎重にならない。人々も失業を恐れずに転職や起業に踏み出すことができる。アメリカ合衆国は成果主義が社会に根付いており、企業と従業員の関係はドライなものである。企業は実績に応じて従業員の給与を変動させて、時には解雇に追い込むこともある。従業員も他の企業から条件の良い仕事を提示されれば、簡単に別の企業に移る。企業も個人も利益を求めて柔軟に動くことで、産業の新陳代謝が行われる。政府も市場原理に任せて、大企業だから救済するというようなことがない。リーマンショックを機に、自動車業界ビッグスリーのクライスラー、ゼネラル・モーターズが相次いで経営破綻に追い込まれたのは記憶に新しい。

北欧諸国やアメリカ合衆国をそのまま手本として真似することは難しいが、利益を生まない産業から利益を生む産業に人々がスムーズに移動できるような環境を整備することこそ、GDP600兆円に向けて政府が行うべき仕事である。また、一人当たりGDPの上昇だけではGDP増加は望めない。第一次ベビーブーム世代、第二次ベビーブーム世代が死亡することで、今後の日本は恐ろしい人口減少に直面する。一人当たりGDPの増加だけでは人口減少によるGDPの縮小に抗うことはできない。速やかに出生率を2.0以上に回復させて、将来の生殖可能な人口を増やさなければ、日本の人口を再び元の水準に戻すことは難しくなる。長期的な視点からGDPの増加を目指していくのであれば、少子化対策こそ日本で最も重要な政策となる。

国を挙げて早くから少子化対策に取り組んできたフランスは先進国の中で人口が増加している珍しい国であり、人口減少が止まらない隣国ドイツの人口を2050年代には追い抜く予測がされている。ナポレオン時代のフランスがヨーロッパの最強国家であったのは、農業生産力の高いフランスがヨーロッパの人口大国だったためである。イギリスの二倍の人口を抱えていたフランスは当然兵力もイギリスの二倍であり、圧倒的な陸軍力によってヨーロッパ大陸を席巻することができた。その後のフランスはヨーロッパで一早く少子高齢化に見舞われたことが仇となり、産業、軍事、あらゆる面で他の列強の後塵を拝するようになってしまった。19世紀後半からフランスとドイツの地位が逆転したのは、フランスが文字通りの老大国となってしまったためである。二度の世界大戦で辛酸を舐めたフランスは人口こそ国力の礎であることを学び、100年がかりでドイツを追い抜く計画を立てた。フランスの教訓を日本も活かさなければならない。

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