2016年1月30日土曜日

民族舞踊研究会について

大学には得体の知れないサークルがいくつも存在する。民族舞踊研究会もその一つである。なかなかマイナーなサークルだと思うが、民族舞踊サークルのある大学は意外と多い。首都圏では東京大学、お茶の水女子大学の他に、千葉大学、千葉工業大学、慶應義塾大学、東京女子大学、学習院大学、中央大学などに民族舞踊研究会が存在する。地方でも京都大学、九州大学などに民族舞踊研究会が存在するようである。研究会という名称なので、各地の民族舞踊について成り立ちや歴史などを研究する文化系のサークルのように思われがちだが、活動内容の大半は実際に民族舞踊を踊ることである。

民族舞踊は日本の阿波踊り、スペインのフラメンコなど世界各地に存在するが、大学の民族舞踊サークルでは主に東ヨーロッパの民族舞踊が扱われることが多い。具体的な国名を挙げると、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、ロシアなどである。後進的な地域の方が民族舞踊などの伝統文化が残っているためか、同じヨーロッパでもフランスやドイツなど西ヨーロッパの民族舞踊を扱う機会は少ない。ヨーロッパの民族舞踊ということで、メルヘンな雰囲気を期待してサークルに興味を持つ新入生が多いかもしれない。可愛らしい民族衣装を着て、木漏れ日の下で和やかに踊る。そんなヨーロッパの絵本の中みたいな世界に憧れている人は少なくないだろう。男だと少し珍しい気もするけど。

ただし、ヨーロッパ人だからこそ民族衣装が映えるのであり、ヨーロッパの美しい街並みや自然を背景にしているからこそ民族舞踊はメルヘンチックなのである。日本人が運動着を着て、ホールや体育館などで汗まみれになりながら踊っている姿はビジュアル的には民族舞踊のイメージの正反対に位置するものかもしれない。それでも当初のイメージとは異なっていたが、活動に参加する内に次第と民族舞踊を好きになっていく人は多い。最初は人前で踊ることに抵抗を感じるかもしれないが、慣れれば踊ることは楽しいものである。また、国によって音楽や踊りに個性があるため、自分の好きな国を一つは見つけられるようになる。ヴァイオリンの旋律と激しい動きが特徴のハンガリーが個人的には好きである。

民族舞踊研究会はマイナーなサークルであるが故に、少ない人数で活動している場合がほとんどである。活動は週2日~3日、1日の活動時間は2時間~3時間といったところだと思う。学園祭などで発表する場もあるため、発表の前は活動時間も長くなる。上級生になれば下級生に踊りを教えるために、サークルに注ぎ込む時間はさらに多くなるだろう。少人数で長い時間を共有するため、メンバーの仲は自然と親密なものになる。入ったことはないが、テニスやサッカーといった大所帯のサークルとは全く異なる雰囲気があるような気がする。一年間も活動すれば非常に居心地の良い空間となるだろう。

あらゆる民族舞踊の起源は農耕社会の祭にある。祭は豊作への感謝と祈りを込めて神々や祖先を祭る行為で、現在は形骸化して何だか退屈な古くさいものとなっているが、ほとんどの人々が農業に従事していた過去の歴史においては、人々が労働から解放されて娯楽に興じることができる年に数度しかない機会であった。農村には農具と家畜の他には何もないかもしれないが、歌と踊りだけは楽しむことができた。そこで踊りは祭の中心となった。踊りは人々の交流を生み出し、時に異性との交流の場ともなった。農業は大勢の人々が協力して仕事をする必要があるため、人々の仲を深める機会である祭と踊りは農耕社会において重要な役割を果たしていた。民族舞踊サークルは当初抱いていた民族舞踊のメルヘンなイメージとは離れたものであったが、踊りを通じて時間を共有する中でメンバーとの確かな絆を生み出すことができたという点で民族舞踊の本質を十分に体験したのかもしれない。

2016年1月9日土曜日

電力自由化における各社の小売戦略

2016年4月から始まる電力の小売全面自由化に伴い、電力市場における自由競争がいよいよ本格化する。新たにガス会社、総合商社、通信会社などが電力市場に参入することになる。また、既存の電力会社も自社エリアを守る一方で、他社エリアに進出することが可能になる。オフィス、商業施設、工場といった高圧以上については既に自由化されており、当初は既存の電力会社と新電力の攻防が中心であったが、最近では東京電力や関西電力も積極的に他社エリアへの進出を始めている。電力消費量は経済規模に比例しており、人口減少が進む日本では経済の縮小に伴って電力消費量も長期的には減少していく。いずれの電力会社も地域独占体制のままでは今後の成長は見込めないため、自由競争に突入するしかない。大正昭和の電力戦から今後の電力業界を予測するにおいて、戦前の日本で起きた電力戦について紹介した。これから始まる電力自由化は100年前に起きた電力戦の再来となるかもしれない。

電力自由化によって最大の激戦地となることが予想されているのが首都圏である。首都圏が日本最大の都市圏であることは言うまでもないが、その人口規模は都市雇用圏において約3500万人と日本の人口の1/4以上を占める。東京電力は福島第一原子力発電所の廃炉と賠償の負担が重く、2012年に電気料金を値上げしており、首都圏の電気料金は全国でも高い水準にある。また、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働も遅れており、更なる電気料金の値上げも考えられる状況である。いかにして東京電力から首都圏のシェアを奪うかが各社の戦略において重要となってくるだろう。

首都圏を供給エリアとする東京ガスは東京電力の最大のライバルである。東京ガスはガス事業で築いた販売網があるため、電気事業に参入することが容易である。電気とガスをセットで販売できることも強みだろう。また、東京ガスはLNGの調達能力を活かして既に発電事業に参入しており、扇島パワー80万kW(東京ガス75%)、川崎天然ガス発電80万kW(東京ガス49%)、東京ガス横須賀パワー24万kW(東京ガス75%)、東京ガスベイパワー10万kW(東京ガス100%)と四か所の火力発電所を有している。電力自由化に向けた電力会社・ガス会社の動向で紹介したように、東京ガスは発電能力をさらに増強する計画であり、九州電力・出光興産と千葉県に200万kWの火力発電所、中国電力・JFEスチールと千葉県に100万kWの火力発電所を新設する。さらに神戸製鋼所が栃木県真岡市に建設している120万kWの火力発電所からも電力を調達する予定で、発電能力は500万kWにまで達する見通しである。東京ガスは首都圏の電力市場において1割のシェアを獲得することを目標としている。
 
また、東京ガスは武州ガス(埼玉県川越市)など中堅の都市ガス5社と電力事業で提携することを発表している。東京ガスは関東全域で都市ガスの卸供給を行っており、この協力関係を活かして電力の卸供給にも取り組んでいく。首都圏の周辺には前橋都市圏(約140万人)、宇都宮都市圏(約110万人)、つくば都市圏(約70万人)、水戸都市圏(約70万人)、長野都市圏(約60万人)、甲府都市圏(約60万人)など魅力的な市場が広がっており、東京ガスは各地のガス会社と提携することで首都圏以外の電力市場にも進出することが可能になる。
 
東京ガスは東北電力とも提携し、北関東において電力小売事業を行うシナジアパワーを設立した。東北電力は東京電力と同じ周波数50hzの電力会社であり、東北電力の発電能力と東京ガスの販売網を組み合わせて東京電力から顧客を奪う戦略である。この提携関係は今後さらに深まっていくと思われる。エリア内の厳しい人口減少に晒される東北電力はこのままだと過剰な供給力を抱えることになり、首都圏に販売網を持つ東京ガスとの提携は東北電力にとって必須であると考えられるからだ。電力事業を拡大したい東京ガスにとっても東北電力との提携はメリットがある。10年後の電力業界・ガス業界で述べたように、東北電力と東京ガスは以前に共同で仙台市ガス局を買収しようとしたことがある。東北地方には規模の小さいガス事業者しか存在しないため、両社が協力して東北地方のガス事業を担っていくことも考えられる。将来的には両社の提携に北海道電力と石油資源開発も加わり、サハリンと日本を結ぶ天然ガスのパイプラインが建設されるのではないかと予想する。パイプラインによって天然ガスを調達することができるようになれば、燃料調達において圧倒的な価格競争力を有するようになる。
 
東京ガスの他に首都圏で主要なプレイヤーになると考えられるのは関西電力と中部電力である。関西電力は子会社である関電エネルギーソリューションを新電力に登録して、首都圏での電力事業に乗り出した。また、中部電力は三菱商事から新電力ダイヤモンドパワーを買収して、首都圏での電力事業に参入する。周波数60hz地域に属する関西電力と中部電力は周波数50hz地域において電源を確保することが課題であるが、両社の戦略は大きく異なる。
 
関西電力は東燃ゼネラル石油と千葉県に100万kWの火力発電所、丸紅と秋田県に130万kWの火力発電所、伊藤忠商事と宮城県に11万kWの火力発電所を新設する。自前の火力発電所を持ち、真正面から東京電力と競争していく姿勢である。一方、中部電力は東京電力と燃料調達、火力発電所の新設事業を統合し、新会社JERAを設立した。資金難の東京電力は中部電力から資金を引き出して火力発電所のリプレースを行い、中部電力は東京電力のエリアで発電能力を有するようになる。東京電力との提携には中部電力の他に東京ガスや関西電力も名乗りを挙げていたが、東京電力に次いでLNG調達量の多い中部電力が提携先に選ばれた。提携関係を勝ち取った中部電力は発電部門において東京電力と協力しつつ、小売部門では積極的に首都圏を攻めていくだろう。
 
東京電力は守勢に立たされる一方で、老獪な戦略を練っている。各社の電気料金を左右するのは発電単価であり、ほとんどの原子力発電所が停止している現在は火力発電の競争力が最大の武器となる。東京電力は中部電力との提携によって、火力発電事業において他社が追随できない程のスケールメリットを得ることになる。また、出力800万kWを超える柏崎刈羽原子力発電所が再稼働すれば、東京電力は発電単価において圧倒的な競争力を持つようになるだろう。中部電力は出力360万kWの浜岡原子力発電所しか有しておらず、火力発電事業が完全に東京電力と統合されることになれば、柏崎刈羽原子力発電所が再稼働した後は東京電力に価格競争で敗れる可能性がある。東京電力は一時的にシェアが奪われることは覚悟の上、最後には全て取り返すつもりで中部電力との提携に臨んでいるのではないだろうか。
 
さらに東京電力は防戦一方ではない。子会社のテプコカスタマーサービスを通じて全国で電力の小売事業を行っていく方針である。東京電力の強みは企業の本社が集中する東京に地盤を持つことであり、東京に本社を置く企業にアプローチをかけて、全国に電力事業を展開したい考えである。首都圏に次ぐ大都市圏を有する関西電力のエリアが主な対象であり、既にヤマダ電機とセブンイレブンの電力購入先を自社に切り替えることに成功している。電源構成に占める原子力発電の割合が5割に達していた関西電力は原子力発電所の停止によって厳しい経営状況が続き、電気料金を二度も値上げしたために全国でもトップクラスの高さとなってしまっている。関西電力は大阪都市圏(約1200万人)、京都都市圏(約270万人)、神戸都市圏(240万人)など魅力的な市場を抱えており、首都圏に次いで狙われるエリアとなっている。
 
東京電力のライバルが東京ガスであるように、関西電力にとって最大のライバルとなるのは大阪ガスである。これまでも大阪ガスはエネファームを武器に関西電力のオール電化戦略に対抗してきたが、これからは電気とガスのセット販売で関西電力から顧客を奪う戦略である。大阪ガスは特定規模電気事業者(PPS)としては日本最大級となる110万kWの泉北天然ガス発電所を有し、現状では東京ガスを上回る180万kWの発電能力を有する。さらに電源開発・宇部興産と山口県に120万kWの火力発電所、西部ガスと福岡県に160万kWの火力発電所、丸紅と茨城県に10万kWの火力発電所を新設する予定で、電力事業の拡大に注力する。
 
関西電力は東京電力以上にシェアを失う可能性が高い。中部電力が大阪ガスと提携して、関西電力のエリアに進出することが予想されるためだ。中部電力と大阪ガスは既に燃料調達において提携しており、中部電力の四日市火力発電所と大阪ガスのパイプラインを連結させるなど密接な協力関係にある。中部電力の発電能力と大阪ガスの販売網を組み合わせれば、関西電力からかなりの数の顧客を奪うことができるのではないかと考えられる。東北電力と東京ガスの連合は東京電力の6割程度の規模であるが、中部電力と大阪ガスの連合は関西電力の1.5倍程度の規模になる。関西電力にとって相当な脅威であり、停止している関西電力の原子力発電所は中部電力と大阪ガスの火力発電所に全て置き換えられてしまうかもしれない。
  
関西電力のエリアには中国電力も進出してくることが予想される。中国電力は島根原子力発電所を有しているが、電源構成に占める割合は1割にも満たず、原子力発電所の停止によるダメージが比較的浅い電力会社である。供給力に余裕のある中国電力は西日本全域で電力の小売事業に乗り出す方針で、関西電力だけではなく九州電力と四国電力のエリアにも進出する。特に九州電力が抱える福岡都市圏(約260万人)、北九州都市圏(約130万人)は地理的な近さから中国電力の進出が予想される。

2016年1月7日木曜日

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11巻 感想

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11 (ガガガ文庫)
渡 航
小学館 (2015-06-24)
売り上げランキング: 14,301

八幡の「それでも俺は本物が欲しい」という発言によって、ぎくしゃくしていた奉仕部三人の関係は元に戻ったかと思われた。しかし、雪ノ下が八幡を意識するようになったことで奉仕部の雰囲気は再び取り繕ったようなものになってしまい…というところで前巻は終わった。由比ヶ浜と雪ノ下、親友の二人が八幡を好きになったことで三角関係に突入した奉仕部の三人。11巻でも引き続き欺瞞に満ちた奉仕部の三角関係が描かれる。11巻の前半では三浦と川崎の依頼により、生徒会主催のイベントという形でバレンタインに向けた手作りチョコ教室が開かれる。ここでも雪ノ下と八幡が互いを意識する場面が描かれ、由比ヶ浜は居心地が悪い様子。三角関係の問題に加えて、雪ノ下の精神的な弱さも露呈する。雪ノ下の問題は他者の考えに依存してしまうことであり、これまでは姉の陽乃を追いかけていたが、今は八幡に依存するようになってしまっていた。さらに陽乃と雪ノ下母の介入が追い打ちをかけて、雪ノ下は精神的に滅入ってしまう。

この状況を打開するべく動いたのは由比ヶ浜であった。後半で由比ヶ浜は雪ノ下と八幡を水族館デートに誘う。由比ヶ浜は今の関係がずっと続けられるとは思っていないようで、この水族館デートを三人で過ごす最後の時間と考えているようである。雪ノ下も由比ヶ浜も互いの思いに気付いており、二人とも遠慮をしながら水族館でのデートは進んでいく。そして三人での最後のひと時を過ごした由比ヶ浜は、三人の関係について話を切り出す。

「これからどうしよっか?」
「ゆきのんのこと。それと、あたしのこと。……あたしたちのこと」
「もし、お互いの思ってることわかっちゃったら、このままっていうのもできないと思う……。だから、たぶんこれが最後の相談。あたしたちの最後の依頼はあたしたちのことだよ」
「ね、ゆきのん。例の勝負の件ってまだ続いてるよね?」
「あたしが勝ったら、全部貰う。ずるいかもしんないけど……。それしか思いつかないんだ……。ずっと、このままでいたいなって思うの」

由比ヶ浜は本心を隠してでも三人でこのまま友達の関係を続けたいと提案する。由比ヶ浜は雪ノ下の抱えている問題の答えが分かっており、奉仕部のルールを利用して願いを叶えようとする。困惑しながらも、由比ヶ浜の思いを無下にできない雪ノ下は由比ヶ浜に同調しかける。しかし、由比ヶ浜に同調しかけた雪ノ下を見て、八幡は由比ヶ浜の提案を拒絶する。

「その提案には乗れない。雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」
「……それに、そんなの、ただの欺瞞だろ」
「曖昧な答えとか、なれ合いの関係とか……そういうのはいらない」

「……ヒッキーならそう言うと思った」

八幡の答えを聞いた由比ヶ浜は優しく微笑み、それを聞いた雪ノ下が二人に依頼を持ちかけるところで11巻は終わる。由比ヶ浜は何を思って、このような発言をしたのだろうか。10巻から八幡と雪ノ下が互いを意識している描写が多く、由比ヶ浜は二人が相思相愛の関係にあると思っているように見える。そのため八幡と雪ノ下が付き合うことによって自分の居場所が無くなること、雪ノ下に八幡を奪われてしまうことを恐れ、雪ノ下の精神的な弱さを突いて、現状維持という提案をしているように読み取れる。由比ヶ浜は自分が本当はずるい、卑怯な子だと言っている。八幡も由比ヶ浜が優しい女の子だと勝手に決めつけていたと述べている。このため表面的には上記のような解釈ができる。

しかし、由比ヶ浜は八幡の答えを予見しており、互いに気持ちを伝えられずにいる雪ノ下と八幡の現状を打開するべく、あえて二人の意思を明確にするために、このような発言をしたとも考えられる。由比ヶ浜は雪ノ下を無二の親友であると感じている一方、雪ノ下が好きになった八幡をずっと前から好いている。雪ノ下と八幡が付き合うようになれば、由比ヶ浜は一人ぼっちになってしまう。そんな未来を彼女が望むはずがない。それでも由比ヶ浜は二人のことが大切で、二人の思いを尊重しており、二人に幸せになって欲しいと考え、自らを犠牲にしてでも二人が前に進めるように、あえて八幡から反対の発言を引き出すような提案をしたのではないだろうか。もちろん現状のまま三人で仲良くしたいというのは由比ヶ浜の本心である。ただし、一方で由比ヶ浜は悲劇のヒロインになる覚悟もできており、自ら退路を断ったのである。

しかし、11巻を読んでいて思ったのは、八幡は雪ノ下と同じくらい由比ヶ浜のことも好きなのではないかということである。由比ヶ浜は八幡の心が雪ノ下に向いていると感じているのかもしれないが、八幡は由比ヶ浜のことも意識している。それは由比ヶ浜からデートに誘われたときの八幡のモノローグから読み取れる。

「断る理由も特にない。けれど、それでいいのだろうか、と。そんな疑念がふとよぎる。」
「確かにみんなで遊ぶと言うならこちらのほうがふさわしかろう。あの場所は三人で行くには少々面倒そうだ。だからまぁ、もしかしたら、またいつか。約束を果たせる日は来るのかもしれない。今日のところは、みんなで。」

八幡は未だに由比ヶ浜とのシーデートの約束を果たすことを考えている。雪ノ下と付き合いたいと思っているのであれば、八幡が「またいつか」などという考えを持っているはずはないと思うのである。ただし、八幡が雪ノ下を意識しているのも間違いない。このことから八幡は雪ノ下と由比ヶ浜のどちらにも好意を抱いており、どちらか一人を選ぶことができず、二人とも選ぶことを選んだのではないかと思う。

「欲しいものは別のものだ。馬鹿な奴だと思う。そんなのないって知ってるのに。突き詰めてしまえば何も手に入らないとわかっているのに。けれど。」
「それでも、ちゃんと考えて、苦しんで……。あがいて、俺は……」
「こんなの正しくないってわかってる。楽しいと、そう言えるならそれでよかったのかもしれない。ありえた未来や綺麗な可能性を想って過ごせたなら、誰も苦しくなんかならないだろう。」
「それでも、俺は理想を押しつけたい。微睡みの中で生きていけるほどに強くはないから。自分を疑った末に、大切に思う誰かに嘘を吐きたくはないから。」
「だから、ちゃんとした答えを。誤魔化しのない、俺の望む答えを、手にしたいのだ。」

由比ヶ浜の提案に反論を述べているときの八幡のモノローグである。八幡はちゃんとした答えを出そうとしており、これは一見すると雪ノ下と由比ヶ浜のどちらかを選ぶことを意味しているように思われる。しかし、八幡の望みは突き詰めてしまえば何も手に入らないものである。雪ノ下と由比ヶ浜のどちらかを選ぶのであれば、八幡はどちらかを手にするわけであり、何も手に入らないということは有り得ない。八幡の望みは理想であり、正しくないものである。八幡が望んでいるのは三人が本心を打ち明けた上で、この三角関係を続けていくことなのだと思う。

「俺と彼女の願いは目に見えない。けれど、たぶんその形はほんの少しずれていて、ぴったりと重なり合いはしないのだろう。」
「だからといって、それが一つのものにならないとは限らない。」

八幡は自分と由比ヶ浜の願いがずれてはいるが、決して相容れないものではないと考えている。由比ヶ浜は本心を隠してでも三人で仲良くすることを望んでいるが、八幡は本心を打ち明けた上で三人で仲良くすることを望んでいる。このように考えると、八幡が自分と由比ヶ浜の願いが一つになる可能性もあると考えていることも納得できる。そんな三人の関係は普通に考えて有り得ないものであり、正しいものでもない。八幡が自分の考えを打ち明ければ、雪ノ下と由比ヶ浜は八幡に幻滅して、八幡は雪ノ下と由比ヶ浜、どちらとの関係も壊してしまうかもしれない。それでも八幡が考えて、苦しんで、あがいて出した答えは、そのような関係なのではないか。そんな関係を築くことができれば、作品名の通り「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」と言えるだろう。