2016年11月23日水曜日

冴えカノ12巻の展望と加藤恵の謎に関する考察

11巻後半からの急展開で物語も佳境に入った感のある、冴えない彼女の育てかた。7巻で「加藤恵……もう一度、俺のメインヒロインになってくれ」と言った割には、英梨々に未練残してる感じだし、相変わらず詩羽先輩の信者だし、本当に倫也は加藤をメインヒロインにする気があるのかと疑っていたが、これまで倫也と加藤が積み重ねてきたものが11巻で一気に恋愛方面に結実した感じ。とりあえず、詩羽先輩や美智留には反応しない倫也が加藤を相手にすると豹変することが分かった。完全に相思相愛で、シナリオ作成が関係を発展させる口実になっているし、もはやゲームつくらなくて良いんじゃないかというレベル。このまま誕生日デートに突入していたら、間違いなく加藤エンドで終わっていたが…。

「……っ、……っ!」

「え?何だって?ごめん、よく聞こえないんだけど……」

「…………」

「な……ちょっと待って!誰、が……」

内容は全く不明だけど、やたらと不安を煽る電話。最初読んだときは加藤から倫也への電話だと思っていたけど、倫也から加藤への電話のようにも思えるし、他の人物からの電話の可能性もある。とりあえず何かのトラブルで誕生日のデートが中止、そこからシリアス展開という流れは間違いなさそう。最初に思い浮かんだのは倫也か加藤が交通事故に遭ったんじゃないかというもの。電話をかけてきたのは英梨々で、倫也が事故に遭ったことを加藤に知らせる内容とか。倫也記憶喪失からの英梨々を含めた三角関係展開とか、倫也が三年後に目覚めたとき加藤は既に…とか。しかし、このシチュエーションは君が望む永遠のパロディだということが分かり、候補から消えた。内容まで交通事故で重ねてくるとは思えないし、何より展開が安直で雑すぎる。

そして、他に思い浮かんだのは英梨々関係。冴えない彼女の育てかた考察 タイトルのダブルミーニングと英梨々エンドの可能性冴えない彼女の育てかた考察 WHITE ALBUM2との比較からで書いたように、この作品は最終的に倫也、加藤、英梨々の三角関係になるのではないかというのが持論である。7巻のシリアス展開は突き詰めると、倫也が英梨々と加藤のどちらを選ぶのかという話なわけで。結局のところ、倫也は英梨々に裏切られるんだけど。再び三角関係に突入するのであれば、11巻のラストは最後の分岐点だろう。11巻は何かと加藤が英梨々を気にする描写が多かった。

「だって……今のわたしたち、ちょっと、彼女には見られたくないなって」

「だって、何だか、言い訳しにくくって……」

一泊二日の修復で仲直りを果たした加藤と英梨々だが、今回の加藤は何というか完全に抜け駆けだった。加藤が英梨々に後ろめたいという気持ちを抱くのも当然だと思う。英梨々に知られてしまったのか、加藤から英梨々に話したのか分からないが、英梨々に絡む問題で加藤がデートに行けなくなってしまったという展開は有り得そう。ただし、この展開は間違いなく英梨々にヘイトが向かうのが難点。そもそも誕生日に加藤が倫也とデートするくらいは英梨々も普通に許しそうな気がする。

英梨々関係で他に有り得るのは、英梨々が再び倒れて倫也が英梨々の元に向かうという展開。フィールズクロニクルの素材提出期限が9月末で死にそうになっているという話が出ていたので、時期的に英梨々が倒れるという展開は有り得ないこともない。ただし、この展開は6巻そのままだし、英梨々が相変わらず成長していないという話にもなりかねない。そして、この展開もやはり英梨々にヘイトが向かうのが難点。というか、キャラクター人気的に英梨々との三角関係に持ち込むのは現実的に難しいかもしれない。

そして最終的に行き着いたのは、作品の根幹にも関わる加藤自身の問題という展開である。今までにない加藤恵という新しいタイプのヒロイン、その魅力を描くことが丸戸史明の本作における一番の目的だと思うが、どうして加藤がこのようなキャラクターになったのかという点について、いわば作品の根幹といえる点については今まで明らかにされてこなかった。彼女が元々フラットな性格をしていて、付き合いが人並み外れて良く、容姿の割に目立たない人物なのだと言えばそれまでだが、それだけで説明できるキャラクターではないように思われるのだ。加藤はなぜ最初から付き合いが良かったのか、なぜサークル活動に没頭していったのか、なぜメインヒロインを目指したのか、なぜ倫也を好きになったのか。

加藤恵の謎を考えて思い至ったのは、彼女が家庭環境に何らかの問題を抱えているのではないかということだ。家庭環境は人格形成に重要な影響を及ぼす要素の一つである。特殊な家庭の事情が彼女の無個性という個性をつくりあげたのではないか。このように考えたのは加藤の家族があまりにも彼女に対して無関心というか不干渉のように思えるからだ。週末になれば倫也の家に入り浸り、平気で外泊してくるにも関わらず加藤を咎めるような気配がない。特に驚いたのは1巻で加藤が家族旅行をすっぽかして倫也のためにメインヒロインを演じたシーンである。このとき加藤は北海道に一週間の家族旅行に来ていたが、その旅行は結婚を予定する加藤の姉が発案した最後の家族旅行であった。あまりにも家族の優先度が低いので、ひょっとして加藤は家族と不仲なのかと疑ってしまうのも無理はない。実際に倫也も同じ発想に至っている。

玄関口で普通に母娘仲良く会話してた!家庭崩壊してなかった!(8巻 P.198)

8巻で加藤の家に立ち寄るシーンの倫也。加藤の家が家庭崩壊しているんじゃないかと冗談半分で少し疑っていた倫也が安心する場面。しかし、娘が朝帰りしてきたのに、しかも帰ってすぐまた出かけるというのに笑顔で見送る母親には違和感を覚える。このような母娘関係に至った背景は分からないが、加藤は家族との間に何となく距離感があるように思える。加藤が家庭環境に問題を抱えているとすると、先に述べた加藤に関する謎も理解できてくる。11巻において倫也は、とてもとても共依存という単語が頭をよぎった、と加藤を評しているが、まさにその通りなのだと思う。これまで倫也は加藤を付き合いの良い女子だと思っていたが、その実態は果たして…。

「ところで加藤、お前さ、あの時どうして朝早くからにあんなとこにいたんだ?お前んちから全然遠いだろ?」

「さあ、もう覚えてないけど……」

8巻において最初に出会ったときのことを話す倫也と加藤のシーン。この物語の始まりにして、最も重要な出会いのイベント。加藤は覚えていないと軽く流したが、新聞配達の時間に自宅から離れた住宅街をオシャレして歩いているというのは、どう考えても特別な用事があったからだろう。それを覚えていないというのは嘘であり、加藤があの時間にあの場所にいたのは何か大きな理由があったのではないか。その理由こそ加藤恵の謎を解き明かす重要な鍵となるのではないか。繰り返し登場している最初のシーンが物語の根幹につながる重要なフラグだったというのは実に丸戸史明らしいと思う。

2016年11月20日日曜日

冴えない彼女の育てかた11巻 感想

冴えない彼女の育てかた 11 (ファンタジア文庫)
丸戸 史明
KADOKAWA (2016-11-19)
売り上げランキング: 24

11巻の内容はいよいよ倫也がメインヒロイン叶巡璃ルートの執筆を始めるというもの。9巻で英梨々、10巻で詩羽先輩のシナリオが完成しているため、これは読み通りの展開。ただし、夏休みの間に美智留と出海ちゃんのルートが完成していたのには驚いた。何のドラマもなくシナリオが完成してるとか、これは英梨々もびっくりの負け組ヒロインぶり。第二部になってもメインヒロインには昇格できないことが明らかになった瞬間であった。ただし、出海ちゃんはイラストで、美智留は音楽で才能を伸ばしており、彼女たちの急成長に倫也も驚きを隠せない。あとは倫也のシナリオ次第というところまで来た感じ。

しかし、倫也は肝心の叶巡璃ルートが書けずにいた。共通ルートから個別ルートに入るイベント番号:巡璃15は巡璃が主人公を意識するようになる最重要イベントであるが、シナリオライターとしての実力がついたことで、どの展開もイマイチだと感じてしまう倫也。まぁ、加藤が倫也を意識するようになったシーンがそもそも作品内で描かれていないから、実体験を元にシナリオを作成している倫也に書けないのも無理はない。そして伊織や紅坂朱音にも相談した挙句、倫也が頼ったのはメインヒロイン張本人であった。

深夜いきなり加藤に電話して協力を求める倫也も大概だと思うが、何だかんだ言いながら乗り気な加藤も大概だと思う。個別ルートに分岐する前に共通ルートから見直すことになった二人であったが、これまでの出来事について倫也は加藤から壮絶なダメ出しを食らう。

「そもそもこれ、主人公の造形に無理があるよね。こんな語りたがりで自分の主張を押しつけまくってウザい主人公、好きになる女の子なんていないんじゃないかな?」

「じゃ、じゃあ、どうすればいいのか、教えてくれないか……?」

「そうだなぁ……とりあえず、今までの主人公の行動とかセリフをチェックして、もうちょっと好感持てる主人公に直していかない?」

「こ、これまでの主人公……変えちゃうの?」

フラットでブラックな加藤にタジタジになる倫也。最初のゲーム合宿に始まり、六天馬モールでのデートと、加藤のダメ出しは止まるところを知らない。そして共通ルートの見直しをしていく中で、これまでの倫也について加藤がどう思っていたかが明らかにされていく。倫也は去年の冬コミの時点で巡璃(加藤)が少しくらいは主人公(倫也)に好意を持っていたのではないかと持論を述べるが、加藤は「あ~、それはないね。うん、この時点では絶対ない」と一刀両断。そして倫也の英梨々に対する気持ちを逆に問い詰めていく加藤。まぁ、倫也は一度英梨々のことを選んでるし、加藤が英梨々を必要以上に警戒するのも無理はない。ただし、共通シナリオのダメ出しを終えて、いよいよ個別ルートに分岐するところから、この巻の本番が始まる。どんな主人公なら良いのかと倫也に問いかけられた加藤はこう答える。

「あ、でも、少しでいいから、嬉しいことや、ドキっとすること言ってくれたり、わたしを大切に思ってる気持ちを伝えてくれたら、それでいいかな?」

「ただ、ほんのちょっとだけ、足りなかったんだよ。下げて、下げて、下げた後の、たまに上げてくれる、一言が……」

「別に、告白なんていらない。ただ、ほんのちょっと、好きになるきっかけでいい。何気ない言葉が、欲しいの。え?そんなんで好きになっちゃうんだ……って、そんな言葉が、欲しいの」

この言葉がもはや告白じゃないかというレベル。ここから二人の間の空気感は劇的に変化する。加藤に対する倫也の回答は、加藤の顔が見たいというものであった。これ以降の倫也は本気モード。ヘタレ主人公の仮面を脱ぎ捨てた彼は、とても倫理くんとは呼べないくらい強引に加藤に迫る。「なんか、顔、見たい」という倫也の要望に対して加藤の回答は少し間が空く。初めこそ倫也の申し出をやんわりと拒絶したものの、いつもと違う雰囲気で迫ってくる倫也に対して、ついに加藤は「……なんだかなぁ」という言葉とともに倫也の要望を受け入れる。スカイプの画面に映った加藤の表情に倫也の意識は吸い寄せられた。彼女の表情は…。

このシーンは間違いなく冴えカノにおける一つのクライマックスだ。表紙の加藤は倫也に顔が見たいと言われたシーンに間違いない。結局、加藤は目立たない自分をメインヒロインとして特別に思ってくれた倫也のことを最初から意識していたのだろう。ただし、その気持ちを恋愛感情に変化させるきっかけがなかった。加藤も言ってるように、ほんのちょっとだけ足りなかったのである。7巻における倫也と加藤の和解シーンも一つの転機であったが、ついに11巻にして倫也の短くも核心を突いた言葉によって加藤は完全に倫也を好きになってしまった。まぁ、倫也を本気にさせたのはそもそも加藤の言葉がきっかけなので確信犯という感じではあるが。その後の二人はまるで今にも付き合いそうな雰囲気。公園のシーンとかキスするんじゃないかと思って冷や汗かいた。しかし、その後のスカイプのシーンでそれ以上の悶絶を味わわされることになった。

そしてエピローグ。倫也を意識するようになってしまった加藤は深夜の本読みを中断したいと言い出す。この辺りが意外と初心な感じで、またしても悶絶する。加藤の申し出を了承した倫也であったが、やはり今回の倫也は一筋縄ではいかない。9月23日は加藤の誕生日。誕生日のお祝いを口実に倫也は加藤をデートに誘う。どうにかフラットを装っていた加藤もついに降伏してデレ始める。あれ、これ付き合うの確定した?「俺と黒猫は恋人になった」のシーン再来かと身構えたが、さらに予想の斜め上を行く展開に。9月23日の12時。待ち合わせ時間の少し前。雑音のせいでなかなか声が聞き取れない一本の電話によって、物語は起承転結の転を迎えたことが告げられた。

これは冴えカノ史上最も先が気になる終わり方…。まぁ、このまま加藤と上手くいくっていうのは、筆者が丸戸史明なので有り得ないとは思っていたが。ヒロインが事故で死んじゃったりとか、病気で死んじゃったりとか、とにかく死んじゃったりとか、不吉なフラグが立っていたから恐ろしすぎる。流石に加藤死亡はないと思うけど、加藤に何かアクシデントがあってデートに行けなくなったというのが一番ありそうな展開か。本人に何かあったのか、加藤の家族に何かあったのか、それとも親友の英梨々に…。ただし、英梨々は6巻で一度倒れているから、今回も英梨々関連というのは考えにくいところ。そもそも誰から誰への電話なのかもはっきりしていない。加藤から倫也への電話というのはミスリードで、倫也から加藤への電話、あるいは英梨々から加藤への電話という可能性も有り得る。

2016年11月6日日曜日

東北電力の経営戦略

ハーバード戦略教室
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シンシア モンゴメリー
文藝春秋
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中小企業診断士の勉強をしていると、いずれは渡米してMBAに挑戦なんて夢が膨らんでくるが、冷静に考えて外国語で経営学を勉強するとか不可能に近い。MBA気分を味わうべく11月初頭の休日を費やして読んだのがハーバード戦略教室。実は2年前にも読んでいるのだが、今読んでみると考えが結構変わってくるのが面白い。ハーバード・ビジネス・スクールの教授が書いているだけあってマイケル・ポーターの考えが随所に見られる点とか、そもそも戦略ではなくリーダーシップについて書いた本ではないかという疑問とか、お茶の水女子大学出身らしい翻訳家が内容を正しく理解していないのではという疑惑とか、以前より客観的というか斜に構えて読んだ気がする。しかし、企業に存在意義を与えることこそ経営戦略であるという要旨は王道ではあるが不変の真理だろう。

さて、ここで電力会社の存在意義は何か考えてみる。簡潔に述べると、低廉かつ安定的な電力供給を行うことで地域、国家の発展を支えること、という答えになるだろう。産業と生活に欠かせない電力供給を通じて地域が発展し、地域が発展することで電力会社は成長していくことができる。「東北の繁栄なくして当社の発展なし」というのは東北電力の社是である。しかし、電力産業が花形産業であったのは高度経済成長の時代からバブル崩壊までであった。電力需要は経済成長と高い相関性を持つためである。日本の経済成長は減速し、地方経済の停滞は特に著しい。現在の日本は人口減少時代に突入しており、産業革命に匹敵するイノベーションでも起こらない限り、かつてのような経済成長を目にすることは難しいだろう。

原子力発電所の停止、電力の小売全面自由化、送配電部門の法的分離も大きな問題であるが、東北電力のような地方の電力会社が直面する最大の課題は経済の縮小に伴う電力需要の減少である。2050年までに東北電力管内の人口は3割程度減少することが見込まれている。電力需要の減少によって深刻な影響を受けるのが送配電事業である。インフラ事業は薄利多売が基本であり、設備形成に要する膨大なコストに対して得られる利益はごく僅かなものである。発電事業は需要が減っても発電所を減らすことで対応できるが、送配電事業は需要が減ったからと言って設備をそのまま減らせるわけではない。どのような山奥でも需要がある限り、設備を形成して維持するのは電力会社の義務である。多少のコスト削減では3割の需要減少を賄うことはできない。

低廉な電力供給を続けるためには送配電設備を縮小していくことが避けられない。これは電力事業に限らず全てのインフラ事業において同様である。JRが不採算路線から撤退するように、電力会社も採算の合わない地域からは撤退せざるを得ない。しかし、人が住んでいる地域から電気を奪うことは現実的に不可能である。そこで電力会社は自治体と協力してコンパクトシティの実現に向けて動くことが必要だと思う。コンパクトシティは産業や生活に関わる諸機能を都市の中心部に集約することで、効率的な都市運営を図っていく考えである。人口減少が既定路線であるとすれば、いずれ行政も自らの存亡を賭けてコンパクトシティの実現が必要になる。東京電力でも関西電力でもなく、深刻な人口減少に直面する地方の電力会社が先陣を切ってこの問題に対応するべきだろう。深刻な危機に直面する東北電力だからこそ、コンパクトシティの実現によって送配電事業の効率性を一早く高められる可能性がある。

また、小売事業においてはガスや水道といった他のインフラ事業者と提携していくべきである。小売事業は送配電事業ほど深刻な危機に直面していないが、現状のままでは需要の減少によって効率性が低下していくのは避けられない。そこで同じような営業と料金の体系を持つガスや水道の事業者と提携して小売事業を統合する。範囲の経済によって規模の縮小に対応していく考えである。ガス事業や水道事業は自治体が営んでいることが多いため、上記のコンパクトシティ政策と合わせて自治体と協力していくことが望まれる。東京電力や関西電力は他電力管内への越境販売に積極的であるが、エリア外に営業網を持たない地方の電力会社が首都圏で直接小売事業に乗り出すのは非効率であり、小売事業はエリア内に集中すべきだろう。

エリア外において直接小売事業に乗り出すことには反対だが、一方で電力の越境販売は地方電力会社の成長に欠かせない。東北電力の強みは最大の電力消費地である関東に隣接することである。既に東京ガスとシナジアパワーという合弁会社を設立して、北関東において高圧需要の獲得に乗り出しているが、東京ガスとの提携はさらに深化させていくべきだろう。東北における需要の減少を関東への越境販売で補うことが東北電力の成長には欠かせない。東京ガスは関東において強固な営業網を有しており、電力自由化後のスイッチング件数においてトップを走る存在であることからも、関東において東京電力に対抗可能な唯一の企業であると考えられる。

そして最後に電力会社の将来を左右するのが電源構成である。原子力発電に特化した関西電力は福島第一原子力発電所の事故が起きるまでは競争力の高い電力会社であったが、現在では原子力発電への依存度が低い中部電力にその地位が移っている。方向性は大まかに三通りあると考える。一つはLNG火力を中心とした電源構成であり、中部電力と東京電力が目指す道である。両社は燃料調達と火力発電所の新設事業を統合したJERAという合弁会社を設立しており、スケールメリットによってLNG火力の競争力を高めようとしている。一方、関西電力を中心とした西日本の電力会社は今後も原子力の維持を目指していくと思われる。事故を起こした沸騰水型ではなく、加圧水型の原子炉を採用しているため早期の再稼働が見込まれるためである。また、中部電力と東京電力がLNG火力においてスケールメリットを追求している以上、関西電力は消去法的に原子力を切り札にせざるを得ない。

しかし、東北電力が選択すべき道はどちらでもない。LNG火力は今後も電源構成の中心であり、女川と東通の再稼働は目指すべきだと思うが、特に注力すべきなのは再生可能エネルギーである。具体的には太陽光を除いた水力、風力、地熱、バイオマス四種類の電源である。再生可能エネルギーにはLNG火力や原子力に対抗できる価格競争力はないが、政策的支援によって今後も成長が見込まれる電源だと考える。東北は再生可能エネルギーの宝庫であり、再生可能エネルギーは規模の割に立地地域の経済を活性化させる効果が高い。電源開発そのものが雇用と消費を生み出すだけではなく、開発後も風力であれば風車が観光資源となり、バイオマスは林業の活性化につながる。再生可能エネルギーの買取価格は全国の電気料金に賦課されるため、東北で再生可能エネルギーを開発すれば開発するほど東北の経済が潤う。一方で再生可能エネルギーは環境破壊につながる可能性もあり、電源開発においては地域との信頼関係構築が欠かせない。立地地域との調整能力に秀でた電力会社こそ再生可能エネルギーの開発においてメインプレイヤーとなりうる存在であり、その中で条件の良い位置にあるのが東北電力だと思う。東北の繁栄を存在意義とするのであれば、再生可能エネルギー開発そのものを東北経済の発展につなげていくべきではないか。そのときには東北電力は地域とともに未来をひらく存在となるだろう。

2016年11月5日土曜日

もしハプスブルク家がドイツ統一を果たしていたらPart2

もしハプスブルク家がドイツ統一を果たしていたらPart1の続き。ドイツ帝国とアメリカ合衆国の協調によって第二次世界大戦の勃発は未然に防がれた。両国は表向きの友好関係を保ちつつ、世界規模の軍事同盟を構築して冷戦時代に突入していく。冷戦構造の基盤となるのは独露同盟と米英同盟の対立である。19世紀まで宿敵関係にあったドイツ帝国とロシア帝国はロシア革命を契機に同盟関係へと発展し、ロシア帝国はドイツ帝国の支援を受けて近代化を果たし、ドイツ帝国もアジアに強い影響力を持つロシア帝国との同盟は覇権構築の礎となっている。ドイツ帝国にとってロシア帝国は地政学的に宿命的なライバル関係にあるため、逆説的にロシア帝国と同盟を結ぶことでドイツ帝国は最大の安全保障効果を得ることができる。ドイツ帝国とロシア帝国の同盟を相手に陸軍力で優位を得るのは不可能に近い。人的資源に恵まれたドイツ帝国と物的資源に恵まれたロシア帝国は相互に不足する資源を補うことのできる経済的にも最適なパートナーである。

一方、米英同盟は独露同盟に対抗して生まれた後発の同盟関係である。ドイツ帝国と大英帝国の覇権競争はドイツ帝国の勝利に終わり、大英帝国は中華民国とペルシャを手放すこととなった。自由貿易を求めるアメリカ合衆国と植民地において保護貿易を実施する大英帝国は経済的な敵対関係にあったが、膨張するドイツ帝国に危機感を抱いたアメリカ合衆国は大英帝国との同盟を選択する。ドイツ帝国とロシア帝国がランドパワーの筆頭であるとすれば、アメリカ合衆国と大英帝国はシーパワーの筆頭である。アメリカ合衆国との同盟によって大英帝国は世界に散らばる植民地帝国を維持することができる。また、アメリカ合衆国は大英帝国の植民地にアクセスすることで世界一の経済大国として十分な市場を確保することができるようになる。

米英同盟にとってヨーロッパにおいて最も重要な国がフランス共和国である。ドイツ帝国はイタリア王国とスペイン王国の北アフリカ侵攻を支持する中で両国と同盟関係を構築している。包囲される形となったフランス共和国が敵対陣営の侵攻を受けて陥落すれば、米英同盟はヨーロッパ大陸への橋頭堡を失ってしまう。アメリカ合衆国、大英帝国、フランス共和国、デンマーク王国、ノルウェー王国、ポルトガル王国は第二次世界大戦の勃発に備えて北大西洋条約機構を構築し、フランス共和国を拠点にドイツ帝国の軍事的脅威に対抗している。一方、ドイツ帝国もロシア帝国、イタリア王国、スペイン王国、スウェーデン王国と共にワルシャワ条約機構を構築し、ヨーロッパを分断する二つの軍事同盟が生まれる。

第一次世界大戦の教訓から両陣営はヨーロッパにおいて戦火を交えることはないが、ヨーロッパの裏庭となっている中東と北アフリカでは別の話である。旧領の奪還を目指すトルコ共和国とアラブ民族主義を掲げるエジプト王国はシリアを舞台に紛争を繰り広げ、宗主国であるドイツ帝国と大英帝国の代理戦争の様相を呈している。大英帝国から独立を果たしたペルシャ王国はドイツ帝国の支援を受けており、シーア派地域の統合を目論んでイラクやアラビア半島への侵攻を繰り返している。第一次世界大戦によってドイツ帝国が獲得したパレスチナはドイツ系ユダヤ人の植民地として発展し、領域の拡大を目指してエジプト王国を筆頭とする周辺アラブ諸国との紛争を引き起こしている。北アフリカではリビアに続いてエチオピアの領有に成功したイタリア王国が勢力を強めており、北アフリカに既得権益を持つフランス共和国との対立を深めている。

西アジアと同様に東アジアでも熱戦が展開されている。ドイツ帝国とロシア帝国の支援を受けて北伐に成功した蒋介石の中華民国は大日本帝国の満州侵攻に直面する。近代化に成功したアジア唯一の国を前に中華民国は敗戦を重ね、満州占領と華北侵攻の憂き目に遭う。中華民国はドイツ帝国とロシア帝国の支援を要請し、日中戦争は列強間の戦争へと発展する。最終的に大日本帝国は朝鮮半島への撤退を余儀なくされるが、敗戦によって蒋介石の指導力は失われ、中華民国は再び軍閥が割拠する時代に戻る。ドイツ帝国が華北、ロシア帝国が満州を事実上支配するようになり、敗戦を経て大日本帝国はアメリカ合衆国との同盟締結に至る。

自由貿易を標榜するアメリカ合衆国は同盟国となった大英帝国、フランス共和国、大日本帝国といった列強に植民地の解放を求めた。アメリカ合衆国が率先してフィリピンの独立を承認すると、アジアとアフリカでは植民地の独立運動が盛んとなり、世界最大の植民地帝国を有する大英帝国も独立後の影響力確保を目論んで独立運動に正面から抵抗することはなかった。ドイツ帝国の陣営も植民地問題で第三世界を敵に回すことを恐れ、1940年代後半から陣営を問わず植民地の独立が進んでいく。植民地は独立を果たしたものの、経済的には旧宗主国への従属を強いられ、政治的にも冷戦構造に組み込まれていく。

冷戦は本質的にランドパワーとシーパワーの対立が基盤となっており、両陣営の攻防はリムランドを中心に行われていたが、1950年代に入るとアメリカ合衆国の裏庭となっていたラテンアメリカも冷戦対立の戦場となる。ラテンアメリカは事実上アメリカ合衆国の支配下にあり、ドイツ帝国はラテンアメリカに根差す反米主義を利用して搦手からアメリカ合衆国に戦争を仕掛ける。反米主義の筆頭はラテンアメリカ唯一の白人国家アルゼンチン共和国である。アルゼンチン共和国を拠点にドイツ帝国はラテンアメリカにおける反米闘争を展開し、ラテンアメリカ諸国を内戦の渦中に陥れていく。